第六回星新一賞ジュニア部門応募作品「スーパーヴァーチャルリアリティ」
「カズ、今日の放課後遊べる?」
「あー、今日スイミングあるから無理かも」
遊びたいな。心の中ではそう思いながらもカズは言った。
「分かった。じゃあまた明日遊ぼう。」
確かに、明日になったらまた遊べる。しかし、明日遊べるとしても今日も遊びたいのが小学生というものだ。今日遊べる者が遊べない者に明日遊ぼうと言っても、それはただの慰めにしかならない。
「うん。バイバイ」
カズはケイタと別れた後、いつもよりゆっくり歩いて家に帰った。
「今日はスイミングだから宿題やっておくのよ」
分かってるよ。そう思いながらも僕はランドセルから算数プリントを取り出した。今はまったくやる気が出ない。プリントには全く手を付けずお母さんが見ている夕方のニュースをボーッと見ていると、あっという間にスイミングの時間が来た。スイミングバッグを持って自転車にまたがる。
「シャコシャコシャコ..........」
僕の家からスイミングスクールまでは自転車で5分ぐらいだ。
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ」
「!?キキィーーーーーーー!」
「ドンッ!!!」
「
……………あれ、ここはどこ?スイミングは?あれ?」
「あ!先輩SVR終わったんですね」
男がソファから起き上がると目の前にいた女が話を始めた。
「……SVR?」
女の言うことが理解できない。
「そうか!こっちは10分でも先輩からしたら8年ぶりですもんね。私の名前は分かりますか?」
そう言われて閉ざされていた記憶がゆっくりと蘇った。
「田…村あお…い……あれ?なんで知ってるんだ?」
「そう私は田村あおいです。やっぱり思い出しづらいだけで記憶はあるみたいですね。じゃあ先輩に今までのことを説明します」
「うん」
男は、ソファに姿勢良く座り直し女の話を真剣に聞いた。
「2054年、日本のある会社がスーパーヴァーチャルリアリティ通称SVRを開発しました。今までのヴァーチャルリアリティでは視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感で感じられるだけでしたが、SVRはそれに加えて着けている間は記憶を操作し、ソフトに入り込めるようになったのです。そして10分前、私の部屋で先輩は私のSVRを使ってカズという架空の人物の人生を体験していたんですよ」
話を聞き終わり、男は無言で立ち上がった。
「そうだったな。完全に思い.............出.......ザザッ.............し...ザザザッ......ザザッ..........ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ」
「ガサ」
「このSVR途中で壊れてるじゃん」
ここは2118年の地球。科学の進歩とコンピュータの進化により無限の食料生産や空間拡張が可能になり、働かずとも人間は生きれられるようになった世界。この頃の人間は暇を持て余し娯楽業界を著しく発達させた。その中でもSVRの人気は凄まじく、今や過去の全ての人間の人生をSVRによって体感することが可能となっている。
「さてと、次はこのSVRをしようかな」
「ガチャ」
突如自分のいた世界が広がり、強烈な冷気と光が差し込んで来た。
………………サムイ…………マブシイ…………………
……………………………イヤダ………………………………………………………………クルシイ……………………………………………………」
「泣き声が聞こえない!誰か教えて!!赤ちゃんは生きてるの?!」
慌てる母親とは反対に助産師は冷静に赤ちゃんを何度も叩いた。
「ペシン!ペシン!」
「あれ?叩いても泣かないな?おーい……」
「ん?なんだここはどこだ?……………………あ、そうか俺はSVRをしたのか」
ハァこのSVRも産まれて間も無く死んでしまった赤ちゃんのものか。一度使ったソフトはもう使えないし、暇だなーー………いや、待てよ、もしかしたら俺のこの人生も誰かのSVRソフトかもしれないぞ。だったらもうSVRの中でまでこんなに暇を持て余す事もない。自殺しよう!いや、でももしSVRじゃなかったら……………いやいや、そうだとしてもこんなに暇な人生にもう未練なんて無い!!このロープで首を吊ろう。
「ッ……クッ…ウッッ」
「くそッこいつ自殺しやがった。いや、俺がやったとも言えるのか」
「お疲れ!最後は自殺だったの?」
「うっせーオカマ。SVR終わってすぐお前の顔なんか見たくねーんだよ!はぁ、また新しいSVRソフト探さなきゃなんねーのかよ」
ここは3810年の地球。2958年の隕石衝突で人類が積み重ねてきた文明はほとんど崩壊した世界。日本以外の国に住む者は絶滅し、そして日本の人口も五十人以下となっている。しかし、それからは人口が全く変動していない。
「くそがッ!くそッくそッ!俺がこうやってまたその場しのぎの暇つぶしの為にSVRを探さなきゃなんねーのも全部あのジジイ達のせいじゃねーか!」
「そうね。もしも、あのとき忌々しい学者どもが私達を使って不老不死薬の人体実験なんてしなければもうとっくに死ぬことができたのよ!」
終わりの無い苦しみをどうにか誤魔化そうと男達は苦しみの元凶である学者への怒りをぶちまけた。
「あー!虚しい。残されたSVRを消費し続けるのになんの意味があるんだよ!さっさと死なせてくれよ!なんでSVRなんて探してるんだよ!俺!」
男の叫び声は曇り空に虚しく消え、冷たく張り詰めた空気はより一層静けさを増した。
「生きる喜びも目的も、もうとっくに失っている私たちを神はまだまだ生かすのよ。もういっそSVRなんてなかったら、私達は完全に思考を停止して植物のように生きられたのかもね」
「そんなことはとっくに分かってるんだよ。無駄なこと言ってねえでお前もSVR探せ」
街を材料に永い年月が創り出した残骸をあさりながら男は言った。
「いや、遠慮しておくわ。これを見て」
SVRだ。
「実は私もう新しいの持ってるの。あなたがSVRをしているときに見つけたのよ」
「チッ!くそが。今まで隠してたのか。悪趣味な奴め。じゃあまた数十分後にな!」
男は背を向け吐き捨てた。
「残念ね。早く私とまた会いたいんでしょうけど、次に会うのは80年後ぐらいかしら」
「は?」
男は思わず立ち止まり、
「おい!どう言うことだ」
振り返った。
「私が見つけたこのSVR、どうやら特別なもので体験した時間が実際に過ぎるらしいのよ。それでは80年後にまた。じゃ〜ねー」
「ガチャ」
「おい!おい!ちょっと待てよ!!おい!!」
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「あれ……?ここは……」
「カズ〜ご飯よー」
「はーい」
なんだ。夢だったのか。