4月1日の噓
「……ねえ」
「ん? 何だい?」
隣を歩く僕の彼女が、いつもの気が強そうな切れ長の眼を向けてきた。
僕の彼女は所謂ツンデレだ。
いや、ツンツンと言った方が正確かもしれない。
何せ僕は彼女から一度も、『好き』と言われたことがないのだ。
告白も僕からだったし、付き合い始めてからも常につれない態度で、本当に僕達は付き合っているのだろうかと思ったことも、一度や二度ではない。
「そういえば今日って、エイプリルフールだよね」
「え? ああ、そうだね」
だったら何だっていうんだろう?
「てことは、今日は嘘を吐いてもいい日なんだよね」
「うん……まあ」
「じゃあ今から私、嘘吐くね」
「え?」
「…………私は君が好き」
「――!」
「私は君が大好き。いつも優しく微笑みかけてくれる顔が大好き。大きな肩幅も好き。ゴツゴツとした無骨な太い腕も好き」
「……」
「いつも車道側を歩いてくれるところも好き。私が荷物を持っていると、無言でそれを代わりに持ってくれるところも好き」
「……あの」
「いいから黙って聞いて」
「……はい」
「男のくせに甘いものに目がないところも可愛くて好き。意外と方向音痴で、その割には地図を見ないで勘で歩こうとするからしょっちゅう道に迷っちゃうところも好き」
「……」
「私は君が、大大大好き。――以上よ。今のは全部嘘だから、真に受けないでね」
「……うん」
彼女は左耳にかかった髪をクイッと掻き上げた。
それが照れ隠しをする時の癖だということを、僕は知っている。
「じゃあ僕も今から一つだけ嘘を吐くね」
「え?」
「――僕は君が大嫌いだよ」
「~~~~!!」
彼女は顔を真っ赤にしながら、そっぽを向いた。
おわり