82. 脳筋って何ぞや
とりあえず、今回の防衛任務で分かった事が二つある。
「こな様はどちらでしょうね?」
隊形を組みながら歩いていると、兵士の一人がそう呟いた。
「こな様ほどの力の持ち主なら、近付けばその魔力の波動ですぐ見つかるだろう。焦る必要はない」
――まず1つ目だ。
突然鼓膜が破れかける様な爆音と地響きと共に、目の前に続いていたはずの廊下が突然光に包まれ跡形もなく焼失する。
「○×△□※……!?」
「あら?意外と早めに合流出来たみたいね」
壁どころか天井や床すらも抉る謎の破壊光線を放ったらしいこなが、壁の向こう側から何食わぬ顔で出現した。
「姫様!」
――1つ目はこなを敵に回すと、その瞬間に寿命が尽きるって事だ。
「こ、こな様……今のは流石に尻餅ついてしまいましたな」
「あら、御免遊ばせ」
「何をしたの、こな」
「う~ん.......新しい道を作った感じ?」
いや、貴方新しい通路を作るだけでは飽きたらず、天井と床も抉り取りましたよね。
巨大な風穴が、歩いていた通路の両サイドの壁に開いているし光線の軌道上には瓦礫すら残っていないのですが。
と言うか道、作ってない。
むしろ消してる。
「敵は怖がらせなくちゃ。失禁……間違えた、失神した兵士ほど使えない物は無いわ」
こなはクククッ、と笑いながらそう言った。
「味方まで失禁に追い込むのは感心しませんな」
「だから間違えたってば。早く行きましょ、じゃないと貴方もチビらせるわよ」
「……」
トール隊長とそんな冗談を彼女は交す。彼ははははと笑うと、まるで何事も無かったかのようにこなを中心に新しく隊形を形成し歩みを再開した。
まるでこれが日常茶飯事みたいなノリだ。いや実際そうなのだろう。なんて恐ろしい……
「……こな様下がってください。【爆音波】!」
トール隊長がふとこなに向かってそう言うと自身の武器を出現させ、音の大砲を前方に放った。
巨大なランチャーの様な物から音の暴力が広がっていくと、奇襲攻撃を試みようと迷彩で擬態していた敵兵士を吹き飛ばした。
「急ぎましょう」
「ええ、そうね」
こなはそう言うと徐にヘルムの内側にあるスカウターを弄り、各部隊に指示を出し始めた。
「我々の現在地は地下三階、コアは二階みたいね。珍しいタイプね、動力は大抵地下なのに」
「階段なら向こうの方に在りました」
「階段ねえ。どっちから行こうかしら」
こなが腕を組み頭を傾げて沈黙する事約5秒。彼女は二手に分かれると言い出した。
「第2特殊部隊は階段へ。司令室を探してそこを無力化して。彗、アンタは私と動力路を叩きに行くわよ」
「分かった」
「承知しました」
短くそう返事をすると、隊長と兵士たちはザッザッザッザッとテンポのいい駆け足であっという間に近くにあった階段を登っていき、あっという間に消えてしまった。
「で、僕たちはどうやって動力路を探すの?」
――で、僕が学んだ2つ目の事。
「アンタ学習能力無いわねー、こうするのよ」
彼女が腕を天に翳すと、突然その手から極太ビームが放たれ、その半径の分だけ綺麗に天井が無くなった。
新しい道が出来たようだ。
「は、ははは……そ、そうだね。コレが一番早いよね。あはは」
――地球人の常識は全く通用しないと言う事だ。
普通、どこかに潜入したり、敵地に居たら目立つような行動は控えるはずだ。
ところがこの人は、そんなこと知るかと言わんばかりにやりたい放題で無茶苦茶だ。
と言うか、この人の行動があまりにも何でも有り過ぎて、もう笑うしかない。
さっきこの人『流石に戦艦は魔法では破壊できない』とか言っていた気がするけれど、充分破壊し尽くしていると僕は思う。
「じゃあ行きましょー」
一刻も早くその場から立ち去りたくて、魔法で一気に大穴を飛び上がった。
多分あの場にあれ以上居たら、こなのことがトラウマになる。
「……はあ」
気がつけば、脚がガタガタ震えている。味方が怖くて生理的に震えているのだ。
「よっと!」
程なくして、震えの元凶がハルバードを使い、魔法すら使わずに器用に上がってきた。
「さあてお宝は何処かしら~?」
呑気だ。
伊集院くんが事ある毎にこなのことを脳筋と言うが、確かにこの人は脳筋なのだろう。
僕はこなの魔力を受け継いでいるらしいけれども、こんな脳筋までは受け継がないようにしなくてはと心に誓った瞬間でもあった。




