10 それぞれの動き
「ああ、ラシェルに現れ、逃走中の竜を討つ」
アーバインは苦い気持ちを押し殺し、平然と告げた。
「あれは『世界の敵』だからな」
「できれば、我が国を脅かそうとしている魔導王も討っていただきたいものですが……」
魔導王。
それはここ二か月ほどで、世界中に侵略戦争を仕掛けている強大な魔法使いだ。
自らが生み出し、あるいは召喚した無数のモンスター軍団を手勢にいくつもの国を征服したと聞く。
「確かに、彼も『世界の敵』だな」
「けど、それは『神託』には表れてないわね」
マルグリットが言った。
「勇者が討つべき敵は『神託』にて示される──魔導王を討てとの『神託』が出ないかぎり、勝手に勇者の力を使うわけにはいかないのよね~」
「自らの敵を自らの意思で定められない、とは歯がゆい話だけどな。それが勇者の宿命ってやつだ」
ダリルが言った。
「魔導王に関しては列強諸国に力を合わせ、追い払ってもらうしかありませんね」
エルクが言った。
「俺としては、そいつもぶった斬ってやりたいところだ……」
「世界の敵は、神が決めます」
と、エルク。
「神託に従いましょう。現在、世界に征服戦争を仕掛けているのは魔導王、幻獣皇帝、海竜妃の三人。いずれも世界の敵と認定されてもおかしくはありませんが……今のところ、神託での討伐命令は出ていません」
「……分かってるよ。言ってみただけさ」
アーバインはため息をついた。
自分の敵を自分で定められないのは、やはり歯がゆい。
※
SIDE 魔導王
巨大な城の大広間──。
「奴に、逃げられたか……」
魔導王が玉座でうなる。
差し向けた神樹伯爵がここまであっさりと返り討ちに遭うとは、さすがに予想外だった。
どうやら『暗黒竜王』の力は想定していたよりもかなり大きく発現しているらしい。
さすがに、神話の時代に活躍していた全盛時には及ばないだろうが──。
あるいは千年前の復活時程度の強さはあるかもしれない。
それだけでも、十分に──十二分に強大な力だ。
絶対に手に入れたい。
魔導王の望みはエレノア王国や周辺諸国を征服する程度のものではない。
これらの国を手に入れることなど、ほんの手始め。
世界をすべて掌中に収め、今よりもはるかに巨大な力を得て、遠からず神や魔王に挑む。
そして勝利を収め、自分こそがこの世界で唯一絶対の存在となる──。
魔導王の最終目標はそこにあった。
エレノア王国に眠るとされる『暗黒竜王の力』はその足掛かりとなるはずのものだった。
だが、王国侵攻の折、その力の反応が突然消失したのだ。
ひと月近くかけて探知を繰り返した結果、ラシェルの大森林にその力が眠っていることを発見した。
ちょうど神樹伯爵に侵攻を任せていたエリアである。
そこで伯爵に力の奪取を命じたのだが……。
「返り討ちに遭うとは、な」
魔導王が己の魔導の粋を凝らして作り上げた、珠玉のモンスターの一体。
自然系最強のクラスのモンスターである神樹伯爵を。
「だが、それでこそ暗黒竜王だ。余が求める最強にして無敵の力だ」
魔導王の口元に自然と笑みが浮かぶ。
「必ずお前の力を我がものとしてやろう。さあ、次の追手を差し向けるとするか」
幸い、あの暗黒竜王は完全体ではないようだ。
それでもなお圧倒的な戦闘能力ではあるが──。
『王よ、ぜひこの俺に捕獲のご命令を』
進み出たのは身長100メートルを超える巨大なゴーレム。
魔導王の側近モンスターの一体『機甲巨人』だ。
「ふむ」
『暗黒竜王とやらの攻撃力は圧倒的です。生半可なモンスターなら一撃で消し飛ばされ、側近クラスといえども長くはもちますまい。ですが、俺だけは別です』
と、機甲巨人。
『この俺の巨体ならば、奴の攻撃にもある程度は持ちこたえられるはず。そこで反撃を食らわせ、無力化してごらんにいれましょう』





