35. グレイスの兄
別視点章。
「久しぶりにやる?」
「良いだろう、受けて立つ」
今私の目の前にいるこのラルリビ星人はザント・エピック。暫く前に私の所へと寝返ってくれたかわいいグレッピー(グレイス)の兄にして、このギルドの外部取締役でもある男。
兄なので当然地球で言う兎に似た宇宙人であり、その耳は大きく垂れ下がっている。
「ハンデつけるー?」
「いらん」
グレイスよりは少し背が高く、半月のような真っ黒いサングラスを身に着けているこいつは、グレッピーとは違い、伊集院が昔スカウトしてきた人物だ。
「強がってるでしょ?」
「始めるぞ」
――その正体は宇宙マフィア『Artificial Alphabetic ArchAngels』通称『AAAA』の首領だ。
グレッピーはかつてルナティックであったが、こっちは逆に最初から純粋なX-CATHEDRAの人間だ。
表向きにはうちの取締役であると同時に製薬会社の社長ということになっている。実際には、色々とギルドが表立って動く訳には行かないような案件をコッソリ外部委託しているという関係でもある。
というのも、ピーカブー率いる諜報部はあくまでもクリーンな仕事が要求される。
だからこそ諜報部の中にある暗部を介して、案件をギルドからの依頼と言う体でこの人たちに請け負ってもらっているのだ。
「せっかちね。ペンチドライブ、ダウンロード!」
「トリプルドライブ、ダウンロード!」
轟く爆音と共にお互いのシールドが形成されていく。私のドライブは全部で5つ、彼のドライブは全部で3つ。
私が5つのドライブを起動出来てしまうため霞むが、本当は3つのドライブを起動出来るだけで戦略兵器として戦争に投入出来るほどのパワーを持っている証なので、とんでもなく強いのだ。
「ホ~ントにいいの? ドライブ5つ対3つじゃ結果は目にー―」
言い終える前にもう乱射され始めた銃弾は、全てが、正確に私の心臓を貫かんとしていた。合計570発ぐらいだろうか。可愛げのない奴だ。
「全く」
私のリーチへと届く前に手を翳すと、放たれた銃弾が徐々に減速していき私に届く前に全て地に落ちていく。
「はぁっ!」
続いて、一回彼が持ち替えた槍で空を斬ると、その斬撃から何枚もの衝撃波が発生し私に襲い掛かる。
ザントのメイン装備は槍だ。槍術に関しては、私と同じぐらい巧みで上手い。
一方の私のメイン武装はハルバード……神斧ナーストレンド。
私の為に誂えられた私専用の固有武装で、もちろんただのハルバードではなく色々と魔改造されている。恐らくは私にしか扱えないだろう。
……いや、もう一人、将来的に使える可能性のある奴がいたわね。
私から魔力を受け継ぎ、私と同じ魔力を持つあのーー
「やっ!」
私の一閃は紙を破るような音と共に空間を切り裂き、彼の衝撃波を掻き消した。次にお返しとして、今度は私が特大のソニックブームを飛ばしてみる。
「【リフレクト】!」
私の放った一枚刃の波動をザントは反射し、僅かに踏み込んで一気に跳躍を試みてみせる。
「甘いのよねぇ」
しかしフレクサムの『レ』の時点で後ろに回り込んでいた私にはこの時点で既に完全勝利が見えているのだ。
――【マージオーバーロード】!
ハルバードの先端から、魔力の濁流が放たれ彼を飲み込む。
……だからハンデいるかどうか聞いたのに。
◇
「……またやったのか」
「ごめん、ついノリで」
その後、私はまたしても伊集院に怒られていた。いつもの事だ。ちょっと本気を出そうものから必ず何処かを破壊してしまう。
いや、ぶっちゃけ私が悪いのではない。私のパワーに耐えきれないその他の有象無象が悪いのだ。
「あのさあ、ノリでこのドームに大穴開けるとか明らかにおかしいだろ」
「反省はしている」
私がザントに向けて放った極太破壊光線は、X-CATHEDRAの屋上にある闘技場であるドームの壁を例によって消し炭に変えてしまった。
本当は反省してなどいない。だって伊集院がこうやって直してくれるから。と言うか、同じことの繰り返しになるけどこの脆弱なドームが悪いのよ。
ここの設備は私が使うことも想定されているのだから、私の全力の魔法による攻撃に耐えられるようなものでなければ話にならない。
私の攻撃に耐えられるエンチャントをしていない業者や目の前の男がどう考えても悪いのだ。
「全く、修理魔法の負荷バカにならないんだぞ?」
「はいはい分かってる分かってる、後で手当は出しておくから」
最初のチャンスで懲戒して取り上げるけどね。
「……で、ザントは?」
「お星様」
「お前の魔力指数は京を超えているのだから少しは手加減して差し上げろ」
ザントの事なら、ドライブのシールドが破壊されてもどの道予備シールドは持っているだろうし、気にしない事にした。
「じゃあ、私はザントの集めた資料に目を通すから後は任せるわ」
「ん、分かった」
「じゃーねー」
手をヒラヒラと振る私、それを呆れ顔で見届ける伊集院。
「さて」
端から見たら、なんで宇宙マフィアと宇宙防衛軍・ギルドが繋がっているのか訳が分からないと思う人が居るかも知れない。
「ルナティックの防衛拠点もエリアYか……」
しかし裏社会からの情報や迂闊に手を出せない組織の闇を炙り出すためには、これぐらいは必要悪なのだ。
この宇宙を守るためには、時として悪とも手を組む必要がある。それが伊集院と私の信念。
実際、ザントから寄せられた情報は有用な物も非常に多く、戦争が起きる前に未然に特定の人物を暗殺することでそれを防げたなんと言うケースもある。
テロを未然に防いだのなんて1度や2度の話ではない。
この宇宙には、悪意を持った知的生命体が多く存在している。
そして、中にはその悪意を増幅させて、全く無関係の人間を悪意で汚染し、邪悪な存在に造り変えてしまうような事を呼吸するかのように繰り広げる外道も存在している。
そういう人間を止めるためには、どうしても裏社会の住人の手助けが必要となってしまうのだ。
裏の情報は表のルートでは手に入らないのだから。




