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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第7章 〜Shutdown Stage〜
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85. 忍法・演舞封殺

「……蠍!」


 何故彼がここに居るのかは分からない。

 だが今回の空気は彼が戯れにやってきたのではないと告げていた。


 彼もまた、仕事(・・)で来ているのだ。


「本来陽動作戦など不必要だったのだが……依頼主がどうしてもと言う物でな、致し方なかった」

「陽動作戦……!?」


 彼の発言に、耳を疑った。


「そうだ。この前のハブルームにアクアンそしてラルリビの陽動行為は全て、裏を読むのが得意なX-CATHEDRAの警戒心を高め、今回の(・・・)陽動作戦に掛けるためのフィッシングだ」


 あの戦艦と戦闘機を使った襲撃自体が陽動と言う事実に、眩暈を覚えた。

 全ては蠍をこの場に潜入させるための出来事だったのだ。


「つまり、僕たちはまんまと釣られたって事か」


 なんて奴らだ。


「佐用。後は拙者が、この星の主を消去するだけなのだが」


 スッと日本刀を構えるアサシンは僕を見つめこう続けた。


「それだけではつまらん。芸がない。後は分かるな?」

「……分かった」



 彼の目的はこの惑星を支配する帝王その人なのだ。ここから先に、生かせるわけには行かない。

 そう言う事ならと、僕も竜殺しに特化した歪な形の剣を構えた。


「御主の御霊は拙者が一筋残らず消し去って見せよう」

「そうは行かない!」


 彼が日本刀を逆手に構えてみせた。

 勝てるだろうか。

 勝てなくても時間は稼げるだろうか。



「では精一杯の抵抗を見せて頂こう.......――斬!」



 一瞬姿勢を低くすると、恐ろしい速さで彼が刀を振るい僕はそれに応えた。金属のぶつかり合う音が広場に響いた。


「ぐっ、【帯電付与(ナンブレード)】!」


 電撃を金属伝いに流しこむと、蠍が些か吃驚したような仕草で一歩引く。


「ほう、なかなかやる様だな――【(レツ)】!」


 印を刻みながら唱えると、ポンと言う音と共に一気に広間に蠍の分身が大量に出現する。

 これは、この間僕が実質的に敗れる原因となった魔法だ。この間の二の舞にしないためにする事は一つ。



「目を瞑るとな」

「血迷ったか」


 僕は目を閉じて気配に集中した。下手に波動系の魔法で一掃したら、また分身が爆発して毒ガスでやられかねない。それならば……


「降参か?」

「遠慮なく切り捨てるとしよう」



 ――見つけた。



「【パルスニードル(パルスティング)】!」


 空気の流れを感じ取り、電撃の針を、確実に分身ではなく本体に投げ付けて攻撃をした。


「ぐおっ!?」

「な――」

「気配を読むとは――」


 針が命中した瞬間、分身が消滅し広間が静まり返った。


「同じ手は二度効かず、か……【(トウ)】!」


 次に蠍は眼にも留まらない速さで手裏剣を投げ付ける。躱そうとすると、そのクナイ手裏剣は不自然な挙動で軌道が曲がり、僕は躱しきれず肩に傷を負った。


「くっ、【捕縛の蔓(ラヴァイン)】!」

「【(ジュウ)】――【(トウ)】!」

「【炎の壁(ディフランマ)】!」


 床から植物のつるを伸ばして攻撃しようとすると、蠍はそれを跳躍することで回避し呪文で壁に貼りついた。

 続け様に放たれるクナイの雨に、たまらず僕は防護壁を張った。


「【(レツ)】ーー【(バク)】!」


 蠍が壁を走りながら印を結ぶと、僕の張った炎の壁に突然裂け目が生じた。

 すると蠍の続け様の呪文で爆炎が放たれ、僕は堪らず吹き飛び床に叩きつけられた。


「うわっ!」


 蠍が床に倒れ込んだ僕の隙を逃さず飛び上がる。起き上がる暇もなく転がるように回避すると、数秒前に僕の胸の在った場所には一振りの刃が深々と刺さった。


「喰らえ!」


 拳銃に持ち替えて魔法の弾を撃つと、蠍は地面に刺さったその日本刀を抜きながらその弾丸を刀で弾き、一気に僕の元へと詰め寄った。

 そして彼が刃を振り下ろそうとした時、僕はまた剣に武器を変更しそれを受け流すように刃をかち合わせた。


「ほう、やるな」

「まだまだ!」


「くっ!」


 蠍が手裏剣を放つのを目視し、回避行動を取るとそれに合わせて地を這う爆炎が僕の回避先に向けて放たれる。


「猪口才な」


 詠唱を破棄して電撃を放つと、蠍が反応して土の壁をまた無言で建ててこれを防ぐ。


「【ウインドブーマー(ウインドブーマー)】」

「【(トウ)】!」


 土壁ごと蠍を風の大砲で攻撃すると、蠍が華麗に跳躍し手裏剣を弧を描く軌道で放つ。

 彼がそのまま日本刀で僕を斬ろうと空中から攻撃すると、今度は僕がその兜割り攻撃を剣で受け流してみせた。

 一瞬驚いたような目をした蠍の腹に向かって蹴りを入れると、蠍は堪らず腹を抑えながら数歩後ろに後ずさった。


「どうだ!」


 そして何より、蹴りを入れた事で蠍は武器の日本刀を手放していた。

 それを拾い上げた僕は、左手に刀、右手に自分の剣を持って歪な二刀流状態となった。


「この僅かな間によくぞここまで成長したな」


 その一言で蠍の目付きが変わる。

 彼は後方に跳躍すると高速で印を結び始めた。


「……【(ジン)】!」


 その掛け声と共に、彼を中心とした魔法陣が現れた。彼の手の動きはまるで蛇のような動きだ。


「ーー【忍法(にんぽう)演武封殺(えんぶふうさつ)】!」


 彼の詠唱が終わった瞬間、印が結ばれた手を中心に見えない波動の様なものが僕に干渉した。


 次の瞬間、僕の両手から武器が滑り落ちた。


「えっ?」


 慌てて武器を再度手に取ろうとするが、何回掴んでも、握っても、手が言うことを聞かない。

 武器を持てない。


「もう武器は使えんぞ」


 伸びてきた拳が僕の顎にヒットし、気がついたら僕は床に倒れていた。


「ど、どういう事だ……」

「此は武器を封じる拙者の固有魔術だ。もう拙者も其方も武器を使う事は出来ぬぞ」


 顔面目掛けて降りかかる踵落としを避け、何とか起き上がると僕はそのまま蠍の頭に目掛けて蹴りを――


「ぐっ!」

「ぐあっ!」


 ――蠍と全く同じタイミングで放ったために、相打ちとなり二人して床に倒れ込んだ。


「いててて」

「ぐ、ふぅ」


 武器が使えないと言う事は、純粋な魔法による勝負という事だ。


 .......ならば。


「【炎の壁(ディフランマ)】!」


 いつの日か、地面に炎の壁を張り辺りの草を焼き払った時のように、床に火炎を撒く。


「【忍法(にんぽう)水柱(みずばしら)】!」


 対抗して、蠍は巨大な滝の様な術を放ち、瞬く間に辺りを水浸しにする事で業火が清められていく。


 .......掛かったな。


「【サンダーネット(スカテレクトロ)】!」


 水浸しの床に手を当てて、電撃の網を展開する。

 部屋中に電流が流れ、蠍を電流が襲い彼は仰け反った。そして、シールドが砕け散る音を確認して、僕は攻撃の手を止めた。


「はぁ、はぁ……」


 僕の勝ちだ。


「ふ、不覚……しかし、拙者の目利き通りだな」


 砕けたシールドをよそに、スッと立ち上がると忍びは此方を見定めた。


「何れまた逢おう」

「いずれ、また……?」


 後方から足音がドカドカと聞こえ、僕が入ってきた扉が開くと共に、蠍が煙となって消える。


「今のは.......まさか、蠍!?」


 レッドが驚いた様な声を上げた。


「……でももう終わっちゃったようね?」


 こなの声が聞こえる。

 それは問い掛けではなかった。


「うん」


 何とか、この先を死守する事が出来た。

 任務完了だ。

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