98. 透明な隠密任務
それから偵察機でだらだらと過ごす事、おおよそ一時間。
ようやくエリアYが窓の外に見えてきた。
「大気圏突入~」
見た目は、まんまYの字をした浮島だ。
X-CATHEDRAのあるエリアXは、曰く春夏秋冬をモチーフとしたデザインをしているとの事だったが、こっちは朝夕夜をモチーフとして各枝がデザインされているとか。
この辺は伊集院くんの話だ。
プライスのゆる~い声とは裏腹に、皆の気が引き締まるのを空気で察知する。これから敵地に突入すると思うと少々怖い。
「さて」
そう言って、イエローさんは本を懐にしまい込むと、自分のソファーを片付けた。
「エリアYって、ほんと見た目の通りYの字なんだね」
「エリアXと同じ人工惑星かつ兄弟星だからな」
「ルナティックに強奪されるまでは持ち主も同じだったんですけどね?」
腕と足を組んでそう文句を言うのは伊集院くん。
中心にそびえるのは、元X-CATHEDRAエリアY支部であった現ルナティック本部。人工惑星の中心にそれがある所もエリアXとあまり変わらない。
「着陸するわよー」
プライスの声と共に、偵察機が運転を止める。不思議と衝撃が伝わって来なかった。これも重力魔法やらが関係して成せる技なのだろうか。
「さて、と。【光学迷彩】」
伊集院君が呪文も唱えると、プライス以外の自分を含めた三人の姿が消えていく。透明化の魔法だ。
「プライスに続くぞ。皆透明なんだからプライスにぴったりくっつくように」
ルナティックの離発着所へと降り立つと、プライスはそのまま真っ直ぐルナティック本部へと向かっていく。僕達もまたそれに続いた。
ルナティック本部のロビーは、まるでX-CATHEDRAのロビーのように広大なものとなっていた。ただ違うのは、依頼の掲示板や転送エリアなどがない所。そして、人があまりいなくて閑散としている所。
「正面入口の前の柱の付近に居て。私は上に偵察の報告をしてくるわ」
プライスが聞こえるか聞こえないか程度の小さい声でつぶやくと、走り去っていく。
「彗、お前はこの辺の地理感無いだろ。真っ直ぐあの扉に迎え」
「分かった」
姿が見えない伊集院くんの声に返事し、言われた通りに真っ直ぐ出入口へと向かう。
自動ドアが開くと目の前に巨大な柱が2本立っているのが見えた。まるで古代ギリシャの遺跡のようだ。プライスの言っていた柱とは恐らくこの事だろう。
柱から先は一般市街地が広がっていた。
ただ、今までの惑星と大きく違っていたのは、見たこともないような生き物が沢山いた事。
本から剛毛な地球人の手足が生えている奇怪な生物が歩いていたり、全身が水で出来たカマキリの様な生き物が歩いていたり。
更には中心部に目が二つ浮かんているだけの人間サイズの竜巻などと言った、完全に生物の常識を無視した何かが買い物袋をぶら下げてたりしている。
「.......」
なんだここは。
「亜人類、増えたな」
「ええ。ここ亜人類のオアシスだもの」
振り返ると、プライスがもうやって来ていた。
「早かったな」
「どうせ誰もあんな報告なんて見ないわ」
伊集院くんが呆れた様にため息をつく。
「亜人類って?」
「各惑星のドメスティックな宇宙人ではない、生命の常識を無視している知的生命体の総称だ。さっきの目玉が2つ付いた竜巻とかはその典型だな」
どうやら小説とかによくある獣人の事ではないらしい。
「エリアYはそうしたーー差別する訳では無く便宜的にこう言うけどーー訳の分からない生物である亜人類がとても多い惑星なんだ。まあここは人工惑星だからそうした人達は皆移民なんだけどね」
なるほど確かに生命の常識を無視していたな。
どうもこの宇宙では訳の分からないの代名詞である魔法の力を持ってしても、訳の分からないと言う概念があるようだ。
「お、プライス!」
透明のままプライスの後を追うように歩いていると、プライスを呼ぶ声が聞こえ彼女が振り返る。
「ヘイス様!」
また生物の常識を無視した者がプライスへと近寄っていく。さっきの竜巻の近縁者なのかは分からないが、触れることができそうなぐらい濃厚な質感を持った紫色の暗雲に目が一対浮かんでいる。
「なんかスマート様に聞いたら、お前珍しく偵察に行ったらしいな」
「ああ、なんかラルリビ星宙域に不審な輸送船が1台飛んでる報告があったのよ。なんか見に行ったら確かにそれがあったんだけど突然それが突然丸ごと消滅したから何かと思えばなんか地球人の空間魔法使いみたいなのが居たのよ」
「地球人の空間魔法使い?」
「女だったわ。髪の毛金髪」
どうも話を聞いているとルナティックの構成員の様だ。しかも、プライスよりも立場が上でスターズ未満。中間管理職か。
「たまげたな。つーか、輸送船をひとつ丸ごと出し入れ出来る女地球人って言ったら、それ多分メタリック大学のドクター・エリアだぞ」
「誰それ」
「知らないのか? X-CATHEDRA副総帥伊集院の彼女って噂だぞ」
「マジで?」
次の瞬間、その生物が文字通り氷漬けになって地面にどさりと音を立てて落ちた。
何事かとプライスが動揺したように辺りを見回すと、伊集院くんが一言。
「確かに親しい仲ではあるが、断じて俺の彼女ではないぞ」
「そうなのかい?」
「冗談でも辞めてくれ。寒気がする」
ほのかに冷気が空気中に浮いている。どうやら犯人は伊集院くんらしい。




