6 天翼覇竜、出撃
SIDE 魔導王
「暗黒竜王がエレノアに戻ってきた」
魔導王がうめいた。
「すでに神樹伯爵に続いて、機甲巨人も討たれた。暗黒竜王の力──不完全とはいえ、やはり侮りがたい」
『幹部モンスターも残るはあたしたちだけか~』
言ったのは、十代前半くらいの可憐な少女だった。
その髪は無数の蛇でできている。
石化魔女の眷属、『聖蛇姫』だ。
(そうだ、側近は残り二体……)
樹木型モンスターの『神樹伯爵』に超巨大ゴーレムの『機甲巨人』。
いずれも暗黒竜王に討たれてしまった。
一騎当千の戦闘能力を備えていた二体の損失は大きい。
とはいえ、
(配下などまた作ればよい。手間さえかければ、いずれ奴らと同レベルのモンスターは作成可能だ)
だが、暗黒竜王はそうではない。
いかに世界最強の魔法使いである彼とて、作成など不可能。
神や悪魔と同等の──あるいはそれ以上の、超越者なのだ。
だからこそ、欲しい。
たとえ配下のすべてを犠牲にしても、なんとしても。
と、
『報告によれば、我が配下──ヤングドラゴンの一隊が全滅したとのこと。奴もヤングドラゴン級に成長しているようですが、その戦闘能力はエルダードラゴン級か、それ以上かもしれません』
上空から巨大な竜が告げる。
エルダースカイドラゴンの『天翼覇竜』である。
成竜とはいっても、彼は魔導王による魔導改造を施された特別製で、戦闘能力なら老竜をも凌ぐ。
「奴はラシェルからエレノアに入った。わざわざ戻ってきたのは、余の居城まで一直線に攻め入って来るのか、あるいは──」
魔導王は感知呪文【エクスサーチ】を唱える。
彼らの存在を感じ取り、その進行方向を見切る。
「……方角が違うな」
魔導王は眉を寄せた。
「奴め、『神殿』に行くつもりか」
『神殿?』
きょとんと首をかしげる『聖蛇姫』。
「千年前、暗黒竜王はこのエレノア王国で復活した。その出現場所の跡地に、神殿が建立された。それが『暗黒竜王の神殿』だ」
魔導王が説明する。
「そこには『暗黒竜王』に関する様々な情報が眠っている」
『つまり、奴は己の力を解明するために──より強大な力を得るために「神殿」へ向かっている、と?』
たずねる『天翼覇竜』。
「だろうな。『天翼覇竜』よ、汝の飛行能力ならば先回りできよう。奴を迎え撃て」
魔導王が命じる。
「これ以上、奴を成長させるわけにはいかん。『神殿』行きを阻止し、その上で生け捕りにするのだ。できるか?」
『我が忠誠にかけて!』
言うなり、『天翼覇竜』はすさまじいスピードで飛び去っていく。
「頼むぞ」
魔導王は小さくつぶやいた。
『天翼覇竜』の戦闘能力は、軍団でも随一だ。
それでも──もはや絶対に勝てるとは言えない。
「奴がここまで来るかもしれん。そのための『準備』を進めねばならぬな」
暗黒竜王との最終決戦に備えて。





