42. 伊集院の部屋
伊集院君の部屋に入った途端、僕はまず目を見開いた。辺り一面に武器が飾られているのだ。
「す、凄い……」
剣や銃に杖、鉄球と鎌、何から何まであらゆる武器で壁が埋め尽くされている。特に幾つかの武器は不思議な魅力があり、思わず手に取りたいと駆られる物があった。
「……」
その中でも特に、無性に手に取りたくなった鎌があった。ギラギラと輝く漆黒の刃のデスサイズだ。そして僕は、戸惑いつつも徐にそれに向かって手を伸ばそうとした。
「――そこまでだ」
冷たい声と共に、首筋に紫色の刃が伸びる。
「ご、ごめん!つい――」
「このデスサイズは持ち主を選ぶ。選ばれなかった人は触れた瞬間、手が千切れ落ちる呪いが掛かっているぞ。俺ですら直接触れない」
そんなに危険な物なのか。
「し、知らなかった」
「このデスサイズは『死神の鎌』と呼ばれる極めて危険な武器の1つなんだ。因みにここに飾られている武器は全部俺のコレクション」
「呪いの武器のコレクション?」
「そうではないよ。大半は普通の武器だ。もちろん中にはそういうものもあるが……ああそうだ、もう一つ面白い物を見せてあげる」
彼が首筋から刃を退けると、彼は部屋の奥に在ったもう一つの扉に向かい、そこにあるダイヤルを弄りだして扉を開けた。
「僕のもう一つのコレクションだ」
「これは、全部ドライブ?」
ズラリと並んでいたのは、僕の腰にぶら下げられている小さな機械と同じ形をした物ーードライブだ。
一体、幾つ有るんだろう。
武器と同じように、部屋中にドライブが浮かんでいる。
「あちこち徘徊しながら珍しい武器やドライブを集めるのが趣味でね。君のドライブのZzもここから出した物だ」
「えっ!?」
「ああ返さなくていいよ。ドライブも武器も使わなければ宝の持ち腐れだし」
伊集院くんのコレクションなのに、返さなくてもいいのか。
「そのドライブは世界に3つしか無い、大変貴重な物だ。大切に使ってくれ」
「そんな物を、本当に貰ってていいの?」
「もちろんだ。ああそうだ、君に渡したい物があるってさっき言ったけど、この中から好きなドライブを何か一つ持ってっていいぞ」
……えっ。
「本当に? マジで?」
「うん。君はルナティックの幹部をまぐれとは言え、倒した。敵の中で脅威度が引き上げられ、我々幹部と同様に狙われる可能性がある。力を無理矢理にでも底上げしておいた方がいい」
まぐれと言われた事は少し気になるが、その意図する事は理解出来た。確かに、強くなれるのであるなら強くなっておきたい。
「何でもいいの?」
「全部で469個有るからお好きに。因みに2つ目のドライブを起動すると、君の持つ属性はそれに依存するようになるから慎重にね」
新しく何かを貰えるのは嬉しいけれど……469個からどうやって選べば良いのだろう。
「おすすめは?」
「モデルSaかな」
彼が指さす先にあったのは、黒と銀に輝くドライブだった。
「どうして?」
「Seize Abilityの略。意味は『能力奪取』。倒した相手の力の一部を吸収する事が出来る。俺も使っているドライブだよ。無属性」
「なるほど」
人の力を吸収して奪うドライブ。
何か、嫌だな。
「このドライブは?」
「Secret Serviceだな。属性は虚、秘密情報機関、固有能力は視覚の強化と戦闘において相手の癖を無意識に見分けられる事だ」
なるほど。視覚が強化されるのはありがたい機能だ。これは使える。
「じゃあ、これにする」
彼はそのドライブを僕に投げ渡すと、淡々と語り始めた。
「2つのドライブを起動する時の利点は主に3つある。1つ目はシールドの耐久力と基礎魔力が大幅に増幅される事。2つ目は属性変化による攪乱の効果が見込める事。そして3つ目は精神優位だ」
精神優位という言葉に頭を傾げると、彼はこう続ける
「ダブルドライブは誰でもできる訳じゃないからね」
「そうなんだ」
「全宇宙にいる魔法使い人口は約660億人。内、ダブルドライブが出来る魔法使いは大体100万人。660億分の100万がどれだけ珍しい事なのか分かってくれるかな」
1,000人に1人の割合よりも少ないという事実に驚かされる。
つまりダブルドライブは選ばれた人間だからできる代物で、それが出来れば基本的には負けることはまず少ないと考えられる。なるほどこれは強い。
「トリプルドライブが出来る人は大体3億人に1人、4つ同時起動のテトラドライブは2,000億人に1人だ」
2,000億人。すごい数字だ。
「2,000億とか言われてもピンと来ないよ」
「3,000年に1人産まれるかどうかの数字だと思えばいいよ。この世に3、4人は存在しているけれど。ちなみに、こなは5つを同時起動出来る。一応こなの魔力を受け継いでる君は、理論上5つ起動出来るけど、多重起動は力の増幅に比例して体に負荷が掛かるしいきなりやると負荷に耐えきれず爆死する」
3,000年に1人生まれるかどうかの人間。
その更に上を行くこなって、一体どう言う人間なんだろう。って言うか、僕にもそんな事が出来るのか。
「眠くなったりしてないよね? 授業みたいにレクチャーしているから悪いなとは思ってるんだ」
僕はそれよりも爆死すると言う言葉が引っ掛かっていた。事実だとすれば怖過ぎる。
「いや、大丈夫」
後半のレクチャーは頭には絶対入らないけどね。
「まあそう言う訳だから、体をドライブに慣らしておけば君は強くなれるし、ルナティック対策にもなる」
「分かった」
「さてと」
場所は変わって、受付前。伊集院くんはあれからこなの部屋へと向かい。僕は結局本懐を遂げられずにいた。仕方が無いので、今日もまた僕は依頼掲示板を眺めていた。
◇
依頼主:伊集院 ナナ
タイトル:ナナとマングース
場所:ラルリビ星、サーペン火山
受諾制限:スペードの3以上
依頼内容:ラルリビ星の火山で最近蛇の魔物が増えてるから誰か暇な人、初代総帥のペットと蛇狩りしない?
報酬:スレイザドラゴン(武器、剣)
◇
この依頼、まだ在ったのか。どうやら依頼と言う物は全てが直ぐに消化される訳では無いらしい。
まあ、最近銃だけじゃ足りない感じもするし、剣も有れば便利かも知れない。それに剣ってなんとなく憧れるし。ついでに言えば依頼主も見知った顔だ。
ああそうだ。そう言えば自分のランクを見ておこうと思ってたんだ。
ふと思い出して、自分の財布からカード状になっているガーディアンライセンスを取り出して眺めてみた。
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星野 彗(虚属性)
人種:地球人(地球出身) 男性 15歳
基本ドライブ:Zz(無属性)
総合ランク:3
・スペード:6
・ハート:2
・クラブ:3
・ダイヤ:2
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……スペードランクだけなんかめっちゃ上がっている。あと、何気にクラブも上がっていた。
スペードが戦闘に関わるランクだと言うのは覚えているけれども、これひょっとしなくてもルナティックとの戦闘で釣りあがった感じか。
クラブはなんだっけ。ぶっちゃけそんなに覚えていない。多分元の依頼の遂行に伴う何かが起きているのかと思うけれども、元の依頼2つの内の片方はスマートが出してるしなあ。
要するに片方の依頼はそもそも不成立と言うかなんと言うか。
しかし、自分のスペードランクが6になっているのなら、ナナから寄せられているこの依頼は受けられるはずだ。
受けてみようかな。ナナって犬だけど何故か幹部だし、幹部がそばに居るなら今度こそ安全だろうか……
「これお願いします」
「はい畏まりました。どうぞー」
場所はどうやら火山の様だ。これもまた暑そうだ。でも新しい惑星へ行く事の出来るこのワクワク感は、やっぱり格別な気もする。




