57. 裏の顔
別視点章。
「困ったわね~」
頭が痛くなってくる。
まさかルナティックが、よりによってこんな奴に手を出してくるとは思っても見なかった。
「蠍か」
会議室で頭を抱えていると、ザントが部屋へと入ってくる。
彼に一瞬目を向けて再び資料に視線を戻して私は再び頭を抱えた。
今、確認しているのはルナティックのブラックリストに名前のある人間の一覧。
「X-CATHEDRAの人間はまあどうにでもなるから兎も角として、我々以外の人間でブラックリストに入ってる人がいたらそれらの警備を強めないと」
今手元にあるリストはグレイスが寝返った時に持ってきたリストだ。
この中にはこの組織の幹部の名前が幾つもあり、それ以外では『守護者』たちの名前もある。
守護者はまあ、どうせ私の次くらいに強い奴らだからどうでもいい。
他にあるのは母上、父上の名前やAAAAの人間の名前。
父上母上はメタリックの帝として強力な魔力を持っているし、兵士もいる。それなら守りは必要ないか。
「蠍ってドライブ幾つか分かる?」
「トリプルだ」
げ、3つもあるのか。
3つもドライブを持っているとなると、トリプルドライバーにも護衛ーーそれも同じトリプルドライバーの護衛ーーを付けなくてはならない。
「難しいわね~」
忍者蠍。
名前の由来は地球に生息している毒性の生き物。
分かっていることは、彼が地球人であり、毒属性であると言うことだけ。
あと、さっき知ったけどドライブは3つ。つまり一国の部隊に匹敵する力を単体で保有している。
無論私や伊集院よりも力では劣ると言うか、次元が遥か下の実力ではある。
だが言い換えれば私と伊集院以外とはいい勝負であり、場合によっては姉のマヨカや妹のレメディ、親友のグレイスと実力が拮抗する可能性が高い。
ザントたちは昔、他の指定組織との絡みで蠍とは因縁が有る。そのため、彼らは蠍に対して独自の情報を持っている。
だからこそ敢えて蠍に手を出したのだろうか。
いや、でもそもそもルナティックはわざわざ蠍を雇う必要があるか疑問に思う程度には力強いはずだ。
「こな様ー!ザントー!」
「ただいまー」
「フェイド!プライス!」
そう思案していた時に、ふと総帥室の玄関扉が開いた。入って来たのはヤーテブ星人2人で、両方共エリアYに潜入していた諜報部員だ。
「貴様……俺の名を気安く喋るな……」
「あっ、すみませんザント様。こな様、詳しい報告書は改めて提出しますが、どうやら彼等近いうちにどこかの星を攻めるプランがあるみたいですよ」
「残念ながら何処か、までは分からないけど……」
星を攻める。と言う事は行政のトップがターゲットだろう。
ブラックリストに乗っている惑星の統率者と言えば父上と母上だ。
「そう。何れにしても警戒は続ける必要があるわね」
父上母上は1,000年前の大戦の生き残りだ。心配はしていないが、万が一ということもある。
私が護衛に着く訳にも行かないし、マヨカやレメディにもそれをしている程の時間はない。どうしたものか。
そんなことを考えていたらザントが丁度いい人材を呼び寄せたのであった。
「……R!」
ザントの一声で突然会議室の端から火が上がり、その中からメタリカンが現れた。
「AAAAのR、ただいま参上~っと」
そう言うと彼は煙草を魔法で出現させると指先から火を生み煙草を吸い始めた。
レッド・リベリオン。
レジーナ家の治めるメタリック帝国の誉れ高き……誉れ高き? こいつ本当は誉れ高き職の者なのにいかんせんユルいから気が抜けるのよねえ。
まあなんせメタリック軍第12精鋭部隊隊長にしてメタリック軍上級大将。
「ここワープ以外は魔法禁止なんだけど」
「ん? あー、すみません姫様」
真っ赤な衣服に身を包み、背中に火炎放射器兼ジェットパックを背負い炎を操るメタリック軍の上級大将。それがレッドと言う男だった。
しかしその正体は宇宙マフィアAAAAの幹部であり、ザントらと我々の関係を取り持つフィクサーでもある。
彼にとってはどっちの顔が裏の顔となるのだろうか。
そんな私の考えを他所に、彼ははにかむと煙草を消した。
ここは別に禁煙ではないのだけれど……まあいい。
「R、ルナティックの支部の一つをDEATHの仕業に偽装して潰してこい。テロ組織間の抗争とでも思わせるようにな。仲間にはBとVも連れて行け」
ザントの発言を聞いて、私はなるほどと首を振った。
マフィアや過激派組織とかの間では抗争がよく起きる。彼らの抗争と偽装して置ければ、大々的にこちらから踏み込んでいく口実を作ることも可能だ。
マフィアを味方に引き込んでいるからこそ出来る芸当。ついでに言えば我々は宇宙警察ともベタベタに癒着している。これなら隙は無い。
「あーちょっと待って、もしスターズがいたらソイツは瀕死にさせるだけにしておいてね。DEATHと潰し合わせるから。殺しちゃだめー」
世間的には、X-CATHEDRAは巨大な正義の名の元に集う、巨大な宇宙連合のような組織だ。
メタリック星からは私たちレジーナ家王女三姉妹。
アクアンからはアクアン外務大臣の孫であるピーカブー。
宇宙警察のピンキーですらここの創立メンバーだ。
地球に至っては、闇の守護者伊集院がここを創設している。
他にも各国や各星系からの要人が出向したりしてこの組織はできている。
そんな我々からすれば、AAAAは明確な敵であり、なんの繋がりもない。
しかし現実とは所詮こんなものである。
私がザントの指令に追加指示を出すと、レッドはニヤリと笑いながら火に包まれ姿を消した。
絨毯が焼けて穴が空いてしまった。グレイスに怒られそうだ。
「明日の新聞が見物ね」
「なかなか悪どい事をするな」
「あら、悪の組織を潰し合わせて何が悪いの? 世のため人のためでしょ」




