96. ランデブーポイント
「作戦内容については配布した紙を念の為にもう一度読み直してくれ」
エレベーターで1階まで降りた後、いつもいる依頼を受ける大広間ではなく裏手にある離発着場へと向かう。
ルナティック本部のあるエリアYは、空間閉鎖と言う魔法による空間転移での出入りが一切出来ない。
「さ、乗り込みましょう」
「じゃ、ランデブーポイントで」
「うん、気をつけて」
ーー更に言えば、空間閉鎖以外にも、内外への通信も出来なくなる電磁閉鎖と呼ばれる魔法もエリアY宙域に貼られているため、エリアYからこちらに連絡することも出来ない。
こないだ宇宙空間にいた時に見た戦闘機とはまた違う、飛行機の様な宇宙船へと僕達は乗り込んだ。
「イエロー、運転は任せた」
「分かった」
作戦はこうだ。
まず、ルナティック本部を叩くためにはこうした空間閉鎖・電磁閉鎖を解く必要がある。
そこで、その閉鎖システムを解除するために、外部から乗り込んでこうした魔力を発している魔道具を破壊する。
こう言ってしまえば、至ってシンプルだ。
「伊集院くんって、こういうの運転できないんだ」
「こなとかならあいつは腐っても軍人だから戦闘機とか旅客機ぐらいは動かせるが、俺はどちらかと言うとこういう隠密任務の方が得意だからね」
「君は昔からそうだったよね、伊集院」
しかし、実際はエリアY宙域にはルナティックの艦隊等が飛んでいるため、外部からの侵入も困難である。
そこで、肝になるのは女スパイのプライスだ。
「反重力システム異常なし、CMコア稼働率65%から82に引き上げ……」
プライスは偵察任務の一環で、この後宇宙船に乗ってエリアY宙域をぐるりと回る予定が入っている。
それならば話は簡単だ。
「Gコントロール異常なし、離陸開始……」
宇宙船は極端に短い滑走路を、爆発的なロケットダッシュで飛び立った。映画じゃないけど普通なら席から吹っ飛ばされたりしそうのに、それがない。
不思議に思っていると、やっぱりあの人が思考盗聴でもしてるかの如く疑問に答えてくれた。
「さっきのGコンって言ってたでしょ? あれはロケットダッシュ時に機内に有るあらゆる物に掛かる重力を打ち消すシステムなんだ」
「へえ、便利なんだね」
そんなものまであるのか。流石は宇宙の科学力というか、なんというか。
「ランデブーまでの時間は?」
「2時間ぐらいを予定しているよ」
伊集院くんに対してそんな返事が飛んでくると、イエローさんがコックピットから離れて僕達の座っているリビングルームみたいな場所に座った。
「お茶でも飲むか?」
「うん」
「頂きたいね」
伊集院くんが席を立ち、船の中の棚を徐に漁り始める。
「伊集院くんとか昔から?」
「ああ、うん。昔同じ師匠の元で修行をしていたことがあってね」
イエローさんはそう言うと懐かしそうに目を細めた。
蠍と戦っているのを見た時とはまるで違う雰囲気だ。
「あの頃の彼は可愛かった」
「まるで今は可愛くないみたいな言い方だな」
伊集院くんがティーセットを3つ、自分の周りに浮かばせて戻ってきていた。
「昔の君は素直だった」
「今でも素直だぞ」
「良くも悪くも得体の知れない何かになった」
「酷い言い方だな」
2人の歓談を耳に入れつつ、窓から外を眺めた。
さっきまでエリアXの街並みが見えていたのに、もう漆黒の宇宙空間に僕達は飛び出している。
僕達はこれから、宇宙の真ん中とも言える何も無い空間に向かい、プライスの偵察機が来るのを待つのだ。
スパイのプライスがエリアYに戻って、偵察機でわざわざ待ち合わせ場所まで飛んでくるらしい。
「しかしプライスから入電されるまで暇だな」
「そうだね」
プライスの偵察機が来たら、僕達はプライスの船に乗り込んで、堂々と正面からエリアYに乗り込むのが今回の作戦だ。
「僕は武器の手入れでもするよ」
「そうか。最近ソファーの魔改造にハマってると聞いたが」
「浮いているソファーに腰掛けて肩肘ついたまま緩慢な動作で魔法を行使するって、魔王然としていていいでしょ」
「はん、流石はヤクザだな」
イエローさんはそう言うと僕達の目の前でソファーを出現させた。あの時に乗っていたものと同じだ。
「や、やっぱりイエローさんって、あの時の.......」
「ん? ああ、そう言えば蠍が来た時君も現場にいたね。そうだよ」
自分がAAAAの幹部であると隠そうともしない。
「そうか、彗も現場にいたのか。彼はAAAAでZの次に強い幹部だからね。君のことはある程度もう話してある」
「そうなんだ.......」
改めて、宇宙マフィアと繋がっている伊集院くんを不思議に思う。
なぜ彼はこんなに繋がりがあるのだろう。
そしてなぜこれだけの人がそこらじゅうにいるのに、世間にバレないんだろう。




