8 迫る魔手
エレノア王国の女騎士ミラは森の中を進んでいた。
一か月前、魔導王によってエレノア王国は壊滅的な被害を被った。
エレノアの王家は同盟国であるラシェルに逃げ延び、騎士団や魔法戦団なども同様にラシェルに身を寄せている。
エレノアは国土の大半をモンスターが闊歩する魔の土地となってしまったからだ。
これを奪還したいところだが、一朝一夕にはいかない。
しかも、ラシェル王国自体も魔導王の侵攻を受けていた。
その侵攻拠点の一つである『魔獣の森』を奪還すれば、ラシェルのエレノアへの心証は格段に上がる。
今後の外交もやりやすくなるだろう、とミラは作戦説明の際にそう言われていた。
だから、この任務は絶対に成功させなければならない。
「早い話が、あたしたちの力を──エレノア王国の力を示すこと。それが任務の要諦ですね」
「なるほどなー」
アビーが感心したようにうなずいた。
「そういう意味合いがあったんだ、今回の任務って」
「アビーは考えなさすぎ」
と、横合いからコレットが言った。
「失礼だなー。私だって考えてるよ」
「あんたが考えてるのは、おいしいご飯のことくらい」
「まあ、それほどでもないけどね。ほら、私ってグルメだし」
「今のを誉め言葉と受け取れるのがすごいわ」
「えっ、けなされてたの?」
「まあまあ」
くすりと笑いながら、ミラは二人の間に割って入った。
「あいかわらずですね、二人とも」
「ふふ、この三人で組むのって半年ぶりだっけ」
「変わりがなさそうで」
「いやー、それほどでも」
「進歩がない、って言ってるんだけど?」
「またけなした!」
「まあまあ、コレットなりの信愛表現なんですよ、アビー」
ミラがくすくすと笑いながら、とりなす。
「本当に親しい人にしか毒舌気味に話しませんもの、コレットは」
「むー……」
和気あいあいとした雰囲気が楽しかった。
任務中だということを忘れてしまいそうになる。
と、
「それくらいにしておいたら? 遠足に来ているんじゃないのよ」
先輩の女騎士にたしなめられた。
険のある表情でミラをにらんでいる。
「特にミラ。あんた、ちょっと顔がいいからって図に乗らないでよ。騎士団の次期エースだとかチヤホヤされて」
「あたしはエースなんて器じゃありません」
ミラが彼女を見据えた。
「その名にふさわしいのは、ガルダさんのみ──」
「ガルダファンだもんね、ミラって」
アビーが笑う。
「王国で最強の──いえ、大陸で最強の騎士だった、とあたしは信じています」
「それにお姉さん……カレンさんがガルダの恋人なんだったっけ?」
「いえ、姉とガルダさんはそういう関係ではなかったようです。ただ、意識はしていたみたいですが……」
と、ミラ。
実際、二人はお似合いだったように思う。
姉のカレンとガルダが付き合い、いずれ結婚でもすれば、自分はガルダの義妹となる。
そんなことを妄想したこともあった。
だが、姉はもういない。
先の戦い──魔導王のエレノア王都侵攻の折、巨人に踏みつぶされて死亡した、と聞かされていた。
そしてガルダもまた……。
(姉さんもガルダさんも、きっとどこかで生きている……あたしは信じてる)
ミラは自分自身にそう言い聞かせる。
と、
「──歓談はそれくらいに。来るよ」
コレットが警告した。
彼女は僧侶である。
邪悪なものや敵意のあるものの感知に優れたスキルを備えている。
『なんだ、お前たちは? 魔導王様の側近「神樹伯爵」様に歯向かう不届きものか? ええ?』
粗暴そうな声とともに、前方の樹木がうねった。
木の向こう側に何かがいる──?
「いや、違う。あの木自体がモンスターだ」
ミラの内心の疑問を読み取ったように、コレットが告げた。
「種族は『邪精霊ドライアド』。属性は『木』。レアリティは5──」
神官級鑑定スキルを発動して、モンスターの情報を読み上げるコレット。
レアリティというのは戦闘力や希少性等によって示される数字だ。
言ってみれば、モンスターの『格付け』の数字である。
「『神樹伯爵』というのは、この森を支配するモンスターでしょうね。その手下というところでしょうか」
ミラは表情を引き締めて、剣を抜いた。
アビーが魔法の杖を、コレットが錫杖をそれぞれ構える。
「ただのでくの坊でしょ。見るからに弱そうじゃない」
先輩の女騎士が剣を手に、進み出る。
「待って! 戻ってください、先輩──」
嫌な予感がして、ミラは叫んだ。
「あたし一人で十分だっていうのよ。さあ、かかってきなさ──」
言いかけたところで。
ごとり。
女騎士の首が、落ちる。
首を失った胴体が力なく倒れた。
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