32. 遺跡散策
あれから15分位が経過した。滅茶苦茶早い気もしたが、大分服とかが乾き始めている。服を着て辺りを見回すと、相変わらずこの遺跡は静かだ。
「さて、と、トルトアの花はどこかな?」
「トルトアの花は遺跡の奥にしか咲かないよ。僕はここに残ってるから、君一人で探してごらん」
つまりは遺跡探検だ。
「分かった」
「後、絶対に建物を破壊しちゃ駄目だよ? もし破壊したら、分かってるよね?」
一瞬、ピーカブーの目の奥が危険な光りかたをした。これは慎重にいこう。
「じゃあ、行ってきます」
そう言って僕は目の前に広がる広大な遺跡に一歩、踏み出した。
「大きいなー……」
遺跡の中をしばらく散策してきたけど、遺跡は結構風化が激しく、所々に雑草が生えていた。
壁画とかもあり、何やらアクアン星人たちがロッド型の杖を空高く掲げ台座に水を供えていたりしている。かと思えば、とても大きく、頭が2つ生えた巨大なドラゴンと人々が戦っていたりしている壁画もあった。宇宙にドラゴンなんているのか。
「これは」
気がつけば行き止まりに当たってしまい、僕は辺りを見回した。よく見ると壁の正面には何かのスイッチみたいに地面が浮き出ているところを発見した。明らかに怪しい。
「よっと」
その地面の突起に乗ってみると、壁画が描かれていた大きな壁が開き、新しい道が現れた。
「なるほど」
こういった仕掛けの先に目的の物があるって相場は決まっている。そう思って僕は先に進もうとスイッチから降りたら、地響きの後に開いた道が高速で閉じていく。
「……むむ」
何かスイッチの上に乗せる重たそうな物は無いかとあたりを軽く見回す。
「あれがいいな。【リフティング】!」
僕は近くにあった瓦礫を浮かび上がらせ、スイッチの上に誘導し、落とした。
「よし」
道が再び開けて行く。これで先に進める。この程度の仕掛けであるなら、僕の読んでいた魔導書に載ってた範囲内の魔法でも大丈夫そうだ。
中を半分観光気分で進んでいると、やがて僕は大きめな広間みたいな場所に出た。やはり行き止まりだけれども、よく見ると怪しい物が幾つかある。
「器二つに、石の扉か……」
これはどうするべきだろう。見渡す限り他には何も無いし。
「【ファイアリフト】!」
器に火を供えてみたが、特に何も起こらない。ゲームとかではこう言うのって大抵の場合火をつけたりとかするが、些か安易すぎたか。
何か手がかりは無いだろうか。そう言えばさっきの壁画では、アクアン星人が水を杖の先から降らせていた。
「【アクアシャワー】」
指先から水をシャワーの様に放つと、見る見るうちに器は満たされていく。すると扉が徐々に開いていき、奥へと進む道が出現した。
翌々考えてみたら、水の惑星なのに火を使うのも変な話だった。
「よし」
扉が開いて、その向こう側に足を踏み入れた瞬間、違和感を覚えた。この部屋だけ、空気が違っている。お宝が眠っているとかではなくて、何だか危険な気配が伝わってくる。
やがて、その違和感の正体が話し声だと言うことに気がつく。僕とピーカブー以外誰も居ないはずなのに、どうして話し声が聴こえるのだろうか。
「……」
サッと物陰に隠れると、僕の中にあった違和感はさらに増幅していった。
暫く様子を見ていると、少しずつだが確実に話し声は鮮明になっていく。人が近付いてきているのか。
「浄化作業は順調だな」
「まさかこの遺跡が俺達の拠点だとは誰も思わねえよな」
拠点……?
「しっかし、スターズも何を考えてるんだかな」
「まあ、ファントム様なら『汚し、傷を付けるばかりが能じゃない』とか言いそうだな」
「ある意味ルナティックらしいやり方だよな、汚染じゃなくて浄化とか。浄化でろ過した成分は何に使うかは知らないが。しかしこの遺跡はいいな、レーダーとかに映らないとかほんといい秘密基地だよ」
ついこないだ聞いた組織名にはっとした。
ルナティック。スマートのいる組織。
「おっ、交代の時間だ、行こうぜ」
足音がゆっくりと遠退いて行く。進むなら今のうちか。でもその前に僕にはやらないといけないことがある。
「もしもし」
◇
「ルナティック?」
「うん、浄化とかがどうのこうのって」
電話から程なくして、ピーカブーさんが僕と合流した。電話して呼びつけて正解だ。
「じゃあ、手分けして装置を探そう。ルナティックめ……まさかこんな所に拠点を作っていたとは……」
「うん」
この遺跡にスマートの一味が居るなんてにわかには信じ難い話だが、こんな所で何を企んでいるのだろう。息を殺して進んでいくと、やがて人影が見えた。
「……ふぅ。こんな事して何になるんだか」
なんだか悟りを開いている犬人間が独り、明後日の方向を見つめながら道を塞いでいた。辺りには誰もいない。それならばやることはひとつだ。
「【リフティング】」
スッと彼の後ろにあったそこそこ大きい石を浮かび上がらせ、音を立てないようにゆっくりと頭上に移動させ、僕は魔法を解除した。
「よし!」
相手の後頭部にクリーンヒットし相手は気絶した。気絶してる内に――
「おい!そこで何をしてる!?」
しまった。あの音が悪かったか。
「【ウインドブーマー】!」
詠唱文と魔法の名前が同じな風の大砲を大きな音と共に放つ。
「ぐわっ!」
すると顔を出したアクアン星人に大砲が当たり、彼は大きく吹き飛ばされ壁に叩きつけられた、彼が地面へ落下すると同時に、彼のシールドが砕ける音がした。
「うぐっ、装置の事がバレたらまずい……応援を呼ばなくては……」
これ以上人が来たら厄介だ。天井が崩壊している場所もあるし、そこから屋根の上にでも逃げるべきか。
――【スプリングジャンプ】!
「っと……成功!」
屋根の上へと乗ると、迷路じみた遺跡の全容が良く見えた。何やら複数の場所に、遺跡には似つかわしくない金属製の装置が伺えた。多分先程シールドを壊した奴の言ってた物はこれだろう。
「近い方を狙おうっと」
装置に銃口を向けて、狙いを定める。
銃口に集中すると、グリップの部位から感じる吸引力が上がっていく気がする。そこでふと、このグリップが僕の魔力を手のひらから吸って弾丸に変換しているのだという事実に辿り着いた。
「いっけー!」
銃から放たれた特大の弾丸が装置に吸い込まれる。すると装置が爆発するかと思ったその瞬間、バチン!といい音が鳴り僕の弾丸は弾かれた。
「なっ……」
バリアだ。
装置を守るように、結界のようなものが貼られていた。
「【ピアースショット】!」
それに反応するかのように、魔力の球が僕を貫く。玉が僕を貫通したのに傷が僕の身体に付いていない事に驚愕していると、壁を這い上がってくる敵が視界に入った。
「あっちだ!」
見つかった。こうなったら一刻も早くあの装置を壊して、ピーカブーと合流する必要がある。
「時間との戦いだな」




