9 ドライアド猛攻
「せ、先輩……?」
ミラは眼前の光景を呆然と見つめていた。
ついさっきまで自分と会話をしていた人間が、首なし死体となってその場に転がっている──。
奇妙なほど現実感が薄い光景だ。
十七歳にして騎士団でも十指に入る剣技を誇り、若き精鋭と称される彼女だが、実戦経験は多くない。
モンスターを相手にした本格的な討伐は今回が初めてだった。
そして──他人の死を見るのも。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
気が付けば、ミラは叫んでいた。
怖かった。
全身が震えだした。
それは他のメンバーにしても同じだろう。
「きゃぁぁぁぁぁっ、バーバラが!?」
悲鳴を上げる者。
「くそっ、よくもっ! この化け物がぁぁぁっ!」
怒号を上げる者。
そんな一団を、ミラは呆然と見つめている。
「──落ち着け。大丈夫だよ、ミラ」
背後から誰かに抱きしめられた。
アビーだ。
普段の粗雑な雰囲気ではなく、優しく癒してくれるような抱擁感があった。
「私がいる。コレットもいる。みんなもいる。大丈夫。あいつを倒そう」
「アビー……」
不思議なほど気分が落ち着いていく。
「……ありがとうございます。あたし、戦います」
エレノアの騎士として。
『ふん、一人殺したくらいじゃ闘志は萎えないか』
ドライアドが体を揺すりながら笑った。
『じゃあ、そのうえで──本格的に絶望してもらおうか』
高さ十メートルほどの樹木、といった姿だ。
ちょうど人の頭の位置と同じくらい──高さ2メートル弱くらいの位置に、人間を模した顔が浮かび上がった。
邪悪な笑みを浮かべた顔だった。
「しょせん、木だろ? 焼き尽くしてやるよ!」
魔法使い二人が杖をかざした。
「『ディーファイア』!」
中級の火炎魔法を同時に放つ。
渦を巻く火炎が二発、ドライアドに命中した。
爆発とともに、炎に包まれるドライアド。
「はっ、直撃かよ」
「木じゃ動くことも避けることもできないだろうからな。あっけない──」
『いい気になるんじゃない』
ドライアドから炎が弾け散った。
『俺はただの樹木じゃない。「精霊」だ。物理的な炎では死なんよ』
無数の枝がしなり、鞭のように伸びてきた。
「がっ!?」
「ぐあっ……」
先端部が槍のようにとがった鞭に貫かれ、先ほどの魔法使い二人が相次いで倒れる。
いずれも心臓を貫かれて即死だ。
「ちいっ、魔法が聞かないなら剣だ!」
今度は青年騎士が剣を手に斬りかかった。
と、その首がいきなり斬り落とされる。
悲鳴を上げる暇もなく、青年騎士は倒れた。
]「まただ──」
先ほどの女騎士が殺されたときと同じだった。
見えない斬首攻撃。
『弱いねぇ……弱すぎる。魔導王様や神樹伯爵様はおろか、この俺にすら歯が立たないのか、人間ども』
ドライアドが哄笑した。
無数の枝が繰り出され、さらに周囲の魔法使いや僧侶が貫かれて、殺される。
その合間に見えない斬首攻撃が繰り出され、騎士たちが首を落とされて、殺される。
「こ、こんな……」
ミラは呆然としたまま立ち尽くしていた。
ほんの数分の間に、ミラ、アビー、コレットの三人を除いた全員が殺されていた。
『後はお前らだけか。「神樹伯爵」様に歯向かおうなんて奴は一人残らず殺しておかないとな』
ドライアドの『顔』がミラたちをにらみつける。
気圧されそうになる自分を、必死で奮い立たせた。
「あまり調子に乗らないでよ。あたしたちは負けない」
コレットが気丈に言い放った。
普段は飄々としている彼女だが、さすがに顔面蒼白だ。
「黙って殺されてたまるか」
アビーも同じく気丈に、魔法の杖を構えている。
(そうだ、あたしだって──)
確かに、ドライアドは強い。
その場にとどまれば、強力な枝の攻撃が来る。
接近すれば、不可視の斬首攻撃を受けてしまう。
まるで隙がない。
「それでも、戦う」
騎士として。
憧れのガルダのように、強く──。
「……二人とも聞いて。あいつの『見えない斬首攻撃』はなんとなくネタが分かってる」
コレットがミラとアビーにささやいた。
「それを踏まえて、あたしたち三人で奴を攻略しよう」
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