3 内なる境界1
ミラの前方には二人の男女がいた。
一人は、きらびやかな鎧をまとった青年騎士。
もう一人は、露出度の高い格好をした踊り子のような美女。
「お前……は……?」
騎士がこちらを振り返る。
灰色の髪に青い瞳、精悍な顔立ち。
細身だが引き締まった長身の青年だ。
「あなたは──」
知っている相手だ。
話したことはないが、騎士団の任務で一緒になったことがあるし、何よりも彼の勇名は王国内に轟いていた。
ガルダ・バールハイト。
エレノア王国最強の騎士にして、『騎士の中の騎士』とまで称される男。
そして──それだけではない懐かしさがあった。
彼の瞳が、記憶にある別の者の瞳に重なる。
「まさか──」
震える声でつぶやく。
「ドラゴンさん……!?」
心臓の鼓動が高鳴る。
「あなたは……ドラゴンさん、なのですか……?」
つぶやいた直後、自分でも何を馬鹿なことを言ってるんだろう、と思い返す。
「す、すみません、あたしったら……ガルダ様になんてことを──」
青年──ガルダがミラを見つめる。
最強の二つ名とは裏腹に、その瞳に宿る光は柔和だ。
「あたしはミラといいます。エレノア王国騎士団の一員です。ガルダ・バールハイト様、お目にかかれて光栄です」
ミラが一礼した。
「実はあなた様と一度、任務で一緒になったことがあるのですが……覚えておいででしょうか」
つい聞いてしまう。
「ん、そういえば──」
ガルダが目をしばたかせた。
「そうか、カレンの妹か……」
と、小さくつぶやいた。
「ただ、名前はよく知っている。ドラゴン状態のときも、お前たちのことを見ていたからな」
ガルダが微笑んだ。
「っ……!」
ミラは息を呑んだ。
では、やはり──。
彼こそが、あの『ドラゴンさん』だったのか。
※
「俺……は……」
ぼんやりと薄れていた意識が徐々に覚醒していく。
俺は一体何をやっていたんだろう?
俺は一体どうなっていたんだろう?
俺は──。
思考を巡らせたところで、ハッと気づいた。
自分の体を見下ろす。
そこには──人間の腕が、足が、見えた。
「な、なんだ……!?」
ドラゴンの体じゃない。
まさか──俺は人間に戻ったのか?
「少し違うわね」
声がした。
ナビだ。
──いや、それも違う。
普段のナビは俺の頭の中に声が響く。
だけど今のは──背後から『肉声』のように聞こえてきた。
まさか……!?
俺は驚いて振り返る。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
褐色の肌に銀色の髪。
露出の多い踊り子のような格好をしている。
血の色をした瞳が俺を見つめていた。
「お前は……?」
たずねながら、俺は半ばその答えを予感していた。
「やだなー、ナビだよ」
彼女が快活そうな笑みで、予想通りの答えを返す。
「正確には【竜王級鑑定スキル】の擬人化インターフェースなんだけど、今まで通りにナビって呼んでくれていいよ」
擬人化インター……?
彼女の言葉の意味はよく分からなかったが、とりあえずナビと呼べばいいらしい──。





