16 変異
後には、何も残っていない──。
俺が放った最強のドラゴンブレス『終末の極光』は神樹伯爵を完全に消し去った。
ブレスの攻撃範囲内は完全に消滅していた。
伯爵の体はもちろん、森の木々も、地面すらも綺麗にえぐれてクレーターと化している。
『エクス・ドライアド×1を撃破。経験値50300を取得』
『レベルが7→16に上がりました』
一気にレベルが上がったな。
今までで最大の上がり幅じゃないだろうか。
さらに、
『「進化の宝玉B」×1を取得しました。進化ポイントが100貯まりました』
『次の進化が可能になりました』
次の進化……?
よし、これなら元の状態に戻っても、もう一段階強くなれるな。
と、
『カウント──0。「暗黒竜王」への形態変化を終了します』
ナビが言った。
どうやら、今の力を使える活動限界が来たらしい。
この力をずっと使えれば、今後の戦いがかなり変わってくるんだが……。
『えっ、嘘!? 戻らない……?』
どうした、ナビ?
『【闇】が収まらない。元のガルダの状態に戻せない……どうして……!?』
ナビ……?
いぶかしんだ次の瞬間、
ぐるるおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!
俺は吠えていた。
自分で意図したわけじゃない。
ほとんど無意識に……まるで、体が勝手に動いたかのように吠えていた。
同時に、俺の全身から黒いオーラが爆発的な勢いで噴出する。
『駄目……【闇】が、あふれる……』
おい、どうしたナビ!?
『このままでは……力……暴走……神話の、再現……それだけは、避け……お願い……ガルダ……おねが……い……』
ナビの声がどんどんかすれ、やがて消えてしまった。
いや、異変はナビだけじゃない。
目の前がかすむ。
意識が薄れていく。
これが『【闇】に呑まれる』ってことなのか。
体が、バラバラになりそうだ。
変わっていく。
俺が、俺じゃない何者かに──。
俺は、どうなるんだ。
一体、俺は──。
※
SIDE ミラ
「すごい……とうとう神樹伯爵を倒してしまいました」
ミラは呆然とつぶやいた。
隣のコレットも声が出ない様子だ。
「アビー……あなたの仇をドラゴンさんが討ってくれましたよ」
ミラは涙ぐんでつぶやく。
「──待って。様子が変よ」
と、コレット。
「えっ……!?」
黒竜が身もだえしていた。
何かに苦しんでいるような。
あるいは今にも暴れだしそうな──。
「ドラゴンさん……!?」
ぐるるおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!
竜が、吠えた。
その全身から漆黒のオーラが立ち上る。
があっ!
吠えた竜が、ブレスを吐き出す。
「っ……!? 【プロテクション】!」
コレットが慌てた様子で呪文を唱えた。
防御フィールドが二人と包みこむ。
次の瞬間、すさまじい衝撃波が吹き荒れた。
先ほどドラゴンが放ったブレスの余波である。
「ドラゴンさん、どうして──」
さっきまでとは、明らかに違う。
さっきの戦いでは自分たちが巻き添えを食わないようにしてくれていた。
だが、今は──。
周囲の被害などおかまいなしにドラゴンブレスを放ったのだ。
「まがまがしい気配が一気に膨れ上がった……」
コレットがうめく。
ドラゴンがゆっくりと飛び上がった。
身にまとう黒いオーラが膨れ上がり、空の彼方まで届く。
「天を衝くほどの黒い邪気……まさか、『暗黒竜王』の『完全体』が復活した……!?」





