79. 宇宙要塞メタリック
「このお城、凄い広いですよね」
レッドさんに連れられて廊下を歩いているが、目的地が皆目検討もつかない。
ひたすら廊下を歩き続けているけれど、そろそろ脚が疲れて来た。
「ん、まあこの星全体がひとつの巨大な軍事要塞だし、この城はその中枢だからまあ当然かな」
「軍事要塞?」
レッドさんは当たり前のように発言する。
星全体が要塞とはどういう事だろう。
「ああ、軍事帝国……いや人工軍事惑星なんだ、ここ。この銀河団ではエリアXと並んで科学と魔法の最先端を行く星さ」
そこから、レッドさんが簡単にメタリック星について説明をしてくれた。
――メタリック星。
人工惑星とも、宇宙要塞とも言われるこの星は、言われる通り人工的に作られた巨大な要塞。
生け花とかに使う剣山を2つ、表裏でくっ付けた様な見た目のこの星は、その中央に一際巨大なタワー状のメタリック城がそびえ立っており、そこが星の中枢を担っている。
メタリック帝国の皇帝一族はみな非常に強力な魔法使いの家系でもあり、中でもマヨカ・こな・レメディのレジーナ王朝三皇女は全員規格外の戦闘力を誇る軍の中枢でもあった。
そして皇帝もまた絶大な力を持つ高位の魔法使いだ。
宇宙に人が居ると初めに聞いた時、僕はよく宇宙モノのアニメや映画に出てくる、超未来的な都市を勝手に思い浮かべていた。メタリック星はまさにそれにドンピシャ当てはまる場所だった。
ハブルーム星、アクアン星、ラルリビ星とかを回ってその先入観は大いに崩れたけれど、ここは未だにロマンをくすぐる。
「さ、着いたぞ」
「うわぁ……!」
途方も無く広い空間に出て上を見上げると、僕は絶句した。それだけで国一つを丸ごと買えそうなぐらい、巨大なシャンデリアが頭上にあったのだ。
「あら?レッドに星野君じゃない」
首が痛くなってきた所で、これまた懐かしい声が聞こえた。
「レメディ!」
「首痛くなっても知らないわよ」
「もうなってる」
僕の返しにふふっと彼女は笑うと、次にレッドさんに向き直った。
「レメディ様」
「お疲れ様」
「いいえ、この程度でしたらいつでも」
こうして見るとレメディはやはり王女だ。威厳がある。それも院長として病院にいる時とはまた違った威厳。
「下がっていいよ」
「承知しま――」
彼の口から言葉が漏れきる前に、突然兵士が慌てた様子で部屋へと走ってきた。
「大変です!ノースタワーの方角に敵艦隊を確認しました!」
敵艦隊!?
「分かった、迎撃に入るわよ、レッド」
「承知っと……」
「か、艦隊!?」
レッドが何とも怠そうな声で去ると、レメディが答えてくれた。
いや、レッドさんそんな返事の仕方で良いのか。レメディたちに対してかなり失礼なのでは。
「宇宙艦隊よ。どこのかは分からないけど」
「う、宇宙艦隊とか大丈夫なの!!?」
「大丈夫よ」
――だってここは仮にも宇宙要塞だし?
あまりにも日常会話のようなノリでレメディが言うものだから流しかけるけれど、宇宙艦隊が丸ごとこのお城を狙いにやって来ているって、とんでもないおおごとなのでは無いのだろうか。
「こっちに来て、良いもの見せてあげるわ」
◇
「各隊、状況報告せよ!あら、レメディと彗じゃない」
エレベーターに乗り、しばらくして降りて近くの部屋に入るとそこは何やら司令室の様な場所だった。
その司令室に通されると、いつか伊集院くんと戦っていた時の竜騎士フォルムのこなの姿が露わになった。
「此方第2特殊部隊、前方に敵確認」
「第9特殊部隊、異常な――アンダーメタリックウエストタワーの方向、敵、巨大戦艦接近!」
「ん、第12精鋭部隊、これより第9の援護に回りまーす」
通信状況がオープンになっているみたいで、部屋中に様々な兵士からの通信が入り乱れる。
そんな中でこなは敵を捕捉した兵士に向かって簡潔に指示を出していた。
「了解。私も5分後に第2を援護します。さ、レメディは第9に回って、彗はどうする?」
レメディが何とも気が抜けるような声を出して返事をすると、唐突にこなから僕に話を振られ、狼狽えた。
ど、どうするって……むしろどうすりゃいいのさ。
「大丈夫、我々がいる限り死にはしないから」
そう言うと二人は半分呆れ気味に、にっこりと笑ってくれた。
いや意味が分からない。まるで僕にあの艦隊と戦えと言っているような口ぶりだ。というかそれを前提に話が進んでいる。理解出来ない。
確かにこなと一緒にいれば確かに死ぬことは無さそうだけど。でも、僕が艦隊相手にどうやって戦えというのか。
「ど、どうすればいいの?」
竜を象るヘルムから覗くこなの瞳がキラリと輝く。
「簡単よ。敵戦艦をぶっ壊しに行けばいいだけの事よ」




