84. 撤収
「【ファイアリフト】」
漆黒の闇の中で、掌に炎の玉を出現させた。
今、拳大の大きさの火炎球が現在僕らにある唯一の光の供給源だ。
「先にメタリックに戻ってて。私はここの後始末をする」
「分かった」
ポケットに忍ばせていた簡易転送装置を作動させ、転移の時を待つが、その時は訪れない。
「あれ?」
「あー、電源叩き落として非常電源に切り替わる時に一瞬電気供給が絶たれたあいだに、こっちの空間ハッキングも切れたみたいね。また空間が閉鎖されてるから自力で戦艦の外に出てワープした方が早いわよ」
そんな訳で、先ほどの縦穴の前まで僕は疾走したのだが。
「ここ、どうやって降りようかな」
登るのは簡単だったが、降りるのはまた別の話だ。
僕は目の前の大穴に飛び降り自殺の練習みたいな事をする程の勇気は、生憎持ち合わせて居ない。
特に今の段階ではまだ重力操作の魔法や風の魔法についてもまだそこまで勉強出来てない。覚えていれば簡単に降りれたかも知れないが。
「食らえ!」
「うわっ!?」
突然声が聞こえると、自分の首に今正に何かが振るわれようとする何か感触が伝った。
その風の流れを察知し、振り向きながら咄嗟に僕は一歩身を引き回避行動を取った。
振り向いた視界に映ったのは、剣。
敵の兵士が一人、僕に向かって奇襲をしかけたのだ。
……って、あれ?
「うわあああああ!?」
当然、振り向きながら一歩後ろに引いたら、そこにあるのは床ではなく大穴だ。
真っ逆さまに落ちていく中で、咄嗟に床に向けて水の壁と頭の中で唱えると、水が緩衝材となり僕は床に叩きつけられた。
「いっ――!」
結構頭から真っ逆様に落ちたが、とりあえずは動けそうだ。
あの高さから落ちて死ななかったのは、咄嗟に水で衝撃を緩和したのもあるけれども、やはりドライブで展開しているシールドの加護なのだろうか。
科学の力ってすばらしいな。魔法と科学の共存、悪くない。
.......って感心してる場合じゃなかった。
「いやでもラッキーだな……」
まだ首の辺りがジンジンと痛むが、お陰で降りる事は出来たし、先程ビームの嵐をかいくぐって入ってきた戦艦の大穴の前に戻ってくるのは一瞬の事だった。
「おっと……そうか戦艦の外は無重力なの忘れてた.......」
穴の外に飛び出した瞬間、重力が無くなり再びバランスを崩しそうになる。
戦艦のジャミング範囲がどれくらいだか分からないので、とりあえず戦艦から1人脱出して離れると一瞬眩い光が後方から輝く。
「うわっ」
あまりいい予感はしなかったが、簡易転送装置を手に一応戦艦の方に目をやると、僕が見た最後の光景は炎の海に包まれる戦艦と、青白い破壊光線が戦艦をぶち抜く光景だった。
ひょっとしなくてもアレはこなだ。
◇
「ふー……」
本日二度目の、クローゼットの中からこんにちは。
メタリック星に行こうと思っていたら、考えてみればメタリック城も今空間転移での出入りが出来ない空間閉鎖状態にあったのを思い出し、オナラーズ本部から僕は再びメタリック城に侵入していた。
あれからそこそこ時間は経っているが、こなからの連絡やトール隊長の通信等は来ていない。
それどころか、僕がたまたま運がいいのか悪いのか分からないけれど、兵士の姿がいない。
「みんな出払ってるのかな?」
独り言を呟きながら廊下を歩いてるけど、やっぱり違和感を感じる。足音が金属質の四面に反響して何倍にも聴こえて何だか不気味だ。
みんなあの戦艦を撃墜しに行ってるのだろうか。あるいは、流石に司令室まで戻れば誰か居るかもしれない。
そう思って、僕は道を思い出しながら進んで行きやがてさっきのシャンデリアの広間まで辿り着くことが出来た。
「.......空気が違う」
なんだこれは……
空気がなんだかねっとりと自分の肌に吸い付いてくるような、不快な感覚。
いやな予感がして、懐の武器に僕は手を伸ばした。
「――【投】!」
「くっ!」
僕が咄嗟に剣で弾くと、宙を舞ったのは敵の日本刀。
「腕は上がったようだな?」
まさか投げられて来たのが日本刀とは思いもしなかったが、そんな事はつゆ知らずと僕が弾き飛ばしたそれを宙で掴むと、彼はピッタリと僕の目の前に舞い降りた。
「やはり来たな.......」
忍者蠍。
ルナティックに雇われた暗殺者。




