8 出発
神樹伯爵の他に側近が何体いるのか、その強さにどの程度のばらつきがあるのかは分からない。
伯爵が側近の中で強い方なのか、弱い方なのかも。
とはいえ、ここまで圧倒的な力の差を発揮したんだ。
他の側近が相手でも、まず間違いなく圧倒できるだろう。
そして、側近たちを片づけた後は──当然、魔導王を打倒する。
「ドラゴンさんの……成長……」
ミラはハッとした顔で、俺の言葉をコレットに伝えた。
「……確かに、あのときの力をコントロールできれば……」
つぶやくコレット。
「でも暴走したら、敵も味方もおかまいなしだよ?」
「『暗黒竜王』の力を自在に使うことはできないんですか、ドラゴンさん。あの力は、さっきみたいに暴走状態じゃないと使えないのですか?」
「さっきもその『内なる境界』だっけ? そこで『暗黒竜王』と語らったんでしょ? もう一回聞いてみたらいいんじゃない。力の制御方法を」
と、コレットが提案した。
なるほど、一理ある。
俺は心の中で暗黒竜王に呼びかけてみた。
……返事は、なかった。
『無理よ。さっきの現象はあくまでも「暗黒竜王」が気まぐれに話しかけてくれただけ。私たちの方から通信することは不可能よ』
気まぐれ……か。
「無理らしい」
「……そう、ですか」
俺の言葉にミラがうなだれ、コレットにもその意を伝える。
「うーん……あ、じゃあ、こういうのはどう?」
コレットはすぐに次の案を出してきた。
「『暗黒竜王の神殿』に行くのよ」
暗黒竜王の……神殿?
「千年前の大戦の折、最初に『暗黒竜王』が降臨したとされる場所よ。そこに何かのヒントがあるかもしれない」
千年前の大戦──。
そう、エレノア王国に『暗黒竜王』が復活し、それを勇者が討ったという伝説だ。
「ま、確証はないし、雲をつかむような話になるかもしれないけど……指針が何もないよりはずっといいでしょ?」
……なるほど、そうかもしれないな。
「ちょうど【大飛行】っていう新しいスキルを得たから、それを使って神殿まで飛んでいくか」
「【大飛行】……ですか?」
俺の言葉に反応するミラ。
「陸路で人の多い場所を進むと、モンスター然とした俺は冒険者とかに狙われるかもしれないからな。なるべく人との接触を避けられる空路がベストだろう」
『スキル【大飛行】の連続飛行可能時間はおおよそ三十分程度ね』
じゃあ、三十分ごとに休憩を取りながら飛べばいいわけか。
『そういうこと』
「聞いたか、ミラ。三十分飛んでは休憩して……というのを繰り返しながら、目的地に向かう」
「了解です、ドラゴンさん。コレットにもそう伝えますね」
かくして、俺たちは空路で『暗黒竜王の神殿』を目指す──。





