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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第8章~Shutdown Stage<Secondact>~
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89. スコーピオンとスパーク


 蠍とY(イエロー)が睨み合う中、恐る恐る天野さんは僕に質問を投げ掛けた。


「まさか.......アンタ、こっち(・・・)の人間なの」


 どうやら考えている事は同じらしい。

 ゆっくりと頷いて返事をすると、一瞬彼女は目を閉じ、溜息を漏らした。


「な、なんだ? 何がどうなってるんだ?」

「ちょっと、怖い……」


 巧と鳩峰さんが困惑していると、蠍が口を開く。


「本日は御主の身印を頂戴しに参上した次第」

「僕は特に人の怨みを買った覚えはないんだけど……致し方ありませんね、お相手しましょう」



 何故こんな所に宇宙人と殺し屋が現れたんだ。いきなり起きたこの訳の分からない展開に、誰もついていけてなかった。



「........まさか御主まで居るとは思わなかったがな」

「こっちの台詞だ」


 蠍がチラリとこちらに目を向けると、僕もそう返事した。天野さんは僕の発言に目を細め、僕と蠍を交互に見始めた。


「イェイツ先生.......」

「君がこの電車に乗ってきた時は見覚えあるなと思ってたけど、まさか君がこんな所にいるとはなあ」


 天野さんは天野さんで、このY(イエロー)と言う人とはどうやら知り合いらしい。一体どんな関わりのある人なのだろう。そして何故蠍が彼を狙っているのだろう。

 何より、どうして宇宙人が変装してこんな場所にいたのだろう?


 そんな疑念がいくつも頭の中を渦巻いていると、そのラルリビ星人は徐に口を開いた。


「それにしても、ルナティックにまさかここまで組織の情報を掴まれてるとはね。ちょっと油断したな」

「ほう、雇い主を知っているのか」

「もちろん。僕は君と違って表沙汰に出来る人脈も多くてね」


 彼は不意に座り込む様子を見せると、この異空間で何も無い所から1人がけの大きなソファーを出現させそれに座り込んだ。

 彼がその上で脚を組むと、ソファが独りでに浮き上がりソファーの脇から鋼鉄製のアームが幾つも現れた。


「くっ、星野くん悪いけど武器をーー」

「手出しは不要だ。僕が戦うところをそこでゆっくりと鑑賞していなさい」



 天野さんがこっそりと僕に耳打ちをし始めると、彼はそれを聞いたのかそう静止した。天野さんは複雑そうな顔をしてずっと鞄に入れていた手を出すと、難しい顔をしながら腕を組んだ。



「さあ、来なさい」



 Y(イエロー)と呼ばれた兎人はそう言うと、鋭い電撃の音と共に彼とソファが半透明な膜で覆われた。何かの防護壁だろう。



AAAA(テトラエー)副リーダー.......その御身、一筋残らず消し去って見せよう」



「なあ、彗.......天野さあ.......これ、何がどうなってんだ?」


 蠍が刀を構えた所で、巧がこっそりとにじり寄り耳打ちをした。


「【雨天の花(ブルイレザーネ)】」


 どう答えたらいいか分からずに立ち尽くしていると、Y(イエロー)の掌から霧の柱が立ち上がり、巨大な雨雲が僕達のいる異空間に展開された。


「きゃっ!」


 大雨が降り始める。


「どの道消える、か.......」


 天野さんがふとそう呟くと、彼女は無言で何も無い所から傘を出現させて、それを僕達に渡した。


 今のは紛れもなく、魔法だ。


「あ、天野さん!?」

「こういう事故みたいな物で非魔人が魔法界に晒されるとね、みんな魔法に関する記憶を消されるのよ。今更隠しても同じこと」

「そ、そうなんだ.......」


 諦めた様に天野さんはそのまま簡素な椅子を4人分作り出し、そこに座り込んだ。唖然と立ち尽くす巧と鳩峰さんを見て、彼女は座るように促すと、2人は渋々とその椅子に座り傘をさした。


「【(トウ)】!」



 蠍がクナイ手裏剣を投げ付けると、Y(イエロー)のソファを包むバリアに当たることなく不自然に弾道が逸らされる。


「いけませんね」


 浮遊するソファで肩肘を着いた彼がそう言うと、ソファの横のアームから幾つもの光線が放たれ始める。



「【雷の濁流(ナディヴァジュラ)】」


 Y(イエロー)の呪文と共に足元に電流が走る。

 咄嗟に無詠唱で僕は僕達4人の座っている椅子を浮かび上がらせて二次被害を回避すると、天野さんを含む全員が驚いた様子で僕を見た。


「.......星野くん、やるじゃん」

「ギリギリだった」


「【(ジン)】!」


 空中に魔法陣を出現させて飛び上がっていた蠍は、その魔法陣を踏むとそこから更に手裏剣を雨のように降らせ始めた。


「効きませんね」


 手裏剣が再び不自然な挙動でソファを避け、地面に落ちていく。

 Y(イエロー)のそのあまりにも余裕な姿に、僕は唖然とした。

 仮にも一流の暗殺者だ。

 一流の殺し屋を前に彼は浮遊してるソファで足を組んでいるが、どこからそんな余裕が来るのだろう。



「斬っ!」


 空中から素早く斬り掛かりに行くと、蠍の刀が空振りする。

 空振りした隙に電気の塊が蠍に至近距離で飛ぶと、堪らず蠍は変わり身を使い攻撃を回避した。


「なるほど.......磁力か」


 蠍のその言葉にY(イエロー)が嬉しそうに目を細め、頷いた。


「金属は私には通じませんよ」

「ほう。【忍法(にんぽう)火遁針陣の術(かとんしんじんの術)】」


 今まで敵に当たらずに地面に刺さっていた無数の手裏剣から、一斉に魔法陣が芽吹き火柱が上がる。

 堪らず水のバリアを展開すると、蠍が攻勢を強め印を結び、地面から蔦が伸び始めた。 


「面白い魔法を使いますね」


 蔦をアームから伸びるレーザーで焼き切りながら、Y(イエロー)は雷で出来た槍を緩慢な動作で投げつける。

 蠍はそれに対して木の葉で出来た手裏剣を放つと、突如木の葉手裏剣が点火し燃え盛る刃がソファを刻んだ。


「流石は世界有数の電気使い。だが御主の技は大方見切った」


 そう言うと、蠍は真っ黒な煙を発生させる爆弾を足元になげつけ闇に隠れた。


「なるほど。闇の煙幕ですか。確かにレーザーは光だし、僕は電気偏重だから闇に吸収されるね」


 彼はそう言うとニッコリと笑って呪文を唱え始めた。


「【雷落とし(ジェマンダ)】」


 雷が落ちる。

 その物凄い衝撃と轟音に、思わず僕達は目を瞑り耳を塞いだ。


「私の雷に耐えられますかね。【反復魔法(レペティス)】!」


 再び雷が僕達の至近距離に落ちる。

 雷が落ちる度に、空気と雨粒を伝ってその衝撃がビリビリと伝わり、自分の鼓動で息苦しくなる。


「こ、怖い.......!」

「.......」


 雷がそこらじゅうに、それこそ今降っている雨のように(・・・・・)降り注ぎ地面を抉っていく。


「隙を見せたな」


 楽しそうに手を掲げた瞬間、蠍の声が聞こえ金属がかち合う音が聞こえた。



「チッ!」


 ソファが突然黒煙を上げるのと同時に、蠍が舌打ちをした。


「やってくれましたね」



 雷を乱射するという暴挙に出ていた彼が雷の嵐を止めると共に、浮いていたソファが静かに地面に着陸した。


「斬っ!」


 すかさず斬撃を繰り出す蠍に対し、Y(イエロー)が遂にソファから飛び上がり回避行動をとる。


「ふふふ、まさかソファが破壊されるとは.......では、第2幕と行きましょうか」


 そう言って彼は懐からカプセルを取り出すと、その中からやや大きめな白銀の銃が出現し彼は構えた。


「さあS(スコーピオン)、僕と殺し合いをしよう」

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