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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
一部序章~Still~
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5. 魔法界の一員

「えっと」


 いきなり質問ある? って、なんて無茶苦茶な。


「な、何で、僕は魔法使いなんですか? 何で解ったんですか? って言うかこれは夢なの?」

「先ずは最初の質問。答えは魔力を浴びすぎたから」


 彼女が姿勢を正して説明を始める。


「貴方はちょっと前までは魔法使いじゃなかったの。ところがあなたは先日の電車襲撃事件で貴方は魔力にあたりすぎちゃって、進化したのよ」


 やっぱり夢じゃなかったのか。


「二つ目は簡単……」


 伊集院さんに笑みが浮かんだ。


「昨日あたり、異常に代謝が良かったりしたでしょ?」

「……何で分かるんですか?」


 超能力者か。

 ……いや魔女か。


「後天的な魔法使いは『進化』の際に、進化するに当たって障害と成りうる物を体から排除しようとする動きがあるの。一時的な代謝異常はその副産物なのよ」


 伊集院さんはこう続ける。


「急速に進化するから、一刻も早く外に毒素を出さなきゃいけないってこと」


 あまり良く分からないけれど、どうやら僕は魔力を取り込んでしまったらしい。


「さっき言ってた『A型』って、何?」


「あれは魔法使いの種類を簡単に表したものよ。全部で3種類。Aは後天的魔法使い……人為的、人工的(Artificial)って意味。事故や事件をきっかけに魔法使いに進化した人の事ね」


 また一息置いて、こう続けられた。


「他に多いのはN型ね。生まれつき、遺伝など先天的(Natural)な魔法使いを指す言葉よ。ちなみにこちらは数が少ないけどS型のShade、後天的突然変異があるわ」


 後天的とか変異とか何だか難しい言葉が沢山並べられて、思わず頭を傾げた。まあ、分かったつもりだ。


 後は、絶対に聞いておきたいのはこれかな。


「魔法ってどうやって使うの?」


 この質問に答えたのは伊集院さんではなかった。


「呪文を唱えるのよ」

「呪文……って、は!?」


 伊集院さんの代わりに答えたのは母さんだった。


「もうあんまり覚えてないけど、教わったの20年以上前の事だし…」


 教わった、という発言に目を大きく開ける。母さんもひょっとして、魔法使いなのだろうか。


「な、何を言ってるの」

「誰かに教わって体で覚える。他に何があるの?」


 いや、まあ、確かにそうだけれども。


「懐かしいわね。対魔術師のカカは元気かしら……」

「カカ・セキュア? 彼女は今じゃ立派な刑務所長よ」

「刑務所長! 流石……」


 全く訳の分からない話をしだす二人を睨みつけると、母さんが気まずそうな顔をして、ゆっくりと答えた。


「母さんも、魔法使いなの?」

「……今まで黙っててごめんなさい。貴方が魔法使えない身体だったから、今まで黙っていたのよ……」


「そう、だったんだ……」


 僕の質問に答えた所で、母さんは伊集院さんの方に向き直った。


「でも、どうしてうちの彗が魔人に? そもそも彗は対魔法体質(たいまほうたいしつ)で、魔法使いにはなれないはず……」

「だから、電車襲撃事件で取り込んだのよ。普通なら取り込めないハズだけど、私のだから取り込めたのかも」

「そん、な。でっでも貴方様は、その、世界で一番ーー」

「まあそう言うことになるわね。私達もまだ色々と調べている最中だから、その辺の報告は追って本部からするわ」


 何気なく彼女はそう言ったが、母さんは目を見開きしばらくして溜息のような何かを吐いた。


 疑問は絶える所か噴水のように吹き出してくる。


「じゃあ、今日はご報告までですけど、明日にはもう少し込み入った話をしに来ます」

「もう少しゆっくりしていってください!」

「そう言う訳にも。忙しくてね」


 えっ、もう帰っちゃうの?


「ではまた明日」


 それだけ言って彼女は何処からともなく出現させたマントを翻し蒸発した。その時、僕の平和な高校生ライフが、音を立てて崩れていくような音がした気がした。


「か、母さん、これどういう事? 一体何が起きている?? 母さんが魔法使いって、どういう……?」

「私にも、よく分からないの。ごめんなさい。私もちょっと、状況を整理する時間が欲しい」


 そう言って、よろよろと覚束無い様子で母さんは立ち上がった。


「私のことは、おいおい説明するから、ちょっとだけ、時間を頂戴。私も今は混乱が先立って、説明が欲しいの」


 それだけ言うと、フラフラとキッチンへと母さんは入ってしまった。


 魔法使いって、何なんだ。

 あの伊集院さんは何者なんだ。

 母さんは、何を隠しているんだ。


 ……結局、その全てに答えが出ないまま晩を迎え、大して眠れないまま朝を迎えてしまった。



「おはよ」

「……おはよう」


 僕がダイニングに入って来たのを見計らって、母さんがおもむろに指パッチンを行った。その音と共に、美味しそうな朝食がテーブルの上に姿を現す。


「い、今のは?」

「今まではあなたが起きて来る前にやっていたのだけど、もう……別に気にする必要がなくなったから」

「な、なるほど……」


 突然の魔法に戸惑いつつも、朝食を口に含む。いつもよりおいしい気がする。


 それにしても、指パッチンって。どこかの映画に出てくるような出し方だ。やはり母さんが魔法使いなのは本当らしい。

 そう考えていたら、ふと玄関のインターホンが鳴る音が聞こえた。



「思ってたより早いのね」



 玄関のインターホンに反応して母さんは疲れ気味にそう言って、玄関へと向かった。


「おはようございます。昨日はどーも」

「グレイス・エピックです。お久しぶりです、月子さん」


 玄関先に居たのは昨日の伊集院君のお姉さんと知らない女性だった。この人は誰だろう。


「今お茶をお持ちします」





「じゃあ、始めましょうか」

「先ずは、彗さん」

「はい!」


 伊集院さんじゃない方の人が話しかけてきた。


「貴方には、早速ですが登録手続きをしていただきます」

「手続き?」

「はい」


 手続きって、何だろう。


「あの、手続きって……」

「魔法界には現在、あなたの情報が一切ありません。そのため、貴方が魔法界の一員になったからには、身分を登録する必要があります」

「どうやって?」

「これを使います」


 そう言うと彼女はぽんとノートパソコンを出現させた。

 どうやら魔法界にもパソコンと言うものは存在するらしい。予想していた世界とちょっと違う。



「お名前や生年月日を」

「あ、はい」


 魔法の産物とはおよそ思えないデジタルな処理に驚きつつも打ち込みを済ませながら、グレイスさんを観察した。


 この人は外国人だろうか。グレイスさんの髪は金髪だし目は青いし。そうぼんやりと考えていたら奇妙な音が僕の耳に響く。


「これは?」


 空中の何もない所から、何やら怪しいカードが印刷されるかのようにして現れた。ギルドライセンスと書かれている。


「貴方は私たちの防衛軍のサイトにアクセスした事で、今貴方は正式な魔法使いとして登録されたのと同時に、宇宙防衛軍兼ギルドの一員として登録されました」


 ……宇宙防衛軍、ギルド?


 どういう事だ?


「ま、待って。宇宙防衛軍ってどういう――」

「詳しくは後で教えてあげるから、今は持っておきなさい。これは貴方が宇宙人防衛軍兼ギルドの一員であるという身分証にもなるし、今後も必要になってくるから」



 いやそう言う問題ではないのだが。


 のどまでその言葉が出かかったところで、グレイスさんがさらにこう続ける。


「貴方はまだ魔法界の一員になって間もないので、新米魔法使いの保護と言う目的もあって暫定的にこのような措置を取らせていただいています。防衛軍にいれば私たちが順を追って色々と貴方に魔法界の仕組みも教えられますので……」


 何とも強引だが、母さんも何も言わない事だし黙って頷く。

 すると母さんが割って入って、口を開いて見せた。


「あの、改めて聞きますが、どうしてうちの彗は魔法使いになれたんですか? この子は生まれた時に対魔法体質と診断されて、魔法は使えないと聞いたので今の今まで私は魔法をひた隠して生活していたんです。説明を求めます」


 これに答えたのは伊集院さんだった。


「お宅のお子さんは先日の電車襲撃事件の際、私や伊集院の魔力などの高濃度魔素を浴びて魔法使いに進化しました。実は昨日魔素のサンプルを持ち帰らせて念の為に調べさせたのだけれど、彼は伊集院の魔力については対魔法体質で弾いて見せたのは確認できましたが、私の魔力については魔力指数が高すぎて対魔法体質による魔素の相殺をしきれず、私だけの魔力に反応して進化した、言わば魔力的ドッペルゲンガーであるということが判明しました」


 全くもって不可解な解説が彼女からされると、母さんの目が驚きで開く。


「過去にも対魔法体質の人間が進化する事例はありましたが、息子さんについては特に強い対魔法体質だったためか私の魔力しか貫通しなかったと見るべきね。もちろん今もまだ当然対魔法体質のままではあるので他人の魔力に対する強い抵抗力を維持しつつ、ゆくゆくは私たちと肩を並べ、乗り越えていくような魔法使いになることでしょう。ただし今はまだ対魔法体質自体が魔力をレジストしているので今はまだそこらの魔法使いと同じ程度なので、そこは磨き方次第ですけどね」


 もはや母さんが金魚のようになってしまい、口をパクパクと震えさせるだけになったところで伊集院さんがこちらへと向き直る。


「さて、話の続きをしましょうか」

「は、はい……」


 母さんはまだ納得し切れていないようだったが、頷くと沈黙した。

 そして、話は続く。

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