6. マジカルエイリアン
「では今度は私グレイスが話を引き継ぎますね。まず私たちが何者かと言うところからなのですが……」
グレイスさんのレクチャーはこうだった。
伊集院さんとグレイスさんは『X-CATHEDRA』と言う組織の人間である事を僕に教えてくれた。
「X-CATHEDRA?」
「はい。防衛軍兼ギルドです」
この組織は彼女ら曰く、魔法界における国連のような位置づけにある組織で、魔法界の平和を監視する事が主な業務である事を教えてくれた。
そしてそれと同時に、新たに魔法使いになった人達の受け皿となる事で、魔法界と非魔法界の境界を管理していると言うことを教えてくれた。
ただ、話に寄れば、どうやら防衛軍と言ってもその実情は平和なお陰か普段は結構暇を持て余しているらしく、おまけに業務内容も実質的にはギルドの様な形態となっているらしい。
魔法界の監視と言っても、基本的に魔法界で困っている人達から依頼が沢山寄せられてそれを確認することで魔法界の異常を監視しているのだとか。
「ほら、世界の異変を真っ先に察知するのは現場にいる人間でしょ? だからそう言う異変がもしどこかであれば依頼という形で情報が来るから、それで私たちが気付くことができるってシステムなのよ」
要するに『依頼』と言う形でギルド部分から中枢に『情報』が入って行き、それによって防衛軍サイドが世界を監視するという、一見すると関連性が無さそうで合理的なシステムをこの人たちは築き上げていたのだ。
ちなみに何かあった際は防衛軍サイドからギルド側に逆に『依頼』が降りて行き、それを受けることで防衛軍からの任務に着くことも可能なのだと彼女たちは言ってくれた。
防衛軍とギルドはお互いに助け合う関係なのだ。
……しかし、ギルドとは何ともファンタジーチックだ。
ゲームやラノベの世界にでも入ったかのように思える。ギルド形式の業務をする人は遊撃隊と呼ばれているとか。冒険者とか探索者ではないらしい。そこは軍故か。
「なるほど……」
「私はこのギルドの2代目総帥ーー貴方たちの言い方で言えば、ギルドのグランドマスターって訳ねーーなのよ。初代ギルマスの構築したシステムをそのまま運用してるだけで、このシステムを考案したのはその初代ギルマスなんだけどね」
「初代?」
「そうそう。今は1歩引いて、副総帥と言う立ち位置で動いてるわ。貴方と同じ日本人よ」
通りでなんかファンタジーチックだと思っていたら、なるほどこれを作ったのは日本人なのか。
それならばそもそもギルドなんて物を何故入れたのか納得が行く。
日本人の持ち得る知識なら、魔法の世界にギルドと言う物を持ち込むのも想定できる話だ。
「ところでグレイス、アンタ魔力切れ起こしてるよ」
「はい? あら、あら……」
そう回想に浸っていると、異変が起きた。グレイスさんの皮膚が突然ブクブクと泡立ちながら溶けはじめていたのだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
耳が伸びて、毛が黄色く変色していく。
「……困りましたね」
気が付いたら目の前に居たのは、外国人などではなく、巨大なウサギと人間の間の子の様な怪物だった。
人間ほどのサイズの背の高さで二足歩行している、巨大な垂れ耳の兎。体毛は黄色で、どこかの司教のような服を身につけていて、手は祈るような形で組まれている。
瞬きをしながら僕は飛び上がり身を引くと、グレイスさんだったモンスターは耳を腕のように使い頭らしき箇所をぽりぽりとかき始めた。
「まあ、この際だから言うと、私たちは異星人なのよ」
そう言って来たのはたった今まで伊集院さんだった生物。彼女もまた人間とは程遠い、猫のような頭を持った奇怪な生き物へと変貌していた。
「う、宇宙人……」
「そうね。まあ宇宙防衛軍だし、魔法界の住民の大半は私たち異星人よ」
異星人。
「防衛軍も異星にありますよ」
「人工惑星だけどね」
ここまで来て、突然のカミングアウトに目がちかちかとし始めた。
人工惑星って、科学も進んでいるのか。
ノーパソがある魔法界は予想斜め下だったけれど、宇宙人がいる魔法界は予想斜め上だ。
魔法界っていったい何なんだ。もっと西洋ファンタジーの様な古城とか、あるいは漫画とかに出てくる能力者とか、アニメで見るスキルとか、ゴブリンとか。
その手合いの物を連想していたのだけれども。
いやそれ以前に宇宙ってなんだ。
いや魔法を使う宇宙人って何なんだ。それに顔色一つ変えない母さんは何者なんだ。何も理解できない。
そもそも、宇宙人ってヒトじゃなくて種族的にもう違っているのか。と言うか、魔法で変身出来るのか。こうなるとマルチバース的なサムシングとかも存在しているのだろうか。いわゆるアメコミ系ファンタジーの可能性か。
一気に色々な疑問が噴出する。
「では、そろそろ行きましょうか?」
「そうね。エイリアン襲来はお開きよ」
自虐ネタだろうか。ウサギ人間のグレイスと、伊集院さんが化けた……いや伊集院さんに化けていたという方が正しいのだろうか?
なんせその化け猫人間の宇宙人が、玄関に向かって歩き出した。
「あ、忘れてた」
敢えて表現するなら、マントを羽織ったハローキティー。身長が160cmは有ると思われるコラボ界隈の女王がマントをなんか羽織っている。それが振り返った。
「私の名前はね、もう分かると思うけど、この星の人間に変身してる時は理恵っていう偽名を使ってるの。私の本当の名前はこな・レジーナ……この姿の時はこな、って呼んでね」
「あ、はい、こなさん」
伊集院さん改めこなは、一瞬の瞬きの後、またクルリと振り返りこんな事を言ってきた。
「そーだ! 彗くん、今度私たちの依頼を手伝ってみない?」
「依頼?」
「簡単な依頼だから、明日にでも資料を送るわ」
「えっ?」
「そうねそれがいいわ、私が特別に貴方に依頼を送るからそれをこなしながら宇宙に慣れると良いのよ」
伊集院理恵さん改め、こなさんがウンウンと頷くと横のグレイスさん……これは本名なのだろうか? とりあえずウサギのような宇宙人がこなさんに合わせて頷く。
「それも良いかも知れませんね」
「そうと決まれば早速申請書作ってくるわ」
「ちょっと待って、あの」
僕の意見を全く介さずに、こなさんが勝手に話を進めて行き1人で納得した様に頷く。
そして彼女は短く僕にまた今度ね〜と言うと、その後彼女はその場でクルリとマントを翻しながらスピンし、文字通り蒸発した。
「き、消えた!?」
「今のは空間転移の魔法です。これは少し難しいのですが……きっと彗さんならその内使えるようになると思いますよ」
「は、はあ……」
「では私も、また後日」
こなさんが消えてしまったのを見て、グレイスさんもその後を追った。
こうして特異な訪問者達は帰って行ったのだ。それもまさかのワープによって。