92. クラスメートは魔女
「.......気持ち悪い」
「俺も吐き気がする.......」
巧と鳩峰さんの顔色が土色だ。
多分、魔力の影響をモロに受けている。このままだと死んでもおかしくない位に2人は体調が悪そうだった。
「.......星野くん」
「うん?」
天野さんが再び杖を取り出し、警戒するように辺りを見回す。
「この駅も、人払いの結界が貼られてる。油断しないで」
そう言うと、彼女は鳩峰さんの背後へと回り込み、片手でその指揮棒のように小さい杖を握り、もう片方の手で彼女の背中を摩った。
自分も彼女に倣い、巧の背中を擦りながら銃を構えた。
「カメラとかあるけど、どうする?」
僕が指摘し、目線を送ると彼女の視線が僕の目を辿る。やがてその目は僕の指摘した、駅ホームに取り付けられた監視カメラに留まった。
「.......【記録媒体破壊】」
彼女は一瞬杖を向けて呪文を唱え、次に杖を階段付近へと向けた。
「今のは?」
「監視カメラシステムのHDDを焼いた。これなら記録は残らない」
手際のいい彼女に驚いていると、階段を誰かが降りる足音が聞こえた。そして見えたのは人間の足だ。
その瞬間僕と天野さんは咄嗟に武器を小さく萎ませて隠し、誰がやってくるのか様子を見ることにした。
すると、降りてきたのは見慣れた人物だった。
「あら、ほっしーじゃない!久しぶり!」
「......え」
「すっごい偶然!みんなしてどうしたの?」
天野さんが驚き目を見開く。無理もない。
「うん、二人が何か体調崩しちゃって.......」
「あーどれどれ.......あーそれなら背中をさすると良いわ、ほら」
小さくどいてと彼女が言うと、彼女は天野さんと僕に代わり2人の背中をさすり始めた。
「な、んか眠くなって来た」
「私も」
「寝ちゃっても良いわよ~.......さあ.......」
誘導する様な言い方をしたそばから、二人は寝てしまった。
それを確認すると、彼女は立ち上がり天野さんに向かった。
「天野さんはどうする?ちょっと気分が悪かったり――」
「【光の玉】」
いきなり呪文を唱えた天野さんの右手に光の球が浮かび上がり、それは彼女に向けられた。
「なんでこんな所に伊集院理恵がいるの」
警戒感丸出しの彼女は最早魔法使いであることを隠そうともしない。
まあ、伊集院くんは魔法使いとしても有名だ。その妹も当然魔法を知ってると踏んでの行動だろうか。
「あー、そう言う事ね、はいはい」
理恵は苦笑いする。
「天野さん、彼女は僕が呼んだんだ」
「呼んだ?」
「蠍の戦闘が終わって元に戻った瞬間に電話して無言でその映像を彼女にみせた」
そう、僕はこなを呼んだのだ。
初回に蠍と戦った時にかなり怒られたので、今回は問答無用で透明にしたままのスカウターから無言電話を掛けた。
最初は無言電話してるんじゃねえと彼女は怒ったが、僕が電話をテレビ電話に変え、僕の見ている映像を共有したらその瞬間からこの駅にワープして非魔人払いの結界とかを張ってくれたのだ。
「じゃあもう変身してる必要も無いわね。【変身】」
変身呪文を唱えると、彼女の皮膚がドロドロと溶けていき、見慣れたハローキ●ィー型宇宙人が佇んだ。
「アンタが魔女なら変身するだけ時間の無駄だわ。天野さん、改めまして伊集院理恵、もとい、こな・レジーナです」
「こな.......こな・レジーナ!!?」
X-CATHEDRA最高司令官の!? と彼女は絶叫にも近い声を上げた。
「そうよ~。それにしてもまさか貴方が魔女だとはね」
こなはチラリと巧と鳩峰さんに目配せをした。
「まあ、魔力汚染が酷すぎるけど容態は比較的安定してそうね。この2人多分、今日付けで人間辞めるわ」
「ほ、本当に!?」
「って言うか、ついでだからちょっと事情聴取させなさいよ。なんで蠍がこんな所に居るのよ」
「そ、それがーー」
かくかくしかじかで。
掻い摘んで何故かYが居て蠍と戦って、相当ふたりが魔力でダメージを受けてしまった事を話した。
「なるほどね。むしろ2人でよく咄嗟に斥力の壁とか傘とかの判断ができたわね。その雨に当たってたら少なくともこの2人死ぬか頭皮細胞破壊されて禿げるかはしてたわよ」
「2人のために気付いたら、身体が勝手に」
それから僕たちは寝ている二人を良いことに色々と喋った。
天野さんはどうやらN型魔術師らしい。僕が前回の電車襲撃事件でA型になったと教えると、彼女はびっくりした様子で。何でもあの電車テロは地球じゃ大騒ぎになったとか。
「え、天野さんって親何してるの?」
「エリアX南西で武器屋やってる」
「え、マジで? 私そこたまに行くんだけど」
「って言うか天野さん、まさかの地球外生命体!? 戸籍とかどうなってるの」
「待って、確かに住まいは地球外だけど、ウチは地球外生命体じゃなくてちゃんとした地球人だから」
 




