62. 腕試し
「【ホーミング弾】!」
銃を構えて呪文を唱えると、電磁音と共に追尾する重力弾が放たれ蠍に突っ込んでいく。
「――【裂】」
対する蠍は手で印を刻むと、細胞分裂でもするかの様に分身を作り始めた。
これでは折角のホーミング弾も意味を持たない。
「【降下葉風】!」
そこで木の葉の嵐を巻き起こす呪文を唱えて範囲攻撃を試みた。舞い上がる木の葉が辺り一帯に細かい斬撃を繰り出し、蠍の分身を切り刻んでいく。
「【爆】」
それを見た蠍とその分身が一斉にまた高速で印を結ぶ。分身が全て爆裂し、恐ろしい量の煙が辺りに充満し始めた。
「ゲホッ、ゲホッ!」
前が見えない。視界が完全に遮られて、辺りの様子が全く分からない。
「ぐあっ!」
すると突然鋭い一閃が襲い掛かり、次々と斬り傷が僕の体に刻まれていく。
「降下――ゲホッ!」
煙を払おうとまた木の葉の嵐を巻き起こそうとするも、煙に遮られてむせ込んでしまうため呪文がマトモに唱えられない。
しかもこの煙、何だかおかしい。
煙を吸い込むと、手足がピリピリと痺れるような感覚がある。毒だろうか。
「【投】!」
「ぐうっ!」
呪文なのか何なのかよく分からない声が聴こえると、何かが深々と僕のお腹に刺さり、濡れた感触がお腹を伝って行く。
気がつけば自分は四肢を付いていた。
「拙者の目利き違い……か。【破壊】」
どこからかそんな声が聞こえると、爆炎が煙の中から走り僕は大きく弧を描きながら宙を舞っていた。
「ぐあ……っ!」
自分が地面に叩き付けられると同時に、ガラスの砕ける音が聴こえた。
シールドが壊れた。負けたのだ。
「ふむ」
「くっ……」
手足の痺れに加え、頭がぼうっとして来る。
少しずつ、まともな思考が出来なくなり、頭が白くなっていく中で必死に脳を回転させ、対策を考える。
「初めに言った通り、殺しはせん。だが次に会う時は……」
次に会う時……?
「……メタリック星、中央転送エリア」
途中から何と言っていたのか聴き取れず、蠍は転送装置に乗って消えてしまった。
気が付けば腕には深い切り傷があった。シールドが割れてから付いただろうか。
身体も鉛みたいで、起き上がれない。
お腹に刺さっていたのは多分手裏剣だ。
それにさっきの蠍の分身がバラ撒いた煙の毒が身体中に回り始めていて、まともな思考が出来なくなってきている。お陰で横たわっているのに、目眩が止まらない。
「……ぐぐっ」
異様に重たい右腕を、必死に持ち上げてスカウターに合わせるのに掛かった時間は約5分。
本当に5分だろうか。時間の感覚が分からない。
「もし、もし……」
『どうしたのー』
腕が震え始めた。声が誰の声なのかも分からない。
「廃墟で……襲、われて、動けない……」
『んー、じゃあ今から助けにいくわー』
電話しながら、滝のように嫌な汗が自分の頬を伝って行く。
そして電話越しにその誰かがそう言うのを聞き届けて、僕は腕を投げ出した。
「ボスをパシリにするなんてなかなかいい根性してるわねー?」
「こな……」
程なくして、マントを翻しながらこなが空間転移をして現れた。
助かった。
「それ相応の理由じゃなかったら減給よ減給!」
「……」
安心したら、耳が遠くなっていくのを感じた。
何と言ってるのか分からない。
そしてこなが呆れ返ったような顔を見せたのを最後に、僕の意識はプツリと途切れた。




