4 現況
ミラたちと別れ、俺は森の中を進んでいた。
さて、これからどうするか。
人間のときと違って、モンスターの俺には仕事なんてものはない。
基本的に、日々の過ごし方というのは、経験値稼ぎのための『狩り』や『食事』『休息』『睡眠』『自由時間』……これくらいだ。
ミラたちは、この後どうするんだろうか。
任務がある、って言っていたな。
たぶんモンスター討伐任務だろう。
俺もエレノアの騎士だったころ、そういう任務に就いたことが何度もある。
あのときはモンスターを狩る者として戦っていたけど──今は狩られる側なんだよな。
『あら、若竜や成竜、老竜クラスあたりに進化すれば、また狩る側に戻れるわよ。それこそ、モンスターだろうと天使や魔族だろうと……人間だろうと」
さすがに人間を狩るつもりはない。
『そっかー……ふーん』
なんで、ちょっと残念そうなんだよ。
『あの人間たちに執着してる感じ?』
いや、懐かしくなっただけだ。
彼女たちは俺の故国の人間だからな。
ああして騎士団や魔法戦団、教団が行動してるってことは、少なくともエレノア王国が完全に壊滅したわけじゃないんだろう。
とはいえ、あの日の王都の様子から考えるに、かなり大きな被害を受けているはずだ。
下手をすると、エレノアは制圧されていて、彼女たちは単に逃げてきただけかもしれないな。
俺が人化のスキルでも覚えれば、さっきの連中とも意思疎通ができたのかな。
そうすれば、エレノアの現況を聞くことができたかもしれない。
いや、何も人化じゃなくてもいいのか。
ナビ、人間と会話やなんらかのコミュニケーションが取れるスキルってないのか?
『うーん……リトルドラゴンのあなたでは身につけられないわね』
と、ナビ。
『次の段階であるジュニアドラゴンか、その次のヤングドラゴンあたりになれば……属性にもよるんだけど、たぶん取得できると思うわよ』
まだ、もう一段階か二段階必要ってことか。
『ただ、エレノアの現況なら私がある程度探知できると思う』
本当か!?
『私を誰だと思っているの? 「竜王級」の鑑定スキルよ。もっと崇めなさい。敬いなさい』
えらいぞ、ナビ!
『ふふふ、そうよ。その態度でいいの。ふふふふ』
妙に嬉しそうなナビ。
『じゃあさっそく探知してみるわね……うーん』
しばらくの沈黙が流れた。
『エレノア王国の方向に強大な魔力の気配が漂ってるわね。ずっと一か所に留まってるし、これが魔導王の気配だと思う』
数分して説明を始めるナビ。
お前、そんなことも分かるのか。
『ふふ、ますます尊敬した?』
さっさと教えてほしかった。
『だって聞かれなかったし』
じゃあ、教えてくれ。
エレノアは今、どうなっている?
魔導王との戦いはどうなったんだ?
『そうね……魔力の気配が安定していることから考えると、現在は戦闘が行われていないんじゃないかな。ここからだと距離が遠いから、小競り合いレベルについては探知できないけど』
ナビが言った。
『少なくとも大規模戦闘は行われていないわ。エレノア王国では、ね』
なるほど……。
『ちなみに、残留魔力から推測すると、エレノアでの最後の大規模戦闘はたぶんひと月くらい前よ』
ひと月くらい前?
だけど、俺が転生してからまだ数日しか──。
『うーん……もしかしたら、あなたは死んですぐに転生したんじゃなくて、少し時間を置いて転生したのかもしれないわね』
怪訝そうにつぶやくナビ。
『そもそも、なぜ人間が「暗黒竜王」に転生したのかも謎よね……何か「暗黒竜王」に縁のものを身に着けていたり、あるいは血族に竜の血が混じっているものがいたり……そういうことはないの?』
俺はなぜ「暗黒竜王」に転生したのか──。
それはまだまだ謎だ。
いずれ解明されるときがくるんだろうか。
……などと考えていると、前方から、
ぼこっ、ぼこっ……!
と地面が盛り上がってきた。
あそこに何かがいる!?
『見つけたぞ……「暗黒竜王」の称号を継ぐ者……』
ぼごぉっ!
土塊をはねのけ、地面の中から巨大なモンスターが出現する──。





