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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第7章 〜Shutdown Stage〜
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81. 戦闘機は生身で充分

「前方に敵戦闘機群確認、これより第2特殊部隊と合流し迎撃する!」


 こなの声がスカウター越しに聞こえてくると、その直後に後方から龍の様な炎の大砲が放たれた。


 .......思うに、宇宙空間は燃えるものなんて何も無いはず。

 あの魔法、何がどうやって燃えているんだろう。


「彗聴こえる? 戦闘機程度なら人間の力で迎撃する事が出来るから、向かって来る様なら魔法で撃ち落とすのよ!」


 彼女の発言は色々と無茶苦茶だ。

 正気の沙汰じゃない……


「ほら!危ないっ!!」


 こなの命令にドン引きしていると、前方で戦闘機が旋回するのを確認した。

 こなも本気だし、向こうも本気だ。

 


「うわああっ!」


 旋回を終えた瞬間、向かってくる戦闘機からレーザーがこちらに向かって容赦なく放たれる。



「【防御光膜(ペリシュ・ライト)】!」



 反射的に唱えた防衛魔術で、辛うじてレーザーを掻き消すものの、即座に戦闘機本体が轢き殺しに掛かって来る。


「ば、ば、誤電(バグスタ)――」

「――【衝撃弾H(ホーミング衝撃弾)】!」


 自分が呪文を唱え終わるよりも早く、横から蒼い電撃を纏う球が飛来し、戦闘機を弾き飛ばす。

 あまりサイズの大きくないその弾丸に戦闘機が被弾すると、まるで巨大な隕石にでも当たったかのようにその戦闘機は大きくバランスを崩し回転しながら宇宙空間を舞った。


「何やってんのアンタ、動きが遅い。向こうの敵意はわかっているでしょ!?」

「ご、ごめん」


 スカウター越しに怒号にも似た声が響く。

 するとようやくバランスを取り戻した戦闘機が方向転換し、再びこちらへと向かい始める。


「ほら、また来たわよ!【H衝撃連弾(ホーミング衝撃連弾)】!」


 こなはハルバードを構えると、先ほど放った蒼白いエネルギー弾を大量に撃ち出した。たまらず戦闘機が旋回するも、その衝撃の塊は不自然に弾道をねじ曲げ戦闘機を追尾した。



「自分で言うのもなんだけどアレね、ホーミング性能かなり高いのよね……【インフェルノブラスト(ドランフェルノ)】!」


 宇宙空間に空気はないから音は聞こえない。しかし確実に、何故か存在していた炎の龍は幾つもの衝撃で疲弊した戦闘機を捕らえ、飲み込んだ。


「【水の壁(ディモイス)】!」


 水の壁を展開するとほぼ同時に、戦闘機が爆発しその破片が僕達に襲い掛かる。

 戦闘機の破片がその壁に吸収されて僕たちは難を逃れると、こなが足からブースターを噴き出しながらこちらへと近寄った。


「大丈夫?」

「う、うん」


 一瞬で跡形もなく炎が消え去り、戦闘機も粉々に砕けて宇宙空間をひたすら彷徨うのだろう。

 その事に僕は凄く罪悪感を感じた。

 あの戦闘機には人は乗っていたのだろうか。それとも無人の、ドローンみたいな物なのだろうか。



「ほら行くわよ、ぐずぐずしてるとまた狙われるわ!」

「う、うん」


 出来れば後者であって欲しい。そんな事を考えて移動をしていると、宇宙空間のド真ん中に何人かの人だかりが浮かんでいるのを僕は見つけた。


「姫!」

「トール隊長!どう?」


 左腕が金属で出来た猫人間が出迎えてくれた。

 どうもこなの事を姫と言っている辺り、メタリック軍の人だろう。


「敵はルナティックの様ですな」

「やっぱり? あんな戦艦でメタリックに喧嘩ふっかけて来るのなんて今どきルナティックぐらいしか思い付かないもんね」


 ルナティック。

 またあの組織だ。


 その名前を聞いて、思わず拳を握った。


「この人は?」

「トール、この子はX-CATHEDRA(エクス・カテドラ)期待の新星、星野彗よ。彗、このちょい悪オヤジはメタリック第2特殊部隊隊長のトールよ」

「おお、さては姫からの依頼かな? よろしくな」


 宇宙空間で鎧を着込むその人は左腕は恐らく義手なのだろう。非常に声が低いトールさんは、生身の方の手を僕に差し出した。


「よ、よろしくお願いします」


 僕も右手を差し出して握手を交した。ちょい悪と言われてもどこがちょい悪なのかは僕の目からは分からない。

 と言うのも、メタリック星人は皆、こなと似たような顔だからあまり違いがよく分からないのだ。


「戦艦との接触にはどれぐらい掛かる?」

「最速5分、ステルスで行っても10分でしょうな」

「分かった。私はいつも通り最速で叩きに行ってくるわ。トールたちは安全にステルスで」

「承知しました」

「彗、アンタはトールと一緒に戦艦に突撃してね。じゃ、行ってくるわ」


 僕が返事をする暇もなく、こなそう言うと靴のブースターの出力を最大に引き上げ彼方に見える戦艦に突進していった。


「【光学迷彩(ステルーン)】」


 やがてこなはハルバードから炎を噴き出させ更に加速して行くと、横から隊長がそう唱え姿が見えなくなった。すると、周囲の隊員らも同じ魔法を唱え、見えなくなっていく。


「えっと……」

「おっとすまんね、【光学迷彩(ステルーン)】」


 僕がそんな魔法を知らないのを察してか、トール隊長が呪文を唱えてくれた。自分の体がどんどん夜空の色へと染まっていく。


「姿は見えないが、まあ靴のブースターから火を吹いているのだからお互いの位置が見えないってことは無いだろう。では第二特殊部隊、突撃!」


 トール隊長の声が聞こえると、みんな一斉に戦艦へ向かって進み始めた。




「うわっ!」


 移動を開始して約5分。

 突然何かが爆裂した衝撃が僕らに襲い掛かった。


「おっとっと……今のは?」


 どうやらその衝撃を感じたのは僕だけではなかったみたいで、近くの兵士が何人か驚きの声を上げる。


「隊長!どうやら姫が戦艦に穴をあけた様です」


 1人、そんな声が聞こえて僕は戦艦の方向に目を向けた。

 そこにはまるで座礁でもしたかのような大穴の開いた戦艦があった。言わずもがな犯人はこなだ。


「姫は相変わらず強硬な姿勢だな、我々も続くぞ!」


 こなが無理矢理戦艦に穴をあけたからなのか、辺りを舞っていた戦闘機たちが一斉に帰還を開始する。


 いや、生身で戦艦に穴をあける、って……まさか本当にそんな事をするとは.......


「あの、戦闘機撃ち落とすべきですか……?」

「いや、あのまま帰還させてやれ。うかつに撃ち落とすと我々の居場所が見つかってしまうからな」

「なるほど」


 戦艦に穴が開いた時点で、僕はこの作戦に意味があるのか疑問に思った。

 ぶっちゃけこな1人でもあの戦艦をスクラップに出来るのでは。


「前方に対人用機雷確認!」


 トール隊長の言葉に反応すると、星雲の様に広がる爆弾の海が目の前に広がった。


 対人用の機雷。そんな物があると言うことは、生身の人間が戦艦に降りてくる事も想定されているということだ。


「うーむ……機雷の検知範囲に入らないように進むしかないな」


 機雷の雲を縫うように進む僕たち。

 言うのは簡単だが、機雷の検知範囲ってどれくらい大きいのだろうか。全く検討も付かない。


「一体いくつ設置されてるんだ……!?」

「隊長、危ない!」



 機雷の一つが何かを検知し赤色に変色すると、小さな爆発を起こした。すると連鎖的に他の機雷も赤くその身を染め、次々に爆発を起こし始めた。


「しまっ――【水の壁(ディモイス)】!」

「まて!よせ―――」


 兵士が水の壁を張ろうとした瞬間、戦艦から光の束が一斉に伸び始めた。

 見つかったのだ。


「魔導探知に掛かった様です!」

「やむを得ん、強行突破!」


 トール隊長の言葉と共に、僕を含めて全員の迷彩が一斉に溶け始め、みんな一丸となって戦艦へ立ち向かった。

 幸いもう戦艦に開いた横穴に僕達も近付いている。このまま突っ込めば戦艦に侵入出来るはずなのだ。


「ぐっ!」


 防衛魔術を張ろうとしても、湯水のように流れてくる光線を全て躱したり避けたりするのは些かできない。

 放たれる無数のレーザーは遠目で見たら丸で一本の巨大な光線だろう。


「突っ込めーー!」


 全員で一丸となって開いた大穴に向かって進んで行く。


「うわっ!」


 最初に戦艦に侵入出来たのは僕だった。

穴の内側に侵入出来た途端、グンと身体を引っ張られる感覚が有り、僕は顔面から床に叩きつけられる。


「ふぎゃっ!」


 戦艦内には重力が存在するらしく、穴から内部に飛び込んだ途端に僕は重力で床に顔面衝突したのだ。

 そればかりか、僕の上に倒れ込むように隊員がどんどん乗っかってくる。


「重い.......」

「おおっ? すまんな」



 隊員たちが全員僕から降りると、酸素が肺に流れ込んで来る。

 生きている実感が湧く。


 おかしいな。宇宙空間にいる時は酸素があって、戦艦の中に入った途端に呼吸が出来なかった。と言うか普通に圧死するかと思った。色々と辻褄が合わない気がする。


「さあ、こな様と合流するぞ」


 酸欠で色々と回らない頭を無理矢理持ち上げると、僕は戦艦の中を歩き始めた。

 ここの何処かにこながいる。まずは彼女と合流しよう。

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