49. 波乱のお泊まり会
「――私たちが初めて会った時もこの偽名使ったけど、基本的に地球に居る時の私は伊集院の双子の妹もしくは姉だから」
キッチンでそんな耳打ちをされる。言われてみれば確かに初めて会った時はびっくりした。
「分かった。理恵さんね」
「おっけー」
「ねー何2人でこそこそと喋ってんのー?」
「やっぱりデキてるんじゃない?」
耳打ちされていると、リビングからそんな心無い声が聞こえてくる。それも伊集院くんから。
「そう見える?」
階段を上っているとヤジが飛んでくる。こなとデキてるとか、それは、ちょっと恐れ多くて……
「はは、冗談キツいなぁ」
「あら、悪かったわね」
こなもとい理恵はそう言うと冷たい視線を送ってきた。機嫌を損ねたらしい。
「怒らせてやんのー」
「怒らせると後が怖いぞー、ドロップキックが飛んで来る」
伊集院君がそう始めるとこながそれに便乗する。
「そうね、後でドロップキックをお見舞いしなくちゃね」
「怖ぇー」
「怖いよ、もうみんな戦々恐々だから」
何だかみんなのニュアンスが違う気がする。
巧は多分格闘技的な意味で言っているけれど、伊集院君とかは多分金銭面の話をしている。それが尚更おっかない。
嫌な汗をかいていると、ふとガサガサっと物音が立ち何処から出ているのかと自分の部屋を見渡すと、こなが僕の勉強机を物珍しげに観察し荒らし始めていた。
「!?」
まずい。
そこには魔導書が隠してある。よりにもよって宇宙人がそれを見つけようとするのか。
「ちょ、何やって――」
「駄目ねー、ちゃんと問題集は解かなきゃ」
そう言ってこなが引っ張り出したのは英語の問題集だった。最近夜は魔法界に行ってるせいで全然触ってもいない。
「ダメじゃん」
「後でまとめてやるから良いの!」
全く、ヒヤヒヤさせ――
「へーぇ、彗君ってこんな趣味持ってるんだー」
「うおっ、お前……」
今度は何!?
本棚を漁っていた伊集院君がニヤリと笑ったのち、とんでもない物を引っ張り出して来た。
「うっそー、マジ変態じゃん」
写真集だ。
僕が個人的に好きなグラビアアイドルの写真集。
「だから何勝手に人の部屋をみんなして――」
「あら、みんなって宝探ししてるのは私たち伊集院ズだけよー?」
「そうそう」
そうだけど。そうじゃない。
そう言う問題じゃない!
「所で御手洗いはどこかな?」
「一階の廊下の奥」
「柳井君ありがと、失礼……」
理恵がそう言うとさっさと退散し、伊集院くんはその写真集をパラパラとめくり出して興味無さそうな顔で眺めた。
「お前こういうのがタイプなのか……」
「お前後で貸せよな」
伊集院がさもどうでもいいみたいな口調で言うのはとても腹が立つ。興味無いなら見るな。そして巧まで訳の分からん事を言うな。
「こいつら……」
ちょっとこの3人は後で表に呼び出す必要があるな。
そう思って伊集院くんの帰りを待っていたのだが。
「伊集院遅くね?」
「そうだね」
あれから30分は経過した。すぐ交代でこなと入れ替わりに伊集院君が消えたと思ったら、その伊集院君は帰って来ていない。
「探索してるんじゃない?」
「探索、もとい粗探しとか?」
えっ、それは困る。
と言うか、こなが言うと冗談に聞こえない。
「ちょっと見て来る」
「……」
不安になって、僕は自分の部屋を出て1階へと降りてみた。
「お腹でも壊したのかな?」
と言いつつトイレの方に目をやったが人影は見当たらない。
代わりに現れたのは台所に居た母さんだ。
「あら、どうしたの?」
「いや、伊集院君を見ないなと思って」
まさか本当に……
「ハブルームに行ったわよ、何でも刑務所の警備だそうよ」
母さんがそう言い終わるのと同時に、伊集院くんが何もない所から僕の目の前に出現する。空間転移だ。
「呼ばれた気がした」
「……大丈夫ですか?」
「お陰様で、『今』は異常無しですね」
「そう。なら良いんですけど、怖いですねぇ」
伊集院くんと話す母さんの様子はとても不安げだ。
「何か違う気がするんですよねぇ……まあ仕方がないか」
「行こう?」
「ああ、ごめん、戻らなくちゃね」
伊集院くんはそう言うと深く思案した様子で部屋へと戻っていく。
「ただいま――」
「じゃあ私もトイレ~」
僕と伊集院君が部屋に入るや否や、こなが席を立ち歩き出すと伊集院とすれ違い様に短く言葉を交わした。
その様子を、チラリと天野さんの目線が追う。
「――様子は?」
「異常なし」
とても聞き取りにくい声で短くそう交わし、こなはトイレへと向かった。
「入れ違いかよ」
「てか今更だけど星野君の家ってかなり広いよね」
そうだろうか。いや、まあ、自分としてもなかなかの大きさだとは思っているけれど。
「うん、正直二人暮らしにはちょっと大きいね」
まあ4LDKだからね……
「じゃあ家出とかしたら泊まりに来ちゃうね」
「え~」
「じゃあ俺もそうしようかな」
女子はいいけど巧はダメだ。
そう言おうと思ってたら母さんの声が下の階から聞こえる。
「ご飯出来たけど~」
夕飯の時間。もうそんな時間なのか。
「今いくー!」
「おばさん超空気読めてんじゃ~ん、俺腹減ったわ」
「……」




