65. 激戦
斬られたこなの鎧には大きな傷が残されていた。
伊集院くんは3枚刃の鎌を消して、次に二丁拳銃を取り出すとこなに向けて銃撃を始めた。
「武器をコロコロと変えるのもうざいのよね」
「それがWdの固有能力だからね」
こなは目にも留まらぬ速さで走り出し銃弾を躱すと、そのまま再び火炎龍を放つ。
「だから隙が在ると言っ――」
「――ところが私には学習能力あるのよ」
再びこなの隙を突き伊集院くんが彼女に銃弾を放つと、こなは伊集院くんの上空に出現し兜割りを放った。
瓦礫と共に伊集院くんが大きく吹き飛ばされると、その瓦礫が魔法で浮かび上がり地面に叩きつけられる彼に向かって飛来していく。
「くっ……!」
「舐め腐った態度で人を見下して判断を誤る悪癖は治らないのねー。学習能力あるの?」
戦闘と同時に行われる舌戦もなかなかだ。
そしてこれだけ激しい戦闘をしながらも喋る余裕がある時点で、この二人は化け物じみている。
「癖って指摘されても治すのが大変だから癖って言うんだよ」
「アンタさっきからことごとく発言がブーメランしてるの分かってる?」
地中から闇で出来た腕が幾つも生えてこなへと向かっていくと彼女はハルバードを振るい衝撃波でそれを刻んで行く。
続け様にハルバードが伊集院くんの顔めがけて振るわれると、命中した瞬間伊集院くんの身体が氷の虚像へと変化しハルバードの動きを止めた。
本物が鎚でこなの脇腹を思い切り殴り飛ばすと、地面の上を滑っていく彼女に黒い槍が幾つも向かっていき、彼女は炎の壁を展開してそれを相殺した。
「ペンチドライバーが聞いて呆れるな」
喋りながら間髪入れずに生み出された黒炎がこなに向かって突撃する。
「チッ!」
咄嗟に飛び起きたこなはそのままマントを翻して蒸発すると、今度は伊集院くんのすぐ側から金属のぶつかり合う音が響いた。
短い距離を連続して空間転移する事で手数を増やし始めたのだ。
「まとわりついて来るなよ」
こなのハルバードを二丁拳銃で受け止めつつ彼はそれを受け流し、空いている銃で彼女を攻撃した。
それと同時に彼の背中から闇で出来た一対の腕が生え始め、それが大きな大剣と盾をそれぞれ持ち始めるとそれが衝撃波を生み出しそこらじゅうを抉り始めた。
「いよいよ動きが魔物みたいになってきたわね」
こなが距離を取ると同時に伊集院くんが二丁拳銃を上へと投げた。
すると、闇の腕がそれを掴んで射撃を開始するとこなはハルバードを回転させながらそれを弾き、そのまま風の大砲を幾つも放ち始める。
それに対して伊集院くんは黒い手が離した剣と盾を蹴り飛ばしてその後を追った。
「【残像回避】、【反復】」
盾を躱し剣が彼女の残像を貫くと、伊集院くんの本体が槍を構えて攻撃した瞬間再度彼女の残像が攻撃を受け止め、こなが彼の頭上からの薙ぎ払いで闇の腕を切り落とした。
「痛いなあ」
「闇に痛覚なんてないでしょ」
紫色のセイバーが2枚彼の手に現れると2人は物凄い斬り合いを始めた。
ハルバードがまるで生き物の様に伊集院君に噛みつきに掛かり、それを二枚の刃が鏡の様に反射、妨害しこなに傷跡を残そうとしている。
すると彼女のハルバードが器用にそれを防ぎまた噛み付こうとしていて、二人とも一切無駄の無い洗練された動きをしていた。
「目で追えない……」
僕がそう漏らすと一際強いぶつかり合いの後、その反動を利用して黒い陰陽師が飛び上がり竜騎士と距離を取った。
「躱せるか?」
その一言と共に彼は突然黒い龍の頭蓋骨の様なものを空中で出現させて構えると共に、無数の隕石が降り始めた。
「少しはお姫様らしくお淑やかにしてろ」
メテオが降り注ぐ中、紫色の爆炎が黒龍から雷のような衝撃で放たれる。
「お断りします」
そう涼しく言ったこなは鋭い一閃を繰り出した。次に僕がまばたきをすると、紫炎が真っ二つに割れ衝撃波が隕石を幾つか破壊していた。
その表情には、まだまだ余裕が見れる。
「ハッ!」
切り払われた火炎の隙間から鋭く一太刀を仕掛ける伊集院くんに対応し再び斬り合いに発展したかと思えば、再びこながハルバードを背負い呪文を唱えた。
「【ソルリフト】!」
こなが唱えたそれは聞いた事のある呪文だ。確か『レヴィファイア』の最上位技だっただろうか。
「【バイルソル】」
こなの放った太陽に対抗して撃たれたのは禍々しい黒い太陽だった。するとこなは驚いた様な表情でハルバードの一振でそれを弾き飛ばすと、その黒い太陽がこちらへと飛来してくる。
「な――!?」
とっさに僕がダイブして避けた位置には、クレーターの様な大穴が開いていた。危うく直撃する所だ。
「弾く位置考えろよバカ」
「いや暗黒魔術とか使われたら普通にビビるでしょ。むしろ大丈夫なの?」
こなのハルバードが空を裂くと、これまた巨大な衝撃波が伊集院くんの元へと走って行く。
「――Vlの固有能力は暗黒魔術の無害化なんだよ」
「はあ?」
こながハルバードの先端から青白い稲妻を帯びた魔法の弾を放つと彼の身体が黒い霧状の闇に変化しそれを回避する。
「つまり使いたい放題なんだよ。【スターダスト】!」
「何そのインチキドライ――ちっ、ここで『スターダスト』ですって?」
空が淀み始めると、彼の魔法で流星群がドームに降り注ぎ始めた。
所謂メテオ。
普通そういうのって、終盤とかクリア後のボスが使ってくるような魔法なのでは。
そんな事をぼんやりと考えていると流星が僕達のいるドームを木っ端微塵に破壊し始めたその時、こなの足元に魔法陣が現れた。
「――【マジックバースト】!」
メテオがこなに直撃するその瞬間、こなを中心に紅いドームの様な爆発が発生し伊集院くんをも飲み込み、急速に収縮して辺りを跡形もなく焼き払った。
今のは、一体。
「お前こそインチキみたいな火力の魔法をバカスカ使うじゃないか」
「私、世界最強なので」
伊集院くんのシールドが砕ける。
それと同時にこなの鎧がドロリと溶けて行くように消滅し、元の私服へと戻っていく。
「参考になったかい、彗」
伊集院くんの黒く何処か禍々しい印象を受ける狩衣が、空気中の闇に溶けて行くと彼もまた元の私服姿へと戻った。
「えっと……正直凄すぎて、とても追えないよ」
凄い戦いだった。
「君もこなの魔力を受け継いでいるから、最終的には今のこなと同じ様な魔法を造作もなく出せるようになる」
「マジですか……」
「必要なのは訓練と時間だな」
とても、自分が目の前にいるふたりのような訳の分からない魔法使いになれる気がしない。
傍から見たらゲームの中でチーターとチーターが戦っているような試合だった。
「君は地球人だから俺が色々と武器の使い方とか体術のコツは教えてあげることが出来そうだ」
「実際の魔法については私が教えられるわね」
「えええ……」
唐突に話が僕のトレーニングについてとなっていて、動揺した。なんて言えばいいのだろうか。
「まあいいか。じゃあ俺ちょっとシャワー浴びてくるわ」
「はいはい」
「ああそうだ彗、もし君が最強になってもこなのように悪戯にバ火力技を使うのはだめだぞ。脳筋まで移される必要は無いからな」
「は?」
帰っていく伊集院くんの後ろ姿を見てぷーっ、とこなは顔を膨らまして彼を睨む。
脳筋か。
確かにこなの戦闘スタイルはガン攻めだったように見えなくもない。
だが僕はあそこまで規格外な動きなんてできるのだろうか。
出来ない気がする。




