2 出発
なあ、そもそも俺には翼があるんだから、飛んでいけないかな?
俺は根本的な疑問を抱いた。
『いくら空戦型とはいえ、あなたはまだ小竜だからね。三人を抱えて長時間飛ぶのは無理よ』
と、ナビ。
『それに飛んでいるところを狙ってくるモンスターもいるかもしれないし。空戦能力が低いうちは、あまり軽々しく飛ばない方がいいわよ』
なるほど、そういうもんか。
なんでもかんでも飛べばいい、ってわけでもないんだな。
『いずれ、もっと強力な空戦能力が手に入れば、また別だけどね。今はまず自分を成長させることを優先した方がいいと思う』
忠告、ありがたく従おう。
……たぶん、ミラたち三人もその辺を分かったうえで、徒歩での移動を考えているんだろうな。
「この森は大きく分けて三つのエリアがあります」
ミラが説明を始めた。
きっとアビー、コレットにとっては周知の事実なんだろう。
だから、これは俺に対する説明だ。
「わざわざドラゴンに説明すんの?」
「まあ、私たちの言葉をある程度は理解してるっぽいし、いいんじゃない」
ツッコむコレットにアビーが言った。
「ですね。じゃあ、説明しますね、ドラゴンさん」
ミラが俺ににっこり微笑んだ。
心が癒されるようだ。
「まず、あたしたちがいるエリア。ここには雑多なモンスターが生息しています。そのほとんどがレアリティ1から3までの下級モンスター。たまに4が、ごくまれに5がいる程度だと推測されます」
と、ミラ。
モンスターとレアリティってそういう区分けになっているのか。
いや、ミラが知っているなら、なんで俺は知らないんだ?
同じ騎士なのに──。
『転生した影響で記憶にある程度の影響があるからでしょ。たぶん記憶の欠損が生じてるじゃない?』
と、ナビ。
なるほど……。
じゃあ俺は生前なら常識レベルで知っていたことでも、今は知らないってこともありうるのか。
『まあ、別の生物に変わったんだからね。何かしらの影響はあるわよ。精神にも、ね』
精神への影響……か。
「つまりこのエリアは下級モンスターが多く生息し、たまにレアリティ4や5の中級モンスターがいる程度です。仮に第1エリアと呼びますが……森の七割以上はこの第1エリアです」
ミラが説明を続ける。
「二つ目がレクル大河に面したエリアです。第2エリアと呼びましょうか。この一帯にはレアリティ5クラスの水棲モンスターが一定数いるようです。その影響で下級モンスターはほとんど近づきません。食べられちゃいますからね」
二つ目のエリアにはあまり近づきたくないな。
「ただ、第2エリアは脱出ルートからは少し外れているので、道に迷いでもしないかぎり、近づくことはないでしょう。そして──肝心の第3エリアですが」
ミラの表情が険しくなった。
「ここに森の主のような強力なモンスターがいるはずです。魔導王のモンスター軍団の中でも側近クラスの強力なものが」
側近クラス──。
「あたしたちもその全貌はつかんでいません。ただ、さっきのドライアドの言葉から察するに『神樹伯爵』という名前なのでしょう」
ミラが告げる。
「モンスターのくせに『伯爵』とは大層だね」
アビーが苦笑した。
「魔導王は配下のモンスターのうち、側近クラスにはそういった大仰な名前をつけるようですね。他にもグレイテストゴーレムの『機甲巨人』やエルダースカイドラゴンの『天翼覇竜』などの称号を授けていますし」
「センス最悪だね」
ミラの言葉に、コレットが顔をしかめる。
「で、話を戻しますが……森を抜けるためには、その『神樹伯爵』の支配領域を抜ける必要があります。森に入ってくるときは人数がいたので、なんとか『門番』を突破できたのですが、今の人数で行けるかどうか……」
門番?
「第3エリアには要所要所に見張りのモンスターが配置されています。それを倒さない限り、先へは進めないようになってるんです」
俺の内心の疑問を読み取ったように、ミラが言った。
つまり、その『門番』を倒せば、森の外に出られるということか。
俺自身は森の中にいて経験値稼ぎに勤しんでもいいが、ミラたちはそうはいかない。
それに、さっきドライアドを倒したことで『神樹伯爵』の配下モンスターに目をつけられた可能性も十分ある。
今後狙われるかもしれない、と考えると、俺もいったん森を離れたほうが安全かもしれないな。
森を出た後、また別の生息地を求めて旅でもするか……。
「あたしたち三人だけでは厳しいですが、ドラゴンさんが連携してくれれば十分に勝てるはずです。一緒に行きましょう!」
ミラが手を差し伸べる。
俺は前足を出して、ちょんとその手に乗せた。
……まるで犬の『お手』みたいだな。
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