2.苦しいです
『こっちだよシーラ』
「まってー」
時間が過ぎるのも早く、私は3歳になった。
3歳と言うのは微妙な年齢だ。あまり転ばずに歩けるようにはなったものの、難しい言葉をしゃべる時に時々噛んでしまったりする。
今はカナと鬼ごっこをして遊んでいた。私は鬼役でカナを捕まえるのだが、なかなか捕まらない。
けれど私はめげずに追いかけていたのには理由があった。それはもふもふのためだ。
カナは最初の方は捕まらないように速めに走っているが、私が疲れてきた時、又はカナが頃合いだと判断した時に走っている速度を緩めてくれる。そこで私は全速力で走ってカナに飛びつくのだ。
ちょうど今速度を緩めてくれた。
「つーかまえた!」
そういって私はカナに飛びついた。
最っ高〜だ。このふわふわで、もふもふさはやみつきになる。
もふもふを堪能しているとだんだん眠くなってしまう。催眠作用でもあるのだろうか。
「カナー」
『何?』
「おやすみー」
『え、また!? まだお昼前よ』
「じゃあご飯の時起こしてー」
『仕方ないわね』
これが最近の私の日課なのだ。なんだかんだでカナは私に甘い。
鬼ごっこは一見遊んでいるだけに思えるが、カナ曰く体力づくりのためにやっているらしい。つまり全力でやるわけで……精神年齢は大人でも子供の体のせいなのか、睡魔には勝てない。
そう思いながらも瞼が重くなっていき、だんだんと視界が暗くなっていく。
***
『シーラ起きて』
「んーまだねむいのー」
『今日はシーラの好きな木の実取ってきたけど、食べちゃおうか────』
「えっほんと!?」
カナが私の好きな木の実を取ってきたと言う言葉を聞き、私は先ほどまであった眠気が覚めて飛び起きた。
それを見たカナは少し呆れたようにしていたが、好きなものがあると言われて喜ばない人はいないと思う。少なくとも私は喜ぶ。
基本私の食事は木の実で、たまにお肉を食べるくらいだった。
私は木の実を食べながら辺りを見回した。どうやら私とカナが寝る時に使っている洞窟にいるようだ。おそらく私が寝ている間に運んでくれたんだろう。
この洞窟は私のためにと見つけてくれたものだった。入り口は私にとっては大きく、(カナには少し小さいらしい)中も広い上に地面から天井までが高い。
私が今着ている服は水色のワンピースでシンプルな作りだが、とても動きやすい。カナは大体私と一緒にいたので、服はどこで手に入れているのかと以前聞いたところ、知り合いに頼んでいるらしい。
私はその知り合いはあったことがないため知らないが、センスが良いという印象があった。
木の実を食べきった時にちょうどカナが帰ってきた。
今日はこのまま洞窟の外で日が暮れるまで遊ぶのかと思ったが、紹介したい人がいると言われた。カナの後ろからぴょこっと出てきたのは人だった。いや、人ではなく獣人と表したほうがいいのだろう。
その人はウサギの獣人だった。
黒いフサフサした長い耳をまっすぐ上に立てて緊張しているようだった。彼女は自分の黒髪を触りながらこちらをチラチラと見ていた。
「あ、あの」
「っ!」
『ちょっと、あなたがシーラに会いたいって言ったから連れてきたんじゃない』
私が声をかけると驚いたような表情をし、カナの後ろに隠れてしまった。
………恥ずかしがりなのかな?
彼女は何かを決心したように拳を握り締め、私の前まで歩いてきた。近くで見るととてもきれいな顔立ちをしていた。
「は、初めまして。私はウサギの獣人でクロミです。是非、クロミと呼んでください」
「はじめして。シーラです」
『シーラの服はクロミが選んで持ってきてくれたんだよ』
「そうだったんですか!? いつもありがとうございます!」
私の態度で緊張が少し解けたのか、表情が緩まってきた。彼女は優しくこちらを微笑んだかと思ったら、私に抱きついてきた。
「ど、どうしたんですか!?」
「か………」
「か?」
「可愛すぎます~! 何ですか、この子は~。ちょっとカナ、シーラちゃん私に譲ってくれませんか!?」
………変わりすぎじゃない? まあ、よそよそしくされるよりはこっちのほうが楽しそうだ。でもちょっと苦しいかなー。
クロミは抱きしめる力を先ほどより強め、頬ずりをしてきた。そして意識が遠くなりかける。
「………ぐ、ぐるじい……よ………」