64. 舌戦と交戦
「そぉらっ!」
先に行動したのはこなの方だった。
巨大なハルバードを地面に叩き付けると、彼女はそれを引き摺るようにガリガリと地面を抉りながらゆっくりと走り出した。
その直後に彼女は急加速すると一気に伊集院くんの目の前に走り寄り、斬撃を幾つも彼に向けて放った。
伊集院くんはそれを武器も取り出さずにひょいひょいと最小の動きで回避して行くと腕を後ろ手に組み、蠍のように印を結ぶ。
すると真っ黒い魔法陣が彼の前にパッと現れこなのハルバードを受け止めると、伊集院くんが鋭い蹴りを繰り出し防御体制を取ったこなを弾き飛ばした。
空中でクルリと回転して着地すると、こなは再びハルバードを振るい斬りかかる。
「おいおい、これ彗にお前の魔法をレクチャーする場所でもあるんだぞ? そのインチキ火力をお披露目したらどうだ」
彼の挑発を受けて、こながハルバードを一際早い速度で振ると伊集院くんが後ろに飛び退いて彼女の攻撃を回避した。
こなはそのまま振った遠心力を利用してハルバードをそのままバトンでも回しているかのようにトワリングすると彼に向けてそれを突き付け呪文を唱えた。
「【インフェルノブラスト】!」
彼女のハルバードの先端から東洋の龍の様な炎の大砲が放たれる。
これに反応して伊集院くんは着地する前に氷柱を地面から発生させるとそれを足場にして飛び上がりそれを回避した。
「これ彗に魔法をレクチャーする場所なんでしょ? 詠唱破棄ばかりしてないで呪文を唱えてみたら?」
今度は詠唱を省略してこなが同じ炎の龍を乱発し始める。
遠目に見たらとんでもなく太い炎のビームを湯水の様に吹き出させるこなに、伊集院くんは腕から先を魔物の様な黒くて鋭い爪に変化させると急接近し斬りかかった。
「一理あるな」
まるで踊るようにこなに爪による攻撃を畳み掛け、彼女はハルバードをグルグルと回しながら攻撃を弾きつつ斧部分の中心に付いた宝石から細くて赤い光線を幾つも放ち伊集院くんに攻撃した。
「【スピアストリームI】」
光線を躱しつつ至近距離で爪による攻撃を続けながら唱えると、彼の背後から無数の氷の槍が現れこなに向かって放たれた。
「【アイスタワー】」
伊集院くんは続け様に斬りかかりながら呪文を唱えると、こなの足元から氷の柱が突き上がり彼女は飛び上がることを余儀なくされた。
「あんた仮にも最強の闇魔法使いでしょ? 何で今日に限って闇縛りして氷魔法ばっかり使ってるのよ」
「闇の次に使うのが氷魔法だからね」
伊集院くんの手が元に戻ると巨大なロッドが現れ、彼が空中にいるこなにそれを向けると氷のビームが次々と放たれた。
「うぜえ」
マントを翻しながらそう零したこなは、ハルバードを背後に向けると炎を吹き出させ、その反動で急加速して伊集院くんを切り付けた。
するとガラスの割れるような音とも共に伊集院くんの身体が砕け散り、虚像を殴ったこなの背後に現れた彼からまた氷のビームが放たれた。
これに対抗してこなが龍炎を噴き出すと炎と氷が相殺した影響で物凄い蒸気が辺りを包んだ。
「て、展開が早い……」
いつもの赤い服ではなく白と金の鎧で身を包んだこなは竜を象るヘルムを身に付け、恐ろしい速さと理解に苦しむ量の魔力を消費しながら伊集院くんに攻撃を畳みかけていた。
それに対して伊集院くんもまたいつもの制服や私服ではなく、黒と紫の狩衣を纏っておりこなの攻撃をヒラヒラと避けながら蜂のように鋭く刺し返していた。
「お前は大振りで魔力を無駄遣いし過ぎるんだよ」
伊集院くんのその服装は高貴で落ち着いていながらも控えめに言って禍々しく、彼が烏帽子の代わりに被っているヘルムも邪悪さを引き立たせるようなものだ。
対するこなの服装は清純でいかにも正義の味方の様な者が身に付けるものであり、竜騎士を彷彿とする。
「あんたはチマチマとめんどくさいのよ!」
こなが一瞬片膝を付いてハルバードを肩に背負うと、ハルバードの柄からまるで対戦車砲の様に魔法の銃弾が次々と撃たれる。
伊集院くんは杖をクルリと回転させてそれを弾き飛ばし、鎖鎌を出現させるとそれをブーメランの様に放った。
「ほら、すぐそうやって呪い付加とか陰湿な手段に走る」
「チートスペックに胡座書く脳筋がなんか言ったか?」
話しながらもガキンガキンと凄まじい金属音を轟かせながら、2人は高速で戦闘を続けていた。
一際甲高い金属音がスタジアムにこだますると、伊集院くんはスタジアムの上空に瞬間移動したあとに呪文を唱えた。
「【アイスミサイル】」
伊集院くんが呪文を唱えた瞬間、彼の身体を中心に巨大な氷の結晶が出現し彼を飲み込んだ。
そして氷のミサイルが伊集院くんが中にいる巨大な氷の結晶から雨霰と撃ち放たれる。
「チッ」
氷のミサイルの群れにたまらずこなは姿を現し、ハルバードに付いた宝石がギラりと輝く。
「【インフェルノブラスト】!」
再び炎の龍がハルバードから撃たれると、その火炎が伊集院くんを封印している氷の結晶へと命中し鼓膜が裂けそうになる爆音が轟く。
「ぐっ!」
一瞬何か残像のようなものが見えると、こなは腕を抑えつつ距離を取り始めた。
何が起きたのかと盤面を見てみれば、伊集院くんがいつの間にやらこなの背後に現れており3枚刃の禍々しい鎌を構えていた。
「――前にも言ったが、『インフェルノブラスト』の後に出る僅かな隙はお前の悪癖だな」
伊集院くんはニヤリと笑う。
こなの様子はヘルムで隠れてはいるが、苛立ちが隠しきれていない様子だった。




