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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第5章〜Silent Sentinels〜
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48. 前夜

Silent

[形]静かな,音がしない;無言の,沈黙した,音[声]を立てない;音信不通の;活動していない

――[名]≪略式≫無声映画


Sentinel

歩哨,哨兵,番兵.

――[動](他)…を見張る,…の歩哨に立つ

「……どうなってるのこれ」


 先程からX-CATHEDRA(エクス・カテドラ)の空気が、どういう訳か凄くピリピリしている。

 家に帰って学校へと向かう前に、喫茶店でお茶を飲んでいるのだけれども、全くもって落ち着かない。



「あ、マヨカ!」

「――対策本部に持って行くわね……あら彗じゃない、どうしたの?」


 マヨカを見かけて声を掛けては見たものの、彼女もやはり何か神経を尖らせている様だった。


「何か今日は空気が張り詰めてるなぁと思って」

「うーん、今日中にルナティックが刑務所を襲撃するって情報が入ってるからね」

「そうなんだ。だからみんな忙しいんだね」


 刑務所の襲撃。ルナティックのやりそうな事ではあるけれど何故そんなことをするのだろうか。

 本部に流れる嫌な空気の原因に納得していると、マヨカは続ける。


「多分いつもの依頼スクリーンにも防衛依頼として出てると思うわ。貴方も来る?」

「うーん」


 まあもう朝だし、学校が終わった後にでも考えるとするか。





「あれ?伊集院君は?」


 教室に入ってみて、ふと気付いた。今まで休んでいなかった彼が学校に来ていないだなんて珍しい。


「珍しいなー」

「ね」

「明日体育祭なのにね」


巧たちの会話に、僕は瞬きをした。


「……そうだっけ」

「お前もしっかりしろよ」

「星野君は1200m走も出なきゃ行けないんだからしっかりしてよね!」


 1200m走とか、そんなの聞いていないぞ。

 それに、いつの間に体育祭なんてそんなに近付いて居たのか。


「天野さん、僕それ初耳なんだけど」

「お前が寝てる間に決めたんだよ」


 巧のその発言にもう一度僕は瞬きをした。


「いつの間に」

「寝てるおまえが悪いだけだろ」


 巧がニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべてそう言った。確かにそうだが、そこは起こして欲しかった。反論出来ないが、気持ち悪い顔がムカつく。


「今日は予行があるから着替えて体育館集合ね。伊集院君ひょっとして予行だからサボったのかな」

「分かった」


 登山したその日に走るのは正直苦痛だ。今も筋肉痛あるし。

 やっぱりあっちの世界に比重を置き過ぎなのだろうか。正直地球での交流を疎かにしている事を後悔し始めてる自分がいた。

 伊集院君はなぜいないのだろう。彼に限って、そんな予行が嫌という理由で休むとは思えないけれども。


「授業を始めまーす」


 ルナティックの刑務所襲撃に絡む事だろうか。不安は尽きない。



「では明日の体育祭で遅刻しないように!」


 鎌瀬先生の一声でクラスのみんなは散って行く。


「明日かぁ」


 いつもの帰り道。体育祭頑張らないとなあとか考えていると、巧が神妙な面持ちで話しかけて来た。


「なあ彗、今日久しぶりに泊まりに行ってもいいか?」

「泊まりに?」

「……ダメかな?」


 遠慮気味に彼は言った。確かに、高校に入ってからは泊まりとかをしていない気もする。伊集院君が以前言ってた事もあるし、たまには良いだろうか。

 でも僕の部屋には今魔導書とかも置いてある。巧が来るなら隠しておかないと。



「うん、いいよ」

「マジで!?」


 そう言う巧の顔はなんだか嬉しそうだった。


「マジだよ」

「複数人は?」

「いいよ……え?」


 複数人?


「オッケー、じゃあ後でね~」

「いや、ちょっと待っ……はぁ」


 しまった。

 うっかりしていたら乗せられた。複数人とか誰が来るんだろう。巧は一度スイッチ入ると止まらなくなる。こうなったら一刻も早く帰らないと……



「ただいま!」

「おかえり~、お邪魔してるわよ〜」


 ダッシュで家に帰ると出迎えてくれたのはこなだった。

 なんでこなが……しかもエプロンしているし。


「あらおかえり、いつもより――」

「緊急事態。巧たちが今日泊まりに来るから早く片付けなきゃ!」

「松の廊下で御乱心?」

「それは忠臣蔵の朝の内匠頭!」


 こなの謎のボケに華麗に突っ込むと母さんが一瞬驚いた様な目付きでこなを見た。なんで宇宙人のこながそんなピンポイントに日本の歴史的なイベントを知っているんだ。

 いやそれ以前にどうしてX-CATHEDRA(エクス・カテドラ)の人は皆こう妙な所でボケたがるのだろう。


たち(・・)って事は複数人? 大方また貴方柳井くんに勢いで押し切られたんでしょう。全く……じゃあこのテレビも隠さなくちゃね」


 母さんはマトモで助かる。一言余計だけれども。母さんが魔法でテレビを縮めている間に、僕は二階にある自分の部屋へと向かった。


「何処に隠そう……」


 魔導書が机の上に山積みにされている。これをどこに隠すべきか。クローゼット……はたまに巧が漁るからダメだ。ベッドの下はありきたりだし……そうだ!


「あえてここなら……」


 ここなら多分バレないだろう。そう考えつつ魔導書を隠していたら、不意に玄関のインターホンが鳴る音がした。


「は~い」

「は!?」


 降りていこうと思ったら、あろう事かこなが応対しようとする様な声を出した。何故だ。

 他人でしかも宇宙人が玄関に出るとかおかしい。

 慌てて1階に降りてこなの静止を試みるが、降り立った頃には既に手遅れで扉が開かれてしまう。



「彗……あれ?」

「あ、はじめまして」

「え? 星野君って姉居たの?」

「超エロかっこいい!」


 聞こえたのは天野さんと鳩峰さんの声だった。巧の奴、まさかの女子を連れてきたのか。

 エロかっこいいかは良く分からないけど、確かに変身しているこなは美人だとは思うけれども、いつのまに変身していたんだ。

 そんなことを考えていたら思っていたら、更に予想外な声が聞こえた。


「……なんだ、理恵じゃん。いつの間に彗君とデキてたんだ」

「あ、英高!」

「えっ知り合い?」


 この声、伊集院くんの声だ。巧の人選、どうなってやがるんだ。

 と言うかそもそも伊集院くん今日学校で見てないような。マジでサボったのか。


「知り合いも何も双子の妹」

「伊集院理恵でーす、宜しく」


 そしてこの2人、いくら何でも話をでっち上げるのが早すぎる。まるで事前に把握でもしていたかのような息の合い方だ。


「えっ超びっくりー!」


 巧と天野さん、鳩峰さんに伊集院君がこなもとい理恵に促され玄関に上がる。皆が驚きつつも靴を脱ぐ間にこなはこう耳打ちしてくれた。


「……細かい事は後で話すわ」

「じゃあ上がろうぜ!お邪魔しまーす」

「はいいらっしゃい。お茶今出すから待っててね」


 こうして、非魔人と魔法使いの入り乱れる、奇妙なお泊まり会が始まった。

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