2 最初の戦闘
夜のランキングで日間ハイファンタジー29位、日間総合109位に入ってました! 読んでくださった方、ブクマ評価してくださった方、ありがとうございました!
表紙入り……までは遠い遠い道のりですが、地道にがんばります~!
俺はエレノア王国に所属する騎士だった。
だが、王国を侵略する軍勢との戦いで殺されてしまった。
そして、なぜか……こうしてドラゴンに生まれ変わったらしい。
自分でも意外なほど、頭の片隅が冷静に現状を把握する。
俺の中の何かが麻痺してしまっていた。
むごたらしく殺されていく王都の民や仲間の騎士たちを見てきたからなのか。
俺の心のどこかが壊れてしまったんだろうか。
脳裏に、巨人に踏みつぶされて殺されたカレンの最期がよみがえる。
──今は、過去のことは考えるな。
俺は自分自身に言い聞かせた。
あるいはこれがドラゴンとしての生存本能なんだろうか。
過去にとらわれている場合じゃない。
現状を正確に把握し、これからなすべきことを着実に実行しなくては死ぬ、と。
野生の本能がそう告げていた。
俺がまず実行するべきなのは、生き残ること。
そのために安全を確保することと──強くなることだ。
ナビ、教えてくれ。
レベルを上げたり進化するにはどうすればいいんだ?
『どちらも、基本的にはモンスターを倒すことで達成できるわ』
俺の問いに答えるナビ。
どうやら俺の内心の問いかけは全部向こうに伝わるみたいだ。
『まず前者から説明するわね。モンスターを倒すと「経験値」が手に入るの。この経験値が既定の数字を超えるとレベルが上がるわ』
経験値、か。
『次に後者ね。特定のモンスターを倒した場合に得られる「進化の宝玉」を得ることで「進化ポイント」という数値がたまっていくの。これも既定の数値を超えると、そこで進化できるわ』
ナビが説明する。
『ちなみに進化するときには、いくつかの進化先候補が提示されるから、自分で選ぶことができるわよ。まあ、これは実際に進化できるようになったら詳しく説明するわね』
なるほど。
じゃあ、とりあえずはモンスターを倒しまくれば、レベルが上がったり進化できたりするわけだな?
『その理解でおおむね間違いないわ。とにかくモンスターを狩ること。それが、あなたが強くなるための基本的な道のりね』
よし、がんばってみるか。
とはいえ──この姿でどれくらい戦えるんだろうか。
人間だったときの俺は、騎士だった。
しかも、自分で言うのもなんだが、王国でも指折りの実力を誇っていた。
『騎士の中の騎士』なんて呼ばれることもあったくらいだ。
そのときの剣技が使えれば、ある程度までの強さのモンスターなら問題なく狩れる自信があった。
だけど、今の俺は蛇みたいな体だ。
剣なんて使えるわけもない。
なんとか、この体で戦える方法を見い出し、モンスターを地道に狩っていくしかない。
『おあつらえ向きに、最初の獲物が来たみたいよ』
獲物……?
周囲を見回す。
背後の茂みがガサガサと揺れていた。
そして、その向こうから──青い肌をした身長一メートルくらいの小鬼が現れた。
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称 号:なし
種 族:ブルーゴブリン
形 態:ヒューマンタイプ
L V:3
H P:20
M P:0
攻撃力:13
防御力:7
素早さ:5
★ :2
〇所持スキル
【突進】LV3
【格闘】LV2
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俺の眼前にそんな文字列が現れた。
ナビが表示してくれたらしい。
ブルーゴブリン……か。
名前の通り青い肌をしている。
そして、ステータスが明らかに俺より高い。
『正面から戦えば、ぷちって潰されちゃうね。ぷちって』
なんで嬉しそうなんだ、お前は。
『さあ、どうする? いきなりピンチだねー』
だから、なんで嬉しそうなんだよ!
──なんてやり取りをしているうちに、ブルーゴブリンが近づいてくる。
「ちっちゃいドラゴン……えさ……えさぁ……」
などと笑っていた。
こいつ、俺のことを狩るつもりか……!
冗談じゃない、食われてたまるか。
「えさぁぁ!」
叫びながらゴブリンが飛びかかってきた。
それほど速くはない。
人間だったころの俺なら、楽勝で避けられるレベルの速度だ。
だが、今の俺は蛇の体である。
ウネウネと必死で体を揺らしながら、ゴブリンから逃げる──。
「にがさなぁぁい」
いきなりゴブリンのスピードが数倍に上がった。
何……っ!?
あっという間に距離を詰められてしまう。
しまった、これは相手のスキル【突進】の効果か。
俺はさらに逃げようとするが、
「つかまえた~」
間に合わず、ゴブリンの手に胴体部をつかまれてしまった。
ぐっ、痛い……!
ジタバタともがくものの、とても脱出できそうにない。
ゴブリンはヨダレを垂らしながら俺を見ていた。
このままじゃ食われる!
何か攻撃手段はないのか!?
『爪はないけど、牙ならあるわ。だから有効な攻撃手段は噛みつきか、あるいは体当たりね』
そういえば、さっき見たステータスのスキル欄にそんなのがあったっけ。
……どっちも通用しなさそうだな、俺のサイズじゃ。
『あとは定番のドラゴンブレスとか』
えっ、そんなスキルもあるのか?
『あるに決まってるじゃない! ドラゴンといえばブレス! ブレスといえばドラゴンでしょ!』
ナビの声に熱がこもる。
なんで急にテンションが上がったんだ、こいつ。
『普通のスネークタイプドラゴンにはブレス発射能力なんてないけど、あなたは腐っても「竜王」の眷属だもの。ブレスは標準装備でついてるわよ!』
竜王の眷属──。
そうか、俺の称号は『暗黒竜王』だったな。
ただ『腐っても』は余計だ。
『で、現在使用可能なブレスは【滅びの光芒】ね』
おお、なんか強そうな名前だぞ。
そういえば、スキル欄にそんな名前があったことを思い返す。
あれはドラゴンブレスの名称を表していたのか。
『射程距離が短いのと発射間隔が長いので、この状況だと一発外せばアウト。ブレスを外すイコール死だと思ってね♪』
めちゃくちゃ嬉しそうなんだが。
こいつ、俺のピンチを楽しんでないか……?
とにかく、やるしかないな。
俺はゴブリンに向かって口を開いた。
ドラゴンブレスなんて今までの人生で一度も吐いたことがない。
当たり前だ。
だけど、俺は──ブレスの発射方法を知っていた。
本能が教えてくれる。
この力で敵を倒せ、と。
口内が灼熱する感覚があった。
『力』だ。
体内から口に向かって、すさまじい『力』が集中していくのを感じる。
これなら──倒せる!
ごうっ!
俺は口からブレスを吐き出した。
暗黒竜王のドラゴンブレス【滅びの光芒】。
青白い光が渦を巻きながら突き進み、ブルーゴブリンを直撃する。
「ぐぎゃあああっ」
断末魔を上げ、こんがりと焼けたブルーゴブリンが倒れ伏した。
放り出された俺は、柔らかい草むらに着地する。
ゴブリンの方は、もはやピクリとも動かなかった。
ドラゴンとしての、初勝利だった。