1 暴走
SIDE ミラ
「ドラゴンさん、どうしちゃったんですか!?」
ミラは呆然と叫んだ。
突然、小竜の姿が変化したかと思うと、圧倒的な力で神樹伯爵を撃破した──そこまではいい。
だが、小竜──いや黒竜はなおも攻撃をやめず、周囲を破壊し始めたのだ。
ドラゴンブレスをあたりに吐き散らしている。
周囲の木々が炎に包まれていた。
このままでは、自分たちは焼け死んでしまう──。
「【ライフシェルター】」
コレットが僧侶呪文を唱えた。
半透明の薄青色のドームが、ミラとコレットの周囲を覆う。
「生命維持用の防御フィールドよ。攻撃に対しては弱いけど、毒や呪いといった有害なもの全般を遮断してくれる。もちろん、火事の煙もね」
と、コレット。
「この中なら少なくとも数時間は呼吸ができるから、まずこの中で持ちこたえよう」
「わ、分かりました」
答えつつ、ミラはふたたび黒竜を見た。
黒竜は手当たり次第にドラゴンブレスを放ち、森を燃やしていた。
先ほどまでは、あの竜のことを味方だと──仲間だと感じていた。
実際、連携してモンスターを退けたりもしたのだ。
だが今の黒竜は、そんな雰囲気ではなかった。
すべてを破壊する──。
そんな強烈な意思が押し寄せてくるようだ。
と、
ぐうおおおおおおおおおおおおおおああああああっ!
雄たけびが響いた。
一つや二つではない、数十数百単位の雄たけびである。
次の瞬間、木々の向こうから無数のモンスターが殺到した。
ウッドゴブリンにスパイクウルフ、ビッグオーク、マッドゴーレム、バジリスクにサラマンダー……多種多様なモンスターが黒竜に向かってくる。
おそらくは黒竜に引き寄せられてやって来たのだろう。
もしかしたら、神樹伯爵の手勢かもしれない。
るおおおおおおおおおおおんっ!
黒竜が黄金の稲妻に似たブレスを吐き出した。
その射線上にいたモンスターがことごとく消滅する。
すさまじい火力だった。
燃えていた木々も、まとめて消滅してしまう。
「あれは──神樹伯爵を倒したドラゴンブレス!?」
そんなものを乱射されたら、巻き添えで自分たちも消し飛ばされかねない。
ゾッとなった。
黒竜はなおも残ったモンスターたちを次々とブレスで消し飛ばしていく。
「やめて、ドラゴンさん!」
ミラは必死で叫んだ。
「お願い──」
自然と涙がこぼれた。
なぜだか、破壊本能のままに暴れまわる黒竜の姿が物悲しく見えた。
さっきまでの黒竜に戻ってほしい。
その願いを一心に込めて、
「ドラゴンさん、目を覚まして!」
叫ぶ。
だが黒竜はなおもブレスを放ち続け──、
るおおおお……ん……。
不意に、その動きを止めた。
こちらを振り返り、ミラを見つめる。
「ドラゴン……さん……?」
竜の瞳がわずかに揺れている──ように見えた。
直後、竜はミラたちが己の背後に隠れるような態勢を取り、ふたたびブレスを吐き始める。
竜の背に隠れ、ブレスの熱や衝撃波がほとんど来ない。
これなら破壊の嵐の中でも、最小限の余波ですむだろう。
「まさか、ドラゴンさん──」
ミラは驚いて黒竜を見上げる。
自分たちが巻き添えにならないように注意しながら、モンスターを掃討している……?
「──見つけたぞ、暗黒竜王」
突然、前方で声がした。
木々の向こうから、剣士や魔法使いの一団が現れる。
先頭に立っているのは赤い髪をした少年。
「勇者パーティ見参、ってね」
少年がニヤリと笑った。
「さあ、竜退治の時間だ──」
次回は5月9日更新です。それ以後は3日ごとくらいに更新予定。カクヨムのほうが1話早く更新していく感じです(内容はなろう、カクヨムともに同一です)
【20.5.10追記】
↑5月9日更新は5月10日更新の間違いでした……すみません(´・ω・`) カクヨムより1話遅れで更新していく感じで一つ……おなしゃすおなしゃす





