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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第5章〜Silent Sentinels〜
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52. ミラビリンス刑務所

「私が行くわ。伊集院は司令室からお願い」

「了解」


 クルリと素早く一回転しマントを翻すと、こなはそのまま転移し姿を消した。

 対する伊集院君はその場にいる残り、隊員達に指示を飛ばし場を統率していた。


「スクリーンを切り替えて」


 彼の指示で一際大きな半透明な画面が宙に現れ、防衛依頼の公示が行われる。



防衛任務

場所:アクアン ミラビリンス刑務所

危険度:スペードの6またはハートの6

内容:ミラビリンス刑務所への襲撃事件発生

手の空いて居る者は直ちに現場へ急行せよ




 いつもなら新着の依頼を映し出している玄関のスクリーンも、恐らく今はこれに変化しているのだろう。


「悪いけど、君も向かってくれるか。普通の依頼より激しい戦いが予想されるが……」


 伊集院君に聞かれて、僕は頷いた。

 考えてみれば僕は今まで本当にごく普通な依頼を、受けた事無い気がする。

 それならむしろ、これは僕にとってはいつもの依頼と同じだ。


「大丈夫だよ」

「有難いな。そうだ、コレを渡しておこう」


 そう言って伊集院くんはりんご程の大きさの機械を渡してきた。前にピーカブーさんが渡してくれたものと同じだろうか。


「これは?」

「簡易転送装置。これがあれば一度行った事の有る場所と、特定の転送エリアへなら念じるだけでワープすることができる」


 これはまた良い物を頂いた。これがあれば万が一負けて僕のシールドが破壊されても、またここに戻ってこれるという事だ。


「ありがとう」

「さあ、早く」


 その場で僕はミラビリンス刑務所と念じると、体が引っ張られるような感覚に襲われ、視界が一瞬淀んだ。

 また一瞬黄色と緑のサイケな空間が視界を包み、やがて暴風雨が吹き荒れ暗雲の立ちこめる場所へとやってきた。


「……」


 絶海の孤島に浮かぶ、刑務所ミラビリンス。

 スカウターのマップを開くと、海の家にいた時と同じように辺りは見渡す限りの海。


「……大嵐だ」


 風が強く、雨と雷も降っている。

 ミラビリンス刑務所の外観は、まるでイギリスとかに在りそうな古城だった。

 ただし、大きな違いとして窓が一切無く、入口は僕の目の前にある巨大な門が一つだけ。


「……」


 それにしても空気がおかしい。

 僕以外にも、人が来ていてもおかしくないはずだ。それなのになぜここはひと気が無いのだろうか。

 

 物陰で銃を構え、僕は正門を静かに進む。

門を超えて広大な敷地の中に入ると、辺りには戦闘の形跡が有った。

 しかし、肝心の人間が見当たらない。撤退したのか、はたまた奥へと進んだのか。

 考えつつも建物の正面玄関に侵入すると、その中の光景に僕は驚かされたのだった。



「これは……鏡か」



 この刑務所、壁と言う壁が全て鏡張りだ。

 あらゆる鏡に自分が反射して写る。

 鏡の中には反対側の壁にある鏡を反射しており、無限に続く回廊がまるで幾つも存在してるかのような錯覚を僕に与えた。一面が全て合わせ鏡の状態なのだ。


 こんな異様な場所に来るのは初めてだ。


 警戒しながら一歩を踏み出そうとした瞬間、上空が一瞬赤色に染まったことに鏡を通して気付き、僕は回避行動を取った。


「フン、なかなかやるな」

「今までとは違うっぽいね~」


 火の玉が飛来し、床に直撃する。

 誰がこんな事をしたのかと見上げてみたら、そこにはまた奇怪な物が浮かんでいたのだった。


「なんだこれは……」


 僕の目の前に姿を現したのは、巨大な竜……の翼。だけ。

 竜の翼だけだ。竜本体は居ない。

 その一対の翼が、フワフワと漂いながら僕の前方へと舞い降りると話し始めた。


「我はセルヴォL。そして――」

「その半身セルヴォR~」


 翼には目も口も何も見当たらないが、確かに話しており、僕に向かって会話をしている。


「我らは偉大なルナティックに従えるルナティックスターズの二人!」


 そして言い放たれたのは、そろそろ聞き慣れ始めていた組織の役職。


「君、X-CATHEDRA(エクス・カテドラ)の子でしょ? さっきからわんさかとその手合いの人たちが流れ込んできててウザったいんだよね~」


「へえ、ルナティックスターズか……なら尚更、邪魔だから退いてもらうよ」


 あえて強気な発言をして、僕は再び銃を構え直した。

 木の根っこだけが寄り集まって出来た巨大なモンスターや、頭部からそれこそ竜の羽のような物を生やした巨大な大蛇とも僕は既に戦っている。

 今更その大蛇から大蛇要素だけを取り除いたような奴を見ても、僕はもう驚かない。


「僕たちは臨時でここの番兵を勤めさせて貰ってるから、それは出来ない相談だね~」

「笑止千万、ここから立ち去れ」

「刻まれたく無かったらね?」

「……」


 相手は2枚の羽……いや2体か。対する僕は1人だ。不利だろうか。

 だが、見方を変えればこっちは無傷だけど、向こうは傷が少し目立つ。多分僕よりも前に来た人たちを連戦で相手していたのだろう。


「断る。君たちにはここから退いてもらうよ」


 勝機はある。見過ごすわけには行かない。


「そっか、じゃあしょうがないね~」

「――我らの守り、崩せるか……?」


 羽の様な魔物がそれぞれ風を身体に纏う。


「避けられるかい?」


 片割れがそう言うと共に、もう片方の羽が僕に向かって体当たりを仕掛けてくる。


「おっと!」


 辛うじて反応し回避すると、もう片方が続けざまに飛来し僕を切り付けようとしてくる。

 何とか突進を躱すが、その速度が異様に早い。羽だけだから異常なまでに軽いからなのか。


「よそ見をするな」


 攻撃をひとつ避けると間髪入れず次が飛んでくる。攻撃をする暇がないくらいに縦横無尽に飛び回り切り付けてくる敵に、狙いが全く定まらない。


「ほらほら!」

「【炎の壁(ディフランマ)】!」


 彼らは突進攻撃を仕掛けてくるとまるで紙を破いているかの様な音がする。空気を真空の刃で切り裂きながら飛び回っているのだ。

 彼らの特攻を防ぐために、堪らず僕は火の壁を作り身を守った。


「遅い」


 炎の壁を前面に展開したが、横からの攻撃に反応出来ずに腕が切り付けられる。このままでは何も出来ないままに嬲り殺されてしまいそうだ。


「ぐっ……!」


 こうなったら、いよいよアレに手を出すしかない。

 そう思って僕は腰にぶら下げていた2つ目のドライブに手を掛け、叫んだ。


「ダブルドライブ、ダウンロード!」


 この間貰った二つ目のドライブを構えて、そう声高に言い放つ。するとドライブから灰色の光が溢れ出し、ズンと自分の力が強化されていくのを感じた。


「ほう。ダブルドライバーか……」


 彼らの動きが目で捉えられる程度には自分の能力が向上したのが分かった。起動した瞬間、ズキンと心臓が一瞬痛むが、やがてそれは直ぐに消え去った。

 心臓が傷んだのは、負担がそれだけデカいのだろうか。


「……よし」


 でも、確実に敵の動きは見える。これがモデルSs(エスエス)の力か。

 2枚の羽たちの周りを見えない風が渦巻いている。自分の身体能力も上がったのか、それを見てから回避をする事も出来る。攻撃をする程度の余裕はありそうだ。


「ダブルドライブか」

「ちょっと骨が有りそうだねー?」

「そこだっ!」


 再び向かってくる彼らが放つかまいたちの隙間を抜けるように銃口を向けて、銃弾を放つ。


「ぐっ!」

「へぇ、やるじゃん。【ファイアリフト(レヴィファイア)】!」


 片方に攻撃を当てる事に成功すると、突進攻撃を止めた2体が今度は火の玉を放った。

 その火の玉を躱して再び銃口を敵に向けた瞬間、躱したはずの火の玉が僕の背中に直撃し僕は前に転倒した。


「熱っ!」


 今度は詠唱を破棄して放たれる火の玉を躱すと、その火の玉が跳ね返り僕は再び回避行動を余儀なくされる。

 そこで、この刑務所が何故全面鏡張りかの理由を1つ知った。

 鏡が魔法を無限に反射させているのだ。


「【ファイアタワー(フレスラム)】!」

「【風の玉(ブリズマ)】!」


 間髪入れずに片割れの呪文で火柱が落ち、それを避けるともう片方の羽が、そよ風の玉を火柱に向けて無数に放った。


「それっ!」


 風の玉を放った方の羽が風見鶏の様に高速回転しだした途端、そよ風の塊は息吹く火柱の元へと集まりだす。


「だからよそ見をするな」

「ちっ!」


 気を取られていたら、片方が再び突進を開始した。それを紙一重で躱し銃でカウンターを狙うが、向こうもスピードが速く避けられてしまう。


「あっははっ必殺! 【バベルの炎(フレアヘイロー)】!」


 地響きのような振動が辺りを2襲う。

 最初の火柱にそよ風が送られるとそこから八方に火炎が放射される。そしてその炎のタワーから細かい火の玉がクラスター状に拡散していく。

 そしてダメ押しとばかりに更に刑務所の鏡に反射され、無限に炎は広がり続けていく。


「ぐぐっ、【水の壁(ディモイス)】!」


 堪らず水壁を張るも、火の海と化した刑務所の中で水が瞬く間に蒸発していく。


「【ウインドブーマー(ウインドブーマー)】!」


 そこで、僕は水の壁が蒸発し切る前に風の渦を当て、その風の力で横に延びる巨大な渦潮を発生させた。


「ぐあっ!」


 片方の羽を壁に叩きつけると、もう一枚の羽の魔物がこちらに向かって魔法を唱えた。


「【ファイアリフト(レヴィファイア)】!」

「【ウインドブーマー(ウインドブーマー)】!」


 敵から放たれた火の玉をカウンターすべく再び風の大砲を放つとその火の玉が飲み込まれ、風が炎を纏いもう片方の竜の羽を貫く。


「おのれ……!」

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