2 暗黒竜王VS勇者パーティ
「さあ、竜退治の時間だ──」
燃えるような赤い髪にオレンジ色の瞳をした少年が言った。
身に着けているのは純白の鎧。
手にしているのは、同じく純白の刀身を備えた剣。
「大丈夫だったか、君たち」
少年がミラとコレットに声をかけた。
「あれは神話の時代から復活した伝説の悪竜だ。俺たちはそれを討ちにきた」
「あなたたちは……?」
「俺はアーバイン。勇者と呼ばれることもあるけど、な」
ニヤリと笑って、少年勇者──アーバインは剣を構える。
「さて、と。見せてもらおうか、悪竜の力を」
手にした剣が、ボウッと輝く。
「『世界の敵』の実力を」
「勇者よ、私たちがサポートします。いつも通りのフォーメーションで」
「俺もやるぞ」
「あたしも。任せてっ」
初老の魔法使い、青年騎士、女僧侶が、それぞれ言った。
この四人が噂に名高い世界最強の戦闘集団──『勇者パーティ』なのだろう。
「俺に力を貸せ、聖剣『ファルミューレ』!」
アーバインが純白の剣を掲げた。
刀身からほとばしった輝きが、彼の周囲にまとわりつく。
ごうっ!
直後、黒竜がブレスをアーバインに吐きかける。
が、すべてを消滅させるはずの黄金の稲妻に似たブレスは、勇者の体に触れる前に弾け散った。
「ドラゴンさんのブレスが効かない──?」
「俺の聖剣は所有者に『絶対加護』の力を授けてくれる。お前の攻撃は効かんぞ、悪竜!」
叫んで、突進するアーバイン。
黒竜はなおもブレスを二度三度と放つが、いずれも勇者がまとう輝きに弾かれてしまう。
「無駄だ! 無駄無駄ぁっ!」
吠えて、さらに加速するアーバイン。
ならば、とばかりに黒竜は紫色のブレスを吐き出した。
ドライアドや神樹伯爵との戦いで放った、特殊防御を無効化するブレス──。
「聖なる力よ、俺を守れ!」
「【スキルブースト】!」
「【ルーンジャミング】!」
聖剣がひときわ鮮烈な輝きを放ち、魔法使いと僧侶がそれぞれスキル効果増幅呪文と、敵の魔力攻撃を妨害する呪文とを唱える。
まさしく、三位一体。
勇者の防御力はより上昇し、黒竜のブレスはその効果を減じていく。
ばぢぃぃぃぃっ……!
アーバインが全身にまとった輝きは多少薄れたものの完全には剥がれない。
「まだ聖剣の防御は残っている。このままいくぞ!」
勇者が地面を蹴って跳んだ。
そのまま十メートル近くも跳躍する。
人間離れした身体能力だ。
これも聖剣の加護なのだろうか。
「はああああああああああああああああああああああああっ!」
アーバインが聖剣を振り下ろす。
刹那、
るぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!
黒竜が、吠えた。
全身からドス黒いオーラが噴き出す。
さながら、黒い炎だ。
「これは──!?」
そのオーラがアーバインの聖剣の光をかき消した。
さらにオーラはモヤのようになって周囲に広がっていく。
ミラの体にも絡みついてきた。
「な、何……!?」
視界が明滅する。
意識がスーッと遠のいていく。
そして、ミラは──。
「えっ……?」
気が付けば、平原の上に立っていた。
純白の草が地平線まで生えている。
空は一面の黒。
その他の色彩はいっさいなかった。
白と黒の二色のみで構成された世界──。
「なっ? えっ? どこなんですか、ここ……?」
戸惑う。
と、前方に誰かが立っていることに気づいた。
シルエットからして、男女の二人組のようだ。
あれは──?





