58. 裏工作
「燃えろ!」
自分がハブルームにあったルナティックの拠点に到着する頃には、粗方掃討が完了していてRが施設を焼き払い始めていた。
Rの咆哮と共に、火柱が無数に叩きつけられ、辺りを焼き尽くしていく。
「フン、派手にやってるな」
BとRとVの3人で壊滅した敵の根城は文字通り火の海と化しており、至る所にルナティックの下っ端の骸が転がっていた。
「ああZ様、わざわざ見に来たんですか。【フレアリフト】!」
Rが追加で火炎の玉が放つと、瞬く間に辺りが炎の渦に呑まれていく。
「V」
「何でしょうか」
全身を黒装束で包み、顔もベールで覆い口以外は全て隠しているAAAAの大幹部に指示を与えるために呼び寄せた。
彼の素顔はグレイス以外には誰も、ボスの俺も見たことはない。
主な武器は鎖の付いた巨大な爪であり、近接では武爪により体術、遠距離へはクローショットなどを使い戦う武闘派の魔術師。
しかし彼の特徴と言えばなんと言っても変身能力に尽きるだろう。彼はドライブの力で自在に変身することが出来るため、隠密任務で彼は欠かせない。
無論、魔法でも変身擬態は可能だが、ドライブによる変身擬態は魔力を使わないため、長時間の維持が可能だ。
変身魔法は膨大な魔力を消費するので、ドライブによる変身は重宝される。
噂では地球人らしいが。
「少し自重しろ。血を撒きすぎだ」
「僕としては洗い流すのも大変だよっ!」
やや高い声が聴こえると共に水の波動が広がり、そこら中を水浸しにしていく。Bの魔法だ。
「水蒸気爆発だぜ!」
そこにRの火炎魔術が加わると、巨大な水の爆発が巻き起こり一帯を破壊していく。
「それぐらいにしておけ。V、変身の準備をしておけ。Bはそろそろ引いておけ。R、お前はコントロールルームに俺を案内しろ」
「了解だ。じゃ、Vさん、あとは任せましたよっと」
Rがそう言うと同時に、Bもゆっくりと頷くと彼は水の渦を自分の足元に出現させて空間転移した。
「気配が近いですね」
Rがそう言うとほぼ同時に、新たな魔力の反応がこちらに近づき始める気配を感じ取った。
この魔力の波動は恐らくスターズの一員だ。騒ぎを聞き付けてやって来たのだろう。
「……モデルVs、固有能力発動」
Vのドライブの持つ能力は、一度触れた人に変身できる能力。
恐らくはそこら辺に転がっている死体にでも触れたVの姿は、既にあの黒装束ではなく猫のような宇宙人の姿に変化していた。
「お前、変身する時は好んでメタリカンを選ぶ傾向があるな」
「猫人間が武爪を使う分には違和感がありませんから」
Rに案内されて奥へと進むと、機器が手付かずの状態で保存されたコントロールルームへと到着した。
ただ、部屋自体は死体と真紅の海だ。
「フン、セキュリティールームも血塗れじゃないか。【清掃】」
汚れを消し去る魔法を使い、血の海を綺麗さっぱり消し去ると防犯カメラのスクリーンの前に俺は座った。
「……」
「何だこれは!他の奴らはどうした!」
やって来たのはピアースだった。唖然としながら辺りを見回すと彼は唯一立ち尽くしている隊員……に化けたVを見つけ駆け寄って行く。
「みんな、死にました」
「……そうか。ならば、コントロールルームから本部へ緊急連絡を入れる必要があるな」
そう言うとピアースは俺の居るコントロームルームへと足を進めようとした。すると彼の部下に擬態しているVが彼の前に立ちはだかり、その道を阻む。
「お前……どういうつもりだ?」
いささか何かがおかしいと気付いたピアースが、剣を取り出しVへと向けた。
「こういうつもりさ……!」
Vが高速で腕を振るうと、3枚の衝撃波が彼の武爪から放たれ、ピアースを大きく吹き飛ばす。
「ぐあっ……貴様!」
「我が組織の為にも、生存者は居てはいけないんですよ!」
だが殺す訳には行かない。
ピアースには衝突の起動キーとなってもらう。
そのためにもまずはこのセキュリティールームを完全に破壊しなくてはならない。




