77. 防衛任務
「よし」
気がつけばX-CATHEDRAの総合受付に居た。現実逃避万歳。
「もうテストとかどうでもいいや!」
何だかテンションが上がってきた。
どうせまだ一学期だし、多分当日に一夜漬けしておけば何とかなる。はず。
そもそも僕は睡眠圧縮剤のおかげで自由に使える時間が普通の人よりも遥かに多いのだ。まだ慌てる様な時期ではない。
などと適当な言い訳を自分にしつつ、暫く中でダラダラとしていたらふと、空中に浮かんでいる半透明な掲示板に目がいった。
「さて……ん?」
◇
タイトル:防衛任務
危険度:スペードのQ、ハートのJ、またはダイヤの8
内容:メタリック星全域、特にメタリック城にて襲撃事件の警戒を実施。
手の空いて居る者は現場へ移動せよ。
報酬:X-CATHEDRA本部より謝礼金有り
◇
「陽動作戦の!」
しまった。すっかり忘れていた。
「メタリック星、メタリック城!」
慌てて転送装置飛び乗ってそう唱えたら、聞き慣れない音が装置から聞こえた。
「エラー!ソノ転送先ハ現在閉鎖サレテイマス」
「閉鎖、って……」
つまり、何らかの理由で使えないって事だ。
なんだこれは。なんでメタリック星にワープ出来ないんだ。
「そんな」
だが事態は一刻を争う。どうしよう。
いつもの幹部勢は見当たらないし……ああそうだ。
「すいませーん、メタリック城に行きたいんだけど」
「メタリック城ですか? 少々お待ちください」
依頼の受付へと向かいそう声をかけると、たまたまそこに居た地球人の受付は緩い声で呟くとパソコンを弄り始めた。
「……申し訳有りませんがメタリック城は現在空間閉鎖が施されておりまして、ワープでの出入りが不可能となっています」
「最寄りの転送先は?」
「メタリック城の正門も閉鎖されていますから、侵入はほぼ不可能かと……」
じゃあ、防衛任務に就きたくても誰も行けないじゃないか!
「あのスクリーン、実質的に意味を持ってないじゃん!」
「そう言われましても、上の命令ですので……」
上の命令。
つまりこなや伊集院くんの指示か。
なんて無意味なことをしてくれるんだ。さあ困った何も打つ手がない。
「どうすれば……」
「あら、ほっしーじゃない」
「へ?」
悩んでいた所への『ほっしー』に釣られて、振り返るとそこにはなんだか久しぶりにみるぽっちゃりさんが居た。
「久しぶりねー、生きてた?」
マヨカ。
メタリック星の王女。ツイてる。
「マヨカ! 死んでたらこんな場所居ないよ」
「まあね。メタリック城行きたいの?」
「うん。でも行けるルートは全部閉鎖されてるってさ」
「全部? じゃあ良い侵入ルートがあるわ、来て」
腕を掴まれると、およそ女とは思えない強力な力でそのまま転送装置まで運転された。
「一緒に行きましょ」
「……どこに?」
「――アンダーメタリック、オナラーズ本部」
「今なんて――」
言葉を言い終わる前に視界が暗転し、かき混ぜられ始め、その渦が止むと見慣れない場所に僕は居た。
「さ、着いたわよ」
「ここは?」
「ようこそ、オナラーズ本部へ」
「へ?」
僕は転送装置を降りると、彼女に連れられててくてくと通路を歩き始めた。どこかの未来都市みたいな金属質な道が延びている。
「オナラーズ本部よ。名前はちょっとアレだけど、これでも宇宙環境保護団体なのよ?」
「へえ~」
確かに名前は.......ちょっとアレだ。
しかし、宇宙の環境保護団体とは、どんなモノなのだろうか。
「具体的に何をやってるの?」
「オナラーズが今、一番力を入れてるのは新エネルギーの開発よ」
「新エネルギー? どんな?」
宇宙の新エネルギー。一体どのような物なのだろう。魔法ですらない新たな物なのだろうか。
「メタンって知ってる?」
「ん……知らない」
「温暖化ガスの一種なんだけど、そのメタンを加工するとメタンハイドレートって言う燃料になるのよ」
「メタンハイドレート?」
メタンハイドレートはどこかで聞いたことがある気がする。
確か、日本の海に大量にあると言われている物だった様な記憶が頭の片隅にある。
「私たちは結構非魔法系のエネルギーとかの開発が遅れている節があってね。地球は火力とか原子力とか色々あると思うけど、宇宙は魔法で直接電気産めるからそこまで発達してないのよ」
言われてみればそこは盲点だ。
電気魔法で電気を作れるのに、確かに発達するはずがない。まさか宇宙と地球でこんなにテクノロジーが近い分野があるとは。
「そこで、魔法とかが何らかの形で封じられた時に使えるエネルギーとしてメタンハイドレートを見ているのよ。メタン自体は人間が自分の体内で作り出す事が出来るし人の身体から作った燃料を人のために還元できればエネルギー効率が上がるはずと思って研究開発に勤しんでいるのよ」
「おお、すごいじゃん!」
確かに魔法が封じられたらその瞬間魔法に頼っている宇宙文明は打撃を受けるだろう。
この人、実は思っていたよりもすごい人なのでは。
「ふふ、そんな事無いわ、元はと言えば私のこの思想に大反対したこなに反抗して意地とプライドで立ち上げた組織だもん」
「でも、それでも凄いよ」
「誉めても何も出ないわ。ほら入って」
扉が開くとオフィスらしき所に出たみたいだ。まん丸いパソコンの様な物がズラズラと並んでいる。
「これも全部オナラを元にしたエネルギーで運転してるのよ?」
「え?」
今、なんて?
「だからオナラを元にしたエネルギーを使って運転してるのよ」
「オナ、ラ……?」
「そう!オナラを元に!」
あー。なるほど。
今、こなにオナラの有効性を提唱したマヨカが、完膚無きまでに弾圧されるビジョンがはっきりと浮かんできた。
なるほど。だから名前がこんなダサい名前なのか。
いや確かに凄いものなのだけれど、なんと言うか苦笑いするしかない。
「で、メタリック城へのルートは……」
「あ、そうだったわね、この先に私の部屋があるから入ってデスクの後ろに扉があるからそこ開けて中を進んでいけばメタリック城の私の部屋に出られるわ」
「ありがとう」
「……そうだ、来てくれた記念にこれをあげるわ」
彼女のふかふかとした手が僕のを掴むと、ショッキングピンクの弾丸が渡された。
「これは?」
「緊急時に使うと良いわ。貴方の武器って銃でしょ? この弾は万が一外しても相手に……ダメージを与える事が出来る優れものだから」
「うん、分かった。万が一の時に使うよ」
本部のマヨカの部屋に着くと、マヨカは最後にこう呟いた。
「気をつけなさいよね?」
「……分かってるよ」
 




