34. 合流
「大丈夫かっ!?」
「う、うん!」
ピーカブーもまた剣を取り出すと、僕のそばへとぴったり寄り添うようにして敵と相対した。
「ピーカブー・プレベントか」
「お前はルナティック幹部のピアース・スパインだな。何故こんな事をするんだ!?」
「さあな」
答えるつもりは無いらしい。
「オマケによくも遺跡をこんなに破壊したな。許さない!」
ピーカブーの甲高い声が怒りに震えていた。
「ん? まてまて遺跡を破壊したのは俺じゃないぞ?」
「それはどういう事だ!」
「やったのは他でもないアイツだ」
そうピアースは言うと、僕に指を指してきた。そう言えばピーカブーさんはこの遺跡を壊すなみたいなことを言ってた気がする。さて、どうしようかな。
「本当かい? 彗君」
二人の視線がじっとのし掛かってくる。
「そ、そんな訳ないだろ!? この期に及んで汚いな!」
「ハァ?」
「……だよね、仲間同士の信頼関係を崩そうとする所とかルナティックのやりそうな事だ」
この際必要悪と言う事で。
僕はとっさに嘘を付いた。ピーカブーに殺されるのは困る。
「……チッ」
「観念しろ!」
僕が嘘をついた事で、ピアースは明らかに怒った顔をしていた。やらかしたか。
「【邪月斬】!」
そんな事を考えていたら、突如三日月状のカッターが飛来し、僕を切り裂く。
「ぐはっ……!」
胸に深い傷が刻まれた瞬間、僕の纏っていたシールドが音を立てて砕けた。まずい。
「まあ良い。必要な養分は充分集まった、この借りは……近いうちに返してやる。さらば!」
彼はそう捨て台詞を吐いて空高く飛び上がると、空気中の水を纏い、部下達と共に姿を消した。
「大丈夫か!?」
シールドが破壊された事で、急に不安がよぎる。この星の大気は大丈夫なのだろうか。気圧は。空気に毒はないか。
「う、うん、大丈夫」
「シールドが割れちゃったか、シールドは三十分から一時間かけて再生するから安静にね。幸いここは地球と環境は大差ない」
その一言に心の底から安心していると、ピーカブーは僕に小さな瓶を差し出した。
「はい、回復薬」
これは例の薬か。
「いや、いいです」
「あ、そう……じゃあ、君のシールドが回復したら戻ろうか」
「わぁ……ありがとうございますっ!」
「どういたしまして」
忘れかけていた本来の目的である、遺跡の奥にだけ咲く花を手渡す。
それを確認すると、依頼者は満面の笑みを浮かべてくれていた。手渡した花をまじまじと観察すると、彼女はそれを大切にしまい込み、代わりに小さな袋を取り出した。
「あの、これはお礼です」
彼女からジャラッと共に渡されたその報酬の重さに驚く。凄く重い。これ本当に僕が稼いだのか。
「ありがとうございます!」
「あとこれ……報酬とは別に」
そう言うと、彼女は懐から青い飾りの付いた何かを出した。
「これは……?」
「ムーンパールのブレスレットです。このアクアン星のこの地域にしか存在しない貝から取れる貴重な真珠で、魔力をストックする役目を果たします」
つまり魔力を溜め込んで置けるアクセサリーという事だろうか。これは便利だ。
「そんな物、良いんですか?」
「はい、もちろん」
嬉し過ぎる。本当に良いものを貰った。
「あの、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
先程からお互いにありがとうございますとばかり言い合っている事実に気付き、僕は思わず笑ってしまった。するとそれに釣られてまた彼女も笑う。
「じゃあ、そろそろ失礼しますね」
「あ、はい」
「お兄さんに宜しくお伝えください!」
「お元気で!」
去り際に振り返ると、彼女は満面の笑みを浮かべて手を振ってくれていた。いい仕事をしたなあと僕は達成感を噛み締めつつ、僕はまた海の家にある転送エリアへと向かい始めた。
「随分嬉しそうだね」
「何か達成感が凄くて」
考えてみれば、前回受けた依頼はそもそもがスマートの罠だったので真面目に依頼をこなしたのはこれが初めてだ。
「ハハ、まあそうだろうね。転送エリアならあっちだよ」
「分かった。今日は何か凄いありがとう」
「気にしなくていいよ」
ピーカブーが居なければ僕は恐らく死んでいた。だから彼にも感謝だ。
そして僕はピーカブーとも別れを告げて、無事に本部へと戻り受付カウンターへと向かった。
「はい、報酬です」
「はい、お疲れ様でした」
こうしてX-CATHEDRAに戻れたし、受付に報酬も渡した。やることが無い。どうしようかな。
時計を見れば、まだ地球じゃ午前二時だ。時間が余ったかな。ここの中を散歩でもしようかな」




