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暗黒竜王レベル1に転生 いずれ神も魔王も超えて最強の座に君臨する  作者: 六志麻あさ @『死亡ルート確定の悪役貴族2』発売中!
第4章 新たな旅路

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5 内なる境界3

『我が器に足りぬ小物であれば、このまま身も心も魂もすべて飲みつくしてやろう。半端なものに我が力を振るわせたくはない』


 飲みつくす──だと。


「俺にはまだやり残したことがある。このままお前の中に意識を飲みこまれるわけにはいかない」

『やり残したこと?』

「俺の故郷を滅茶苦茶にした奴がいる。そいつを倒すことだ」


 魔導王と、その軍団を。


『ふむ、なかなか強い憎しみだ。我にとっては心地よい……』


 暗黒竜王が嬉しげに目を細めた。


『だが、お前が我が力を得ているとはいえ、今はまだあまりにも成長度が低い。ジュニアドラゴン級ではな……魔導王とやらにも、その側近にすらも歯が立つまい』


 確かに、その通りだ。

 神樹伯爵を倒したのは、あくまでも『真の力』を振るったとき。

 素のままの俺では、とてもかなわなかった。


『素のままで、その者らと渡り合いたいなら最低でもヤングドラゴン級か、あるいはエルダードラゴン級まで成長せねばなるまい。それまで生き延びられるか、お前は』


 暗黒竜王の問いかけに、俺はすぐに言葉を返せなかった。


 だが、それでも視線は逸らさなかった。


『……ふむ。憎しみだけでなく、それを制御するだけの精神の強さも秘めているようだな。生半可な者では、いずれ我が闇の力に飲まれてしまうだろうが、お前ならあるいは──』


 つぶやき、暗黒竜王は一声吠えた。


『今一度、お前にこの体を預けよう。見事、復讐を成し遂げてみせよ』

「……随分あっさりと返してくれるんだな」

『戯れよ。我には悠久の命がある。このような余興も悪くない』

「余興だと?」


 俺は暗黒竜王をにらんだ。


『魔導王とやらをお前が討てるか否か。楽しみに見せてもらうぞ』

「──討つさ」

『そして、その後でお前が……人間としての精神を保てるか、否か』


 暗黒竜王の言葉は、俺の胸に重く響いた。


『力に飲まれ、真の怪物になるのかどうか──じっくりと見せてもらおう』

「怪物に……俺が……」


 人間としての精神を保てるか、否か。

 人間であり続けられるのか、どうか。

 俺の、心は──。




 そして、俺の意識はふたたび戻る。


 目の前には、赤い髪の少年をはじめとした数人の集団。

 勇者パーティ、というやつか。


 奴らからすれば、俺は邪悪な竜ということだろう。

 が、そうやすやすと討たれるわけにはいかない。


「いくぞ、暗黒竜王!」

「援護するわよ、アーバイン!」

「同じくだ!」


 少年勇者が吠え、左右に女僧侶と青年騎士が構える。


 勇者アーバイン。

 弱冠十五歳にして『神託』を授かり、『聖剣』を与えられ、世界最強となった存在──。


 その名は、俺も知っている。

 会ったのは初めてだが、奴の全身から感じる強烈な威圧感は、勇者の名にたがわぬものだった。


「吠えろ、我が聖剣『ファルミューレ』!」


 アーバインが純白の剣を振りかぶって叫ぶ。


「『吹き荒れる氷雪(ブリザードブラスト)』!」


 無数の氷が矢となり、雨あられと降り注いだ。

 俺はブレスを放って、それらをすべて蒸発させる。


「【エクスバインド】!」

「【エクスシールド】!」


 と、今度は僧侶と魔法使いがそれぞれ呪文を放ってきた。

 魔力の鎖が俺の全身にまとわりつき、さらにその周囲を魔力障壁が覆う。


 俺の動きを封じる気か!?


「よくやったぞ、マルグリットさん、エルク師!」


 アーバインがニヤリと笑って、跳び上がった。

 一気に二十メートルほども──。


 人間を完全にやめているレベルの跳躍力である。


 俺は迎撃のためにドラゴンブレス『滅びの光芒』を放つ。


 ──その寸前、


「させるか!」


 眼下で、青年騎士が叫んだ。

 振り下ろした剣が、突風を呼ぶ。


 魔法の武器か、それとも風を生み出す剣技スキルを会得しているのか。

 いずれにせよ、小型の竜巻が俺の顔を覆った。


 くっ……視界がさえぎられる。


 顔に直撃されると、目を開けていられないほどの猛風である。


 そこへ全身に冷たい衝撃が走り抜けた。

 先ほど勇者が放った氷の矢が、俺の全身にぶつかってきたのだ。


 ちいっ……!


 俺は全身を揺すった。

 多少の手傷は負ったものの、大したダメージじゃない。


「聖剣の最上級攻撃を受けて、この程度だと……!?」


 アーバインが驚きの声を上げた。


 どうやら、さっきのはかなりランクの高い攻撃だったようだ。

 だが、暗黒竜王である俺の体にはさしたるダメージを与えられない。


 それだけの力の差がある、ということだろう。


 さあ、今度は俺の番だ。

 降りかかる火の粉は払わないとな。


「滅べ──」


 俺は念じる。


 ただ、敵を倒すことを。

 ただ、敵を討つことを。

 ただ、敵を殺すことを。

 ただ、敵を滅ぼすことを。


 そして。

 俺の口から吐き出されたのは、漆黒のブレスだった。


 虚無のドラゴンブレス。


 そんな単語が脳内に浮かぶ。


「な、何……!?」


 先ほどまで闘志にあふれていたアーバインの表情が、凍りついた。


 悟ったのだろう。

 このドラゴンブレスを前にして、無事でいられる者など存在しない。

 すべてに等しく滅びを与え、虚無へと還らせる。


 それが俺の──暗黒竜王の最終奥義とも呼べるこのブレスだ。


「【エクスウイング】!」

「【スキルブースト】!」


 その瞬間、魔法使いと僧侶の呪文が響いた。

 勇者たちの背中に光の翼が生まれ、すさまじい速度で後退していく。


 ……逃げたか。


 一瞬遅れて、俺の放ったドラゴンブレスが地面に命中した。

 無音の、爆発。


 閃光が晴れると、周囲一キロほどにわたって巨大なクレーターが出現していた──。

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