37. 犬と猫の仲
「もう、私の依頼にはどうして誰も寄りつかないのかしらー」
「性格が悪いからじゃない?」
「あら? 金の亡者の妹の方が性格悪いと思うわよ? 遺伝子も大して変わらないんでしょー?」
「同じぐらい性格悪い初代総帥のペットやってたら悪影響受けるんじゃない?」
「何ですって!?」
「なによー!」
「……」
また……始まったか……
「大体ねー、何よその筋肉!宇宙の最先端を行く日本のオタク文化を持ってしてもそんなムキムキな猫人間に燃えるような武居ないわよ!」
「うるさいわねー、アンタみたいにお喋りで北極の様に寒いギャグしか言えない犬だって居ないわよ!」
今、俺の前で喧嘩をしているこの二人はレメディとナナだ。
どういうわけかこの2人は昔から顔を合わせる度にこうだ。非常に仲が悪いと言うか、ライバル意識を持っているというか。
「はぁ!?」
「事実を言ってるだけでしょ?」
どうして顔を合わせる度にいがみ合うのか。
今日だって、幹部会議があるから久しぶりに全員が集合している。まだ会議室に人は集まっていないが、それをいいことにこの2人はやんややんやと騒ぎ立てていた。
「悔しかったら笑わせてみたら?」
「……『いらっしゃいませー! 今日はどんな服をお求めですかぁ?』」
レメディの挑発に乗ったナナが、唐突に何処ぞのアパレル店員の物真似を始めた。
「『あー、少々お待ちくださぁい……ごめんなさぁい! ちょっと~その岩石質? なボディーに合うサイズが無くて……』」
「……フ」
ナナがレメディの事を岩石質と表現したことで、思わず鼻で笑ってしまった。レメディの体は確かに岩石質……もとい筋肉質だ。女性にしてはかなりの筋肉量を誇っている。
「ピンキー……てめぇ……」
「ほらー、岩石質なゴリラ医者より私の方がいいってさー」
「ちょっと後で表出ろ」
レメディを怒らせたかも知れない。
あいつは怒らせると後が面倒だ。今晩の夕飯には気をつけないと毒が盛られてるかもしれない。
「麻酔薬でラリって筋トレしてる暇あったら私より面白いネタ考えてくるのねー?」
「ラリってなんか居ないわよ!」
「『手術の時間がやってきた』のCDはいつリリースすんのー?」
会議室にザントが入ってくる。協定さえ無ければ、宇宙警察の威信をかけて捕らえる大物中の大物。
「はぁ!?」
「なによー!!」
バチバチと2人が目から火花を散らす。頼むから会議室で喧嘩するのはやめてほしい。
「ほんっとムカつく!」
「人のセリフ奪わないでくれる?」
小さくザントとあいさつを交わすと、ふと伊集院が昔言った地球のことわざが脳裏を過ぎる。
「喧嘩するほど仲がいい……」
「――それは無い」
「――それは無い」
「……」
息ぴったりじゃないか……




