16 暗黒竜王VS天翼覇竜6
『神殿のシステムを流用すれば、あなたの「精神力」を素材として「真の暗黒竜王」の体を形成できるわ』
と、ナビ。
『ただし、完全体を再現するには「魂」や「精神力」の量がまるで足りない。生贄を捧げれば、また違うかもしれないけど──』
生贄。
その言葉に、俺は暗黒竜王の話を思い出した。
かつて二度、俺は『真の暗黒竜王』の力の一端を具現化することができた。
そのいずれもが、仲間の死という代償を経てのことだった。
だが、今回は──いや、これからも。
仲間を犠牲にして力を得る、なんて手段を使うわけにはいかない。
絶対に。
──生贄は却下だ、ナビ。
『でしょうね。それなら、やっぱりあなたの「精神力」だけで戦うしかない』
ナビが言った。
『そのためには──』
と、一つの作戦を告げる。
……なるほど。
うまく立ち回れば、いけるかもしれないな。
そのためには──奴の注意を『本命の攻撃』から逸らすことだ。
『ミラ、これから奴を倒すために最後の攻撃をする』
「ドラゴンさん……?」
『協力してくれるか? コレットやリーリアに伝えてくれ』
俺は作戦の詳細をミラに伝え、彼女がコレットとリーリアにそれを伝える。
『ふん、相談は終わったのか?』
天翼覇竜が吠えた。
『いくらでも策を弄するがいい。俺はそのすべてを正面から叩き潰す。魔導王様の側近の誇りにかけて──』
そして。
最後の攻防が、始まる。
俺はじりじりと天翼覇竜に近づいていく。
ミラたちは後方待機だ。
『ふん、一対一か。まあ、たかが人間が今の俺に立ち向かうことなどできまい』
人間を、侮るなよ。
俺は奴をにらみつつ、さらに前進。
天翼覇竜はまだ仕掛けてこない。
俺がどう攻撃するのかを見極めるつもりか。
あるいは、いたぶって殺そうというのか。
どちらでも構わない。
その余裕が──お前の命取りだ!
俺はいきなり背後を向くと、青白いドラゴンブレスを吐き出した。
『むっ!?』
『滅びの光芒』を推進力にして加速しながら飛ぶ。
天翼覇竜に向かって一直線に。
『特攻か? だが、貴様の体格で俺に太刀打ちできると思うな』
体格は問題じゃない。
くらえ、『大罪の火炎』!
俺は空中で体勢を変え、炎のブレスを吐き出した。
さらに、
「【スキルブースト】!」
「【エクスブラスト】!」
コレットとリーリアが連携して上級破壊呪文を繰り出す。
『同時攻撃か! だが、無駄だ!』
そのすべてが奴の全身を覆う竜戦気に弾かれてしまう。
さすがに、防御力が高い──。
俺は爆炎に向かって突き進み、さらに距離を詰めた。
ようやく肉弾戦の間合いだ。
しかも、こっちは最高速に近い。
『本命は突進からの一撃か? だが、それも無駄だ』
勝ち誇る天翼覇竜。
『しょせん、俺の竜戦気を貫くことはできん』
──どうかな。
俺は右前脚を突き出す。
スキル【爪撃】──発動!
『連携攻撃の間に距離を詰め、突進とスキルの合わせ技で一撃必殺──か? だが、それでも届かんよ。竜戦気の防御能力は──』
俺は天翼覇竜の口上など無視し、ナビに合図を送った。
いまだ、やれ!
『システム起動──ガルダ・バールハイトの「精神力」を「真の暗黒竜王」の肉体として再構成!』
叫ぶナビ。
ヴ……ン!
神殿全体が低くうなるような音を立てた。
同時に、俺の右前脚に黒い輝きがまとわりつく。
『それは──』
天翼覇竜が驚きの声を上げた。
俺の右前脚が数倍に巨大化し、先端部の爪が剣のように伸びた。
『真の暗黒竜王』の爪を使っての、攻撃スキル【爪撃】──。
これこそが本命の攻撃だ。
いくつも攻撃手段を重ねたのは、奴の意識をここから逸らすため。
黒く輝く一撃が、天翼覇竜の胴体部を貫いた。
『ば、馬鹿な……!?』
呆然とうめく天翼覇竜。
深々と貫いた爪を引き抜き、俺は鱗の割れ目に向かってとどめのドラゴンブレスを連打する。
『滅びの光芒』が奴の体内を貫き、『大罪の火炎』が、奴の体内を焼き溶かした──。





