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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
一部序章~Still~
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4. あなた魔法使いだけど質問ある?

 暫くして、母さんが職場から帰ってきた。


 その時に伊集院さんの話をしたけれど、母さん曰わく、伊集院なんて人間は知らないらしい。


 じゃあ、一体何の用だろう。というか、本当に伊集院君の兄弟なのか。

 そうこうしている内に、約束の時間がやってきてしまった。よく見ているニュース番組の時刻がキッチリ入れ替わった瞬間、玄関のインターホンの鳴る音が聞こえた。まるで測ったかのようだ。


「はーい」


 玄関のインターホンに合わせて、リビングのソファから席をたち玄関へと向かう。

 扉を開けてみれば、そこには今朝会った伊集院さんの姿があった。



「あ、今朝の……お母さん、居ます?」

「はい、ちょっと待っててください」


 扉を一旦閉めて母さんを無言で手招きして呼ぶと、かなり警戒した様子で母さんが立ち上がり、扉を開いた。


「はい、どちら様ですか?」

「私は――」


 名前を言う代わりに、ピッ!と空を斬る音。伊集院さんは母さんに何やら名刺のような物を見せている様だった。


「……えっ、嘘!」

「もうお分かりですね?」

「でも、そんな筈は……だって、あの子は対魔……」


 何の話をしているのだろう。そう思っていたら、伊集院さんは意味深な事を呟いた。


「先日の電車襲撃事件の際に、どうやらA型に」

「でも……体質な……ゃ……」

「その辺の説明は、私がします」


 電車襲撃事件……?


「ど、どうぞお上がりください」

「では」


 電車襲撃事件って、何だろう。いつの間にそんな出来事があったのだろうか?

 気が付けば伊集院さんを家に上げていた母さんを尻目にそんな事を考えた。


「彗、お茶をお出しして」

「え? あ、うん」


 冷蔵庫にお茶を取りに行って、ふと思い出す。


 夢だ。


 入学式の日に見た夢。あれは電車襲撃だ。僕以外誰も認知していないから夢と言う事で結論付けたアレ。


「彗、貴方もいらっしゃい」


 ふと、あまりに深刻そうな顔をした母さんに呼ばれた。


「……はい」


 何だか良く分からないけれど、とりあえずリビングの空気は葬式の様に重い。それもこれも、母さんが表現しがたい顔をしているからだ。


「では、どうぞ」


 冷蔵庫で冷やしてある冷たい緑茶をグラスに注ぎ、トレー片手に配膳し僕が警戒しながら座ると、母さんが伊集院さんに合図した。


「単刀直入に聞きます」


 合図を見て伊集院さんがこっちを向き、僕と目を合わせた。


「星野彗くん、だよね?」

「は、はい」


 少しだけ身を乗り出した彼女は、とても興味深そうな声と表情で確認するように僕の名前を訊いた。


 なぜか緊張してくる。何を聞かれるのだろうか。そう身構えていたが、彼女の出した質問は全くもって想定外なものだった。





「あなた魔法使いだけど質問ある?」




 ……ええええええええええええええええっ!!??




 ……と、驚くべき所なのだろうか。


 神妙な面持ちでいながらも目を輝かせながらそう言ってきた伊集院さんに、何とも言えない気持ちになった。期待されている。あまりこっちを見てほしくない。


「……」


 痛い期待と痛い沈黙が続く。


「……あの」

「何! 何何何!?」


 口を開いた瞬間に、待ってましたとばかりに彼女は食いついた。テンションが高過ぎて切り出し難い。


「えっと、これ、ドッキリか何かですか?」

「は?」

「いや、魔法使いって、なんか正直ネタが古いと言うか、意味が分かんないなぁ、って……」



 ドッキリと言うより、何を企んでいるのか。そう思って言葉にすると彼女はそのまま沈黙した。空気の密度がここだけ異常に高くて潰れてしまいそうだ。



「えっと」


 母さんが長い沈黙を破った。


「つまりは信用していない、のよね」


 母さんまで一体何を言い出すんだ。


 いかにも『困ったわねー』と考える顔つきをして椅子にもたれ掛かる母さんを見て、この二人は揃って頭がおかしくなってしまったのかと思案し始めたその時だった。


「うん、分かった。月子さん、これ後で治しておくわね。【物体爆撃(ボンバラガ)】!!」


 伊集院さんが、僕の初めて聞く奇怪な単語を口にした瞬間、ドカンとリビングのテレビが盛大に爆発した。

 そのあまりの衝撃にテレビはもちろん、家の窓ガラスが粉々に砕け、母さんは思わず悲鳴を上げた。



「きゃああああっ!?」

「うわっ!!」



 テレビが爆発した。突然。何の前触れもなく。


 その衝撃でテレビを乗せていた台も跡形もなく吹き飛び、床も天井も黒焦げ、テーブルに置いてあったお茶もその衝撃で倒れ零れた。


「あら、思ってたよりも音が大きかったわね」


 伊集院さんがのんきにそう言うと同時に、玄関のインターホンがけたたましく鳴り始めた。


「は、はい!」

「星野さんどうしました!?」


 どうやら爆発音と母さんの叫び声を聞いたお隣さん……いや近隣住民が集まってきたらしい。


「あ、あの、ふ、ふ、風船割っちゃって」

「それだけであんな音が出る訳ないでしょう」

「尋常じゃない叫び声も聞こえたしガラスも割れてるぞ!」

「警察呼んだ方がいいですか!?」


 チラリと窺うと玄関の外はすし詰め状態だった。残念だけどご近所さんの言う事はごもっともで、母さんと僕は軽くパニック状態。


「あー星野さんどいて、私が対処する。皆さん注目、【メモリーワイパー(メモリースイープ)】!」



 伊集院さんが無理矢理僕たちを押し退け玄関の扉を開けた瞬間、カッと青白い光が彼女の手から拡散していく。

 そしてそれを目にした人たちは一瞬焦点の定まらない目付きを浮かべると、何事も無かったかの様に次々と帰って行く。


「な、何が……?」


 やがて、ご近所さんたちが皆帰ると、彼女がその質問に答えてくれた。


「今のは非魔人(ヒマジン)……暇人じゃないわよ? 魔法使えない人用の記憶除去魔術。ついでにさっきのテレビは簡単な爆破魔法よ」

「……」


 開いた口が塞がらない。


「ああそうそう、直さないと行けないわね」


 彼女がそう言い腕を雑に振ると、そこら中に散っていたテレビの残骸が、まるで時間が巻き戻っていくかのように1点へと集まっていく。


 黒焦げていた天井はみるみる元の色を取り戻し、倒れていたコップが再び立ち上がる。

 ただしお茶はコップの中には戻って行かない。覆水盆に返らずとはこの事だろうか。


「びっくりした……」

「ごめんごめん」


 爆破魔法、って……


「……じゃあ改めて聞くけど、質問ある?」

【】内は魔法の名前、ルビは実際に話す言葉(詠唱文)となります。

例えば、【物体爆撃(ボンバラガ)】の場合、魔法の名前は『物体爆撃』となり、『ボンバラガ』が実際に唱えている呪文です。

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