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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第8章~Shutdown Stage<Secondact>~
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93. 武器屋の娘・天野 空

「ほら、二人とも起きて。もう降りるよ?」

「ふぇ?」


 僕たちは電車の中にいる。


「私たち、降りたんじゃ……」

「何言ってんの、今電車の中じゃん」

「だって……ソファーウサギとかは?」

「忍者~」


 巧と鳩峰さんがブツブツと眠そうに呟きながら大きく欠伸をした。


「二人とも変な夢でも観たんじゃない? ほーら、おいてっちゃうよ!」



 あの後、僕たちはかつて僕自身が掛かった『なんだ夢か作戦』を決行した。

 こな曰わく、巧たちも魔法の影響を受け過ぎたせいで今日から明日に掛けて『進化』するとかしないとか。

 だがそれを伝えるにも手続きや準備という物があるらしく、そこで一先ずは時間を稼ぐために、こうした事はよくあるのだとか。


「じゃ、またね」

「お、おう.......」

「じゃーねー!」


 二人が去った後、天野さんが残って僕の肩を叩く。


「そう言えばさ、後でウチの武器屋に寄ってってよ!」

「え.......」


 そう言えば武器屋って行った事が無いかも知れない。

 宇宙のお店、宇宙の武器屋。どんな物があるのか、とても気になる。


「うん、暇だしそうするよ」

「マジで? じゃあ待ってるから!」

「じゃ!」

「また後で!」


 こうして僕達は別れた。

 不思議だったのは、別れ際の彼女の表情に、とんでもない焦りが見えていた事だった。でもまあ、気にしても仕方が無いだろう。それよりも、武器屋だ。


 家に帰りいつものように荷物を自分のベッドの上にぶん投げ、廃墟からX-CATHEDRA(エクス・カテドラ)へと向かって僕は足を進めた。


 スカウターを展開してマップを開くと、武器屋の位置が本部からそう遠くない事を知る。そこで到着してから早速本部の外に出て、人工惑星エリアXに飛び出した。


「……武器屋」


 X-CATHEDRA(エクス・カテドラ)本部がこの人工惑星の中心にそびえ立つ。人工惑星と言っても丸い惑星ではなく、どちらかと言うと島に近い。

 Xの字のような形のこの惑星は、左上、右上、右下、左下の『脚』に当たる部分は宇宙にある各惑星に雰囲気を似せて作られている。本部のある中心部は地球の環境に近い。


 マップを見ながら歩いていると、目的の武器屋はパン屋の角を曲がったところにあるらしい。

 宇宙にもパン屋なんて在ったのか……と言うのは僕の率直な意見だ。宇宙人ってパンなんか食べるのか。


 街は賑やかで、色々な宇宙人がそこらじゅうを歩いている。


「――ねぇ奥さん聞いた? あの蠍が見つかり次第即殺害処分になったんですって!」

「何でもあのAAAA(テトラエー)との抗争だって話よね」

「怖い話よね~!まあエリアXに居れば安全よね」

「そうね!」



 どうやら蠍がもう噂になっているようだ。


 また逢おう、って言われて本当にすぐ再会してしまうとは思ってなかった。

 なんて考えているとパン屋が本当にあったので、そこを左に曲がるとそれはあった。



「おっ!」


 武器屋発見。


 何かこう言うの見ると、あ、やっぱり魔法の世界にいるんだと言う実感が沸いてくる。

 超科学の世界に中世ファンタジーのモノがあるのも不思議な感じだ。


 武器屋の看板には『ヴァルネロ』と書かれている。恐らくはこの武器屋の名前だろう。



「それでしたら奥に良い品物がありますよ――いらっしゃいませ!」


 中に入ってみると、見慣れた人が接客を受けている最中だった。

 思わず僕は声をかける。


「伊集院君!」

「ん.......あれ、彗。どうしたのこんな所で」

「散歩だよ!伊集院君こそどうしたの?」


 伊集院くんが振り返りざまにそう質問を投げかけ、僕は質問を投げ返した。


「新しい武器のチェック、かな」


 言われて、伊集院くんは武器コレクターだった事を思い出す。新しい武器が無いか見に来たって所か。


 そう言えば、伊集院くんはなんで武器コレクターなんて物をしているのだろう。

 思い立って、素朴な疑問をぶつけて見ることにした。


「何で武器を集めてるの?」


「なんで、って.......武器には可能性が詰まってるんだよ。魔法は誰でもその呪文や魔法陣を覚えていれば使えるが、武器はそうじゃない」


 ーー例えば、同じ炎の魔法使いがいても、持つ武器が違えば戦い方は全く変わるだろう。そうやって武器には、その人の可能性を拓く力があると思うんだ。


 .......などと彼が言うと、店の奥から拍手が聞こえた。僕は拍手のした方向に目を向けると、そこにはもう1人のクラスメイトがエプロン姿で立っていた。


「流石だわ。良いこと言うよね〜」


 天野さんだ。


 まさか、本当に武器屋の娘なんてやっているとは。


「きっかけは昔、ラルリビの森を探検してた時に見たことの無い武器を見つけた事があってね。それについて調べた事なんだけど、そうしたら思いの外武器って面白くてね」

「そうなんだ」

「その内に暇が出来たら武器の博物館でも作ろうかと思ってる」


 おお〜と天野さんが感心した様子で呟く。


「でも武器って、どうやって作るの?」

「ウチにある物はメーカーが工場で作ってるものとかもあれば、ウチらがX-CATHEDRA(エクス・カテドラ)の依頼報酬で貰った武器とか色々。あとはたまに自分でダンジョン漁る」

「ダンジョン!?」


 どうやら宇宙にはダンジョンがあるらしい。

 なんだそれは。テンションが上がるじゃないか。


「ここやメタリックみたいな人工惑星にはないが、普通の惑星なら天然のダンジョンなんて割とあるぞ」

「まじか!」


 天然のダンジョンという言い方をわざわざするということは、人工的なダンジョンも存在するのだろうか。気になるところではある。


「ところで星野くん、この店どう?」


 天野さんはそう言って手を大きく広げた。

 辺りを見回すと、剣や槍、斧、杖と言ったオーソドックスなファンタジー御用達品も有れば、機関銃の様な何処ぞのアクション映画にありそうな武器、はたまた全くどうやって使うのかわからない水晶玉みたいなものまで沢山揃っていた。


 どう? って言われても。どうなのだろう。色々と凄そうではあるが、いかんせん僕は武器屋に入るのはここが初めてなので、形容詞が上手く出てこない。


「凄いと思うけど、こう言う所は初めてだしまだ良く分かんないや」

「.......お前まさかあの時の銃だけで頑張って来たな?」


 伊集院くんがちょっとびっくりした様子で聞いてくる。


「うん、でも途中でナナから剣を貰ったよ。そこそこ活躍してくれている」

「ナナが? あいつ俺の武器勝手に持ち出してないだろうな.......まあいいや、天野さん、私はこの辺で」

「ありがとうございました」



 それだけ言うと彼は小さい小包を持って出て行った。何かを買っていったのだろう。何を買ったのか、少し気になる。


「伊集院君ってお得意さんなんだよね~」

「そうなんだ?」

「ハンパないからね~、お金の使い方とか」


 こないだもウチが苦労して仕入れた、刃部分がドラゴンの鱗で出来たチェーンソーをアッサリと買いやがってさー等と天野さんは零し始める。なんだそれは。地獄の底の、魔界の武器か何かか。

 そんなにハンパないお金の使い方してるのか。一回見てみたいな。

武器屋ヴァルネロはラテン語から来ています。

vulneroで良ければお調べ下さいませ。

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