1 森での生活
俺が『暗黒竜王』に転生してから二日が経った。
人間からドラゴンに転生した戸惑いは、今も残っている。
だけど、自分でも意外なほどその事実には順応していた。
俺の祖国エレノアに侵攻し、大勢の人間を殺した相手──魔導王とその軍団への憎しみは、ドラゴンになった今も変わらない。
何せ俺自身も、魔導王が率いるモンスター軍団に殺されたようだからな。
ただ、今の俺がエレノアに戻って魔導王軍団に戦いを挑んだとして、どう考えても勝てるわけがない。
まずは俺が強くなることだ。
『暗黒竜王』の称号にふさわしい強さに。
魔導王軍団を蹴散らせるくらいの強さに。
で、とりあえずは安全確実に経験値を稼ぎつつ、上手く隙をつけたら高レアリティのモンスターを狩って進化の宝玉を得る──というのを基本戦略にした。
周辺に生息するモンスターだと、ブルーゴブリンやグリーンゴブリン、イーヴィルウルフ、デッドリーバード辺りが鉄板だろうか。
この辺は、今の俺なら確実に勝てる。
しかも基本的に単独か、せいぜい数体で行動するタイプだ。
ナビから情報を聞きつつ、狩りを続けてきた俺は、すっかり周辺のモンスター生息事情に詳しくなっていた。
そうやってチマチマと経験値を稼ぎ、二日のうちに俺はレベル4まで上がっていた。
『今までより必要経験値が上がっているはずだけど、その割に順調ね。うーん……?』
ナビが訝しげにうなる。
どうしたんだ?
『レベルアップに必要な経験値って、私にも分からないのよ。ただ今までに得た経験値ではここまでのレベルにはならないはず』
と、ナビ。
『あなたは本来の必要経験値より少ない経験値でレベルアップしている……ってことかな? ただ、その理由が分からない』
「っ……! ぁぁぁ……きゃぁ……た、助け……ぅああああぁぁぁぁ……っ」
そのときどこかから悲鳴が聞こえてきた。
ナビ、さっきの話はいったん終わりにしよう。
今の悲鳴は、どのあたりからしたか分かるか?
『計測──完了。ここから東南東方向に1キロほど行った先ね』
「行ってみよう」
俺はナビが言った方向に進んでいった。
『今の悲鳴が気になるの?』
……助けを求めるような声だったからな。
騎士だったころの習性だろうか。
見過ごすことはできなかった。
「あれは──」
どうやら小さな集落をモンスターが襲っているようだ。
人々が悲鳴を上げて逃げ惑っている。
身長4メートルほどの鬼型モンスター──『パワードオーガ』である。
あまりこの辺りには生息していない個体なんだが、ここには全部で六体ものパワードオーガがいた。
そして、そんなパワードオーガと十数人の騎士や魔法使いが戦っていた。
さっきみたいな冒険者かと思ったが、よく見れば違う。
騎士はエレノア王国騎士団用の鎧を身に着けている。
魔法使いや僧侶のローブの胸元に刺しゅうされているのは、王国の紋章。
彼らはいずれも王国騎士団や魔法戦団、教団に所属している連中のようだ。
冒険者とは違い、王国に仕える選りすぐりのエリートたち。
さすがに、強いな。
俺は彼らの戦いぶりに感嘆した。
一糸乱れぬ連携。
そして個々の戦闘能力。
いずれも一級である。
中でも、目を引くのは三人の少女たちだった。
一人は騎士。
一人は魔法使い。
一人は僧侶。
「スキル【乱れ斬り】!」
少女騎士が目にも留まらぬ連続斬撃を放つ。
「【ウィンドカッター】!」
少女魔法使いが風の刃でオーガたちを切り裂く。
「【プロテクション】!」
一方で敵の反撃は、少女僧侶が繰り出した防御力アップの呪文によって、簡単にはじき返されてしまう。
「終わりね──」
少女騎士が剣を手に、オーガたちに向かっていく。
繰り出した斬撃は、正確に彼らの頭部を刎ね飛ばした。
「ふう、これで全部倒しましたね」
「さっすが、ミラ。つよーい」
魔法使いの少女が歓声を上げた。
「あなたもでしょう、アビー。あたしの剣が届かない間合いの敵を、全部魔法で倒してくれました」
「まあ、私もいちおう魔法戦団の若きエースなんて言われてるし。騎士団のエースのミラに負けてらんないかなー、って」
「……エースは、あたしなんかじゃありません」
「えっ」
「『騎士の中の騎士』ガルダ・バールハイト様。あの方こそ、王国最強の騎士……先の魔導王侵攻で戦死されたと聞きますが」
どくんっ……!
俺の胸の奥が激しい鼓動を打つ。
騎士の中の騎士。
ガルダ・バールハイト。
まさか、それは──。
俺の前世、か。
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