8 最深部
突然、床が崩れ落ち、俺たちはすさまじい勢いで落下していった。
十メートル……二十メートル……三十メートル。
俺は足元を注視する。
ドラゴンの視力は人間よりもはるかに優れていて、闇の中でも明るく見通すことができた。
が、いくら注視しても底が見えない。
どれだけ深いんだ、この穴は──。
と、百メートル以上も落ちたところで、ようやく底が見えてきた。
スキル【飛行】──発動!
俺は四枚の翼を羽ばたかせ、重力を軽減する。
そのままゆっくりと着地した。
「た、助かりました、ドラゴンさん」
「ふう、墜落死しなくてよかった」
「ドラゴンが仲間でよかったよ」
ミラ、コレット、リーリアがそれぞれ言った。
俺は彼女たちをいったん背から下ろすと、周囲を見回した。
なんだ、ここは……?
今まで狭い石の通路を進んでいたはずだ。
なのに、ここは頭上に青空が、足元には地面が広がっている。
ずっと穴の中を落ちていたはずなのに、いつの間に外に出たんだ……?
──突然、頭の中に雷鳴のような衝撃が走った。
あ……ああ……ああああああああ……あああああああああああああっ!
声にならない絶叫。
あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
そう……だ……。
思い、出した……ぞ。
俺は、この風景を知っている……!
初めて見る場所のはずなのに。
なんだ、この異常なほどの『懐かしさ』は……!
まるで、故郷にでも帰ってきたような感覚だった。
ナビ、ここはどこだ?
一体、どこなんだ──。
『記憶がよみがえりつつあるみたいね』
ナビが言った。
記憶……?
『あなたの中にはいくつもの記憶欠損がある。覚えがあるでしょ? たとえば、文字が書けなくなったりとか』
……確かに、そんなことがあったな。
『この場所に来て──この場所を鑑定して、私にはだんだんと分かってきたわ』
分かるって、何をだ──?
『人間だったときのあなたが死んで、暗黒竜王として生まれ変わるまでの間に、空白期間があるでしょう?』
空白……期間?
そうだ、確かに──。
俺はかつてエレノア王国の騎士として魔導王の侵攻に立ち向かい、戦死した。
その後、今の姿に生まれ変わったわけだが、どうやら転生までに一か月程度の空白が生じているようだ。
ナビが言ってるのは、その期間のことだろう。
『その一か月であなたの魂は少しずつ変容し、暗黒竜王を受け入れられる器に成ったの。記憶の欠損は副作用みたいなものね』
じゃあ、この風景を懐かしく感じるのは?
『転生の際、あなたの魂はいったんここに運ばれたのよ。つまり、あなたが暗黒竜王として新たな生を受けた場所、ってことね』
俺がここで暗黒竜王になった──?
『そもそも、この神殿全体が転生のための巨大装置なのよ』
ナビが言った。





