14 出現
俺はミラたち四人を乗せて空を進む。
全身に受ける風の感じが、少しずつ変わってきた。
カラッと乾いた爽やかな風が、少しずつ湿度を含んだ寒風へと。
眼下の風景も、一面の草原から次第に切り立った岩や山が増えてきた。
「もうすぐだね」
コレットが言った。
「ああ、情報が確かなら、この先にあるのが目指す『暗黒竜王の神殿』だ」
と、うなずくリーリア。
彼女たちはウマがあうのか、この旅の間に随分と仲良くなったようだ。
「リーリアは他人とめったに打ち解けないのに珍しいですぅ」
キュールが笑う。
「はは、なんだかコレットとは妙に話しやすくてな」
「あたしも同感。リーリアと話してると楽だね」
微笑み合う二人。
美少女二人が笑みを交わし合っている様は、非常に絵になる。
──と、そろそろ【大飛行】の航続限界だな。
俺は羽ばたくのをやめて滑空モードに入った。
翼の角度を調整しつつ、軟着陸する。
この辺りの飛行技術は知識として教わったわけじゃない。
俺自身の体が飛び方を熟知している──という感覚だ。
「今の待機時間が終わったら、さっそく飛行再開しないか」
と、リーリア。
「うまく行けば、次の飛行時間内に目的地まで着けるんじゃないか」
さっきまでの歓談モードから、ふたたび普段のクールモードに変わっている。
「ここまでありがとうございました、ドラゴンさん、もう一息ですからがんばってくださいね」
ミラが俺の頭を撫でてくれる。
というか、彼女は俺が休息するごとにこうして声をかけ、頭を撫でてくれていた。
気遣ってくれてるんだろう。
優しい心根は、姉のカレンそっくりだった。
ごごごごごごごごっ……ぉぉぉぉっ……!
突然、地響きがした。
これは──?
「み、見てください、あれを……!」
ミラが震える声で言って、前方を指さした。
コレットも、リーリアも、キュールも、息を呑んでいる。
最初、それは山に見えた。
前方にそびえる、雄大な山。
だが、違う。
その山はゆっくりと前進し、近づいてくる。
その山は手足を備え、胴を備え、憤怒の表情を浮かべた顔を備えていた。
巨人。
そう、身長100メートルを超えるような巨大な人形だ。
『ここから先へは行かせんぞ、お前ら!』
巨人が吠えた。
こいつは──。
俺は全身が炎のように燃え上がるのを感じた。
湧き上がる激情──。
怒り、憎しみ、悲しみ、喪失感。
こいつは──あの日、王国を襲った巨人の一体。
身長100メートルを超えるゴーレムは他にいなかったし、間違いはないだろう。
カレンの、仇だ。
『俺は魔導王様の側近「機甲巨人」!』
奴が名乗る。
魔導王の側近……つまり、以前に戦った神樹伯爵と同レベルのモンスターか。
『そこの竜に用がある。俺とともに来てもらおう』
俺に……?
巨人の言葉に訝しむ俺。
『残りは不要だ。今、まとめて踏みつぶしてやろう──』
機甲巨人が踏み出す。
そう簡単にミラたちをやられてたまるか。
だがあの巨体に生半可な攻撃は通用しないだろう。
手持ちの攻撃スキルをあらためて確認してみる。
『滅びの光芒』LV4。
『災いの波動』LV3。
『大罪の火炎』LV1。
『大罪の氷雪』LV1。
以前よりステータスもスキルの力も上がっているとはいえ、魔導王の側近クラスを相手にどこまで通じるか。
今の──『真の力』を使えない状態の俺で、どこまで戦えるか。
ええい、考えていても仕方がない。
まずはぶつけてみるんだ、俺の全力を。
その上で次の策を練るしかない。
俺は大きく飛び上がった。
使用したスキルは【大飛行】でなく【飛行】の方である。
スキル【大飛行】は航続距離は長いがクールタイムも相応に長い。
戦闘においては通常の【飛行】のほうが使い勝手がいい。
スピードなら、俺の方が上。
空中を不規則に飛び回りつつ、巨人の死角からブレスを放つ。
まずは『滅びの光芒』だ。
が、俺が放った青白い光線は、巨人の表皮にあっさりとはじき返された。
「通じない──」
俺が思った以上に機甲巨人の防御力はすさまじいようだ。





