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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第5章〜Silent Sentinels〜
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54. 宇宙戦争

「今のはデュセルヴォですね」


 グレイスの案じる声が聞こえる。


「うん」

「よくあんなバケモノを倒せましたね……正直魔法使いに進化して半年も経たない人間の出来るようなことでは無いですよ」


 グレイスが溜息をつきながらも唖然とした様子で語った事で、改めて悟った。

 今の敵、相当やばかったんだなと。


「そ、そうなのか」


 グレイスは一瞬何かを喋るのを躊躇うような素振りを見せると、僕の脇の下に手の代わりとなるその大きな耳を差し込み、僕を支えた。

 ゆっくりと僕も立ち上がり、グレイスに手で静止すると彼女の耳が脇の下から抜けていく。

 そこで今度は杖の様に、体重を支えるために僕は地面に突き刺した自分の剣に寄りかかった。


「デュセルヴォは、かつての宇宙戦争で大暴れした双頭竜(2ヘッドドラゴン)の成れの果て……あまりにも強力なせいで、身体が朽ちて羽だけとなってもなお驚異的な魔力を持つ最強の竜……」


 突然意味深な事を語り始めたグレイスの様子は、懐かしむ様な目付きでどこか遠くを見つめていた。


「宇宙戦争があったの?」

「今からおよそ1000年ほど前にですけどね。宇宙全体を巻き込む壮絶な戦争が昔あり、その時に幾つか猛威を奮った物が有りましたが、その内の一つは今のデュセルヴォでした」


 衝撃的な話に驚いていると、ふとグレイスの大きな耳から光が発生した事に気がついた。やがてその光は僕の胸に触れ、僕の疲労を取り除いていく。

 癒やしの回復魔法だろうか。とても心地良い。



「はい、おしまいです」

「何だか凄い体が楽になったよ」


 僕が剣を支えにしなくても立てるようになった事を確認すると、グレイスは話題を戻した。


「デュセルヴォは当時の英雄たち……現代でいえばこなさんや伊集院さんに匹敵する様な方々が4人掛かりで討伐した魔物です。羽だけになってもまだダブルやトリプルドライブ程度の力はあるはずです」

「そ、そうなのか」


 伊集院君がどれくらい強いのかは知らないけれど、こなは確か現在宇宙最強じゃなかったっけ。そんな事を考えているとグレイスはこう続ける。


「そしてそれともう1つ猛威を奮ったのは、『カオスブーマー』や『バグエクリプス』、『ホーリーエボニー』等の暗黒魔術……」


 カオスブーマーと言う名詞に、ピンとくる物があった。

 それは昨日、ファントム相手に使った魔法だ。さっきも、ナナの剣が出て来なかったら使うところだった。



「暗黒魔術は尋常でない威力の攻撃をシンプルに出せる代わりに、体に不可逆的な負荷を掛けます。しかも依存性があり、五感が麻痺していく寿命削りの魔法なので気をつけてください」


 そんなにヤバい魔法だったのか。


「分かった、もう使わないよ」


 改めてヤベーなーとか思っていたら、不意にアラームの鳴る音がした。

 何だろうと思ってスカウターを確認すると、眼前に『覚醒度上昇』の文字が出現する。


「ごっ、ごめん!行かなきゃ!」


 慌てて転送装置を握り締めると、瞬きしたら僕はもう既に自宅のベッドにいた。グレイスには失礼な事をしたけど、仕方がない。


「……」


 暫くすると、伊集院君が無音で空間転移(ワープ)をしながら戻ってきた。涼しげな表示なのが羨ましい。僕は汗でびっしょりだ。


 そんな事を考えていたら、こなが思い切りマントをバサッ!と翻しながら出現する。


「!!!」

「おまっ!」

「ふー」


 こなが思いっ切りマントで音を立てながら現れたので、伊集院君が思わず声を上げた。何でマントなんてこの人つけているんだろう。


「うーん……」


 伊集院君は顔を僅かに歪める巧を見ると、口パクでこなに自重する様に求めた。


「え?」


 それなのにこなはその意図が全く掴めないのか、デカい声で普通に聞き返した。


「!」


 こなと僕が静かに応戦してると、急にスマホのバイブが鳴った。

 伊集院君からの連絡だ。

 内容はマナーモードに設定して、文章で会話しようと言う物だ。頭いい。むしろ天才か。


 しかしそれを見るやいなや、こなはジェスチャー混じりでスマホなんて物持っていないと抗議をしてきた。


「ん……」


 天野さんが寝返りをすると、僕たちは一斉に布団を被った!


「ん………今誰か喋ってたような……」


 巧、気のせいだから寝てくれ!

 そう願っているとこなが地球人に変身していない事実を思い出し、血の気が引いた。

 それを指さしながら指摘すると、こなは慌てた様子で地球人に変身していく。


「……ぐう」

「……」


 暫くやり過ごさなければ。

 布団の中はフル装備だが、首までしっかり潜っていれば分からないだろう。

 早くみんな寝直してくれないかな。



「危なかったわね~」

「しっかりしろよ」

「ごめんごめん」


 場所は再び刑務所前。

 観衆はみんな中に進んだようだ。

 案の定こなは伊集院君に咎められている。


「じゃ、内部調査頼んだよ」


 そう言って伊集院は煙の様に消え去ると、こなは曇り空に向かって舌を出したのち、僕にこう言った。


「行きましょう、何があるか分からないわ」


 それにしても、先程まではあまり気にしていなかったけれども、ここは本当に気味の悪い刑務所だ。

 全面が鏡張りで、場所によっては天井と床までが鏡張りの異常な空間で、頭がおかしくなりそうだ。

 しかも困った事にここは至る所で道がどこぞのゲームのダンジョンの様に枝分かれしており、迷子になるのは必至としか言えない。


「マップをよく見て、迷子に成らないように。ここマップ見て動かないと本当にどうにもならなくなって頭が狂うから。目に見えるものを信じてはダメよ」

「分かった」


 そう言うとこなはT字路を左に曲がり、やがて消えた。彼女の姿が鏡張りの壁から消えるのはもう少し時間がかかった。


「……右へ」


 しばらく歩き回っていると、いつまでも目の前には鏡越しに歩く自分しか見当たらなくて、確かに気が狂いそうになる。


 僕は本当に正しい道を歩いているのだろうか?

 人どころか広間とか扉はおろか、肝心の牢が見当たらない。どうなっているんだこれは。


 そして気がついたけれども、この刑務所普通なら看守とか警備員とか居てもいいのに、それがここでは皆無に等しい。

 人を発狂させるために作ったとしか思えない、悪意に満ちた刑務所だ。


 マップを見て歩いているはずなのに、マップが正しく表示されているのかが非常に不安になる。

 

 気が狂いそうだ。

 一刻も早くこの現場から逃げ出したい。

 そう思い始めていたら突然甲高い音が鳴り、僕はそれに大きく飛び退いた。


「うわっ!」


 自分のスカウターの電話だ。自分の叫びと電子音が何処までもこだまする中で、僕は電話に出ることにした。


『こちら伊集院、そちら2人は大丈夫か。自分を失ってないか』

『私は大丈夫よー』


 こなの声も聴こえる。電話で複数人と喋れるのか。


『今所長のカカに頼んでセキュリティーシステムの指定者解除許可もらったから、お前らいつでも離脱出来るぞ』

『この腹立つ鏡張り何とかなんないの?』

『カカ曰くまだルナティックの侵入者がいるらしいから無理だ』


 その言葉に、ふと僕は現実に返った。

 竜の翼共の他にも、まだ居るのか。


『これ壁が反射性の鏡でさえなければ壁にどんどん穴を開けていくんだけどねー』

『侵入者や脱獄者を発狂させるための最高セキュリティーだからだめだとさ。時間があまりない、急いでくれ』


 恐ろしいセキュリティーだ。自分をしっかり持ってないと直ぐ発狂しそうだ。

 早く、ルナティックの奴らを見つけ出さないと。

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