12 暗黒竜王VS神樹伯爵4
周囲に漂う焦げ臭いにおい。
アビーは──一瞬にして燃え尽き、黒い消し炭となっていた。
「アビー! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ミラが悲痛な叫び声をあげる。
「アビー……そんな……!」
コレットが青ざめた顔でうめく。
俺も呆然となっていた。
彼女と出会ってから、大した時間は経っていない。
せいぜい数時間の付き合いである。
だがそれでも──彼女は仲間だった。
この森をともに抜けるための。
こんなことは、前世でもいくらでもあった。
仲間の死。
一瞬にして失われる命。
もう戻ってこない、命──。
それは戦場の常だ。
分かっている。
分かっているんだ。
だけど──やっぱり慣れることはない。
ミラやコレットの悲しみやショックを思うだけで、俺まで胸が痛くなる。
『何を悲しんでいる? 理解に苦しむ連中だ』
笑う神樹伯爵。
『我はゴミを焼却処分にしただけだが?』
こいつ──。
『なんだ、怒っているのか? 負の想念の──そして、【闇】の力の高まりを感じるぞ。やはり、魔導王様の推測は正しそうだな。【闇】の力は人間に宿り、顕現した』
神樹伯爵がうなる。
『同じ人間だからこそ、さっきの女の死に悲しみや憤りを感じているのであろう?』
「許さない!」
ミラが怒りの雄叫びとともに突進する。
「【アクセル】!」
コレットが僧侶魔法を唱えた。
同時にミラの全身が緑色の光に包まれ、そのスピードを倍加させる。
対象の素早さをアップさせる補助呪文だ。
「アビーの仇です!」
振り下ろしたミラの剣が、
がぎぃ……っ!
軋むような音を立て、真っ二つに折れ飛んだ。
「えっ……!?」
驚いたように折れた剣を見つめるミラ。
『水圧よ』
ナビが告げる。
何?
『奴は体内に蓄えた大量の水を操れるみたいね。高圧で噴出した水が透明な刃となり、彼女の剣を斬り飛ばした』
スキル欄にそれらしい名前はなかったぞ。
『スキルじゃない。ただの「生態」なんでしょう』
生態……か。
『そこのドラゴンだけは魔導王様の下に連行するが、お前たち二人は必要ない。さあ、死ね』
神樹伯爵が巨体を揺らす。
『さっきの女と同じく、ゴミのように』
ゴミだと……?
こいつらは、いつもそうだ。
かつての王都での戦いでも、市民も騎士も分け隔てなく殺された。
まさしく、ゴミのように。
ふざけるな。
俺たちは生きているんだ。
それぞれの人生を、日々を、精いっぱい生き抜いている。
お前たちに理不尽に踏み潰されるいわれはない。
絶対に。
絶対に──!
るおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!
俺は、吠えた。
心の底から湧き上がる怒りのままに、吠えた。
全身が熱い。
なんだ、この感じは──。
体の奥から、何かが吹き上がるような感覚。
肉も、骨も、灼熱感の中で溶けていくような──。
俺が、俺じゃない何かに生まれ変わるような──。
そんな感覚の中で、俺は吠え続けた。
『な、なんだと……!?』
神樹伯爵が不意にうろたえたような声を出す。
『【闇】の紋章が起動しかけている……? まさか、「暗黒竜王」の力が、目覚める……!』
『「暗黒竜王」起動条件の第一段階を満たしました』
『対象者ガルダ・バールハイトの【闇】のステータス底上げを開始します』
『今から100秒後にカウントを始めます』
『カウントダウンまでの間、限定的に「暗黒竜王」の「真の力」を引き出すことが可能です』
ナビの声が響く。
こ、これは一体──?
俺は戸惑うばかりだった。





