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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第3章~Soaked Septum~
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28. 流行りのデートコース百選

「気をつけ、礼!」


 あの事件から約3週間が経った。

 あれから僕はとりあえず依頼とかは休んで、普通に学校生活を楽しんでいた。部活にも入ったし、暇な時は『初歩からの戦闘魔術』などの魔術書を読み漁るような毎日だ。

 同じ過ちは二度繰り返さない。


「……」

「お前本読むような奴だっけ?」


 慌てて本を閉じて表紙を隠して、僕は声の主に咄嗟に反応した。


「え、あ、まあ、最近ちょっとブーム来てる系!?」

「……」


 巧はあからさまに疑るような顔をし、目を細めた。その僕の顔をスキャンするような目を見て、僕は目を逸らしたら負ける様な気がして対抗した。


「今さあ、何の本読んでんの?」


 ふと彼がそう言う。まずい、予想外の質問だ。


「な、何でもいいだろ!」

「……怪しい」

「な、何が?」

「どもってる辺り。それになんで隠してるんだ?」

「……隠したいから!」


 これ以上は、限界か。

 そりゃあ確かに僕は元々本を読むような人間ではなかったし、腐っても巧は親友だから突然僕が本を読むようになれば、疑うかも知れない。

 うかつだったか。


「柳井くん、ちょっといいかな」


 どうした物かと困っている所で、絶妙のタイミングで巧を呼ぶ伊集院君。救いの神様に見えた。


「えっ? あー、何?」


 ――バッ!


「あっ!」

「へっへっへ」


 レメディのリボンよりも素早く伸びてきたその腕を、僕は振り払う事が出来なかった。一瞬の隙をつかれたのだ。

 魔法使いなのが、バレてしまう……!!


「やっぱりな」


 え?


「こんな本持ち歩きやがって。お前誰が好きなんだー!」


 そんな意味不明な事を言うと、巧は僕にのし掛かり、僕の頭をぐしゃぐしゃとかき乱し始めた。

 また天野さんが呆れ返ったような目で僕達を見ている。


「やめろやめろ!」

「これもう言い逃れ出来ないだろ。決定的な証拠を抑えたからな!」


 何の話だろう。天野さんの目を気にしつつ、僕は巧の妄言に反応せざるを得なかった。


「証拠って、何だよ」

「しらばっくれんな、ほら」


 そう言うと彼はどさっと僕から強奪した本を投げ渡してきた。そしてその表紙を見て、僕は目を丸くした。


「こ、これは!」


 僕の本……じゃない!?


「……はぁ」


 伊集院君は溜め息をつくといつの間にか手に本を持っており、それを自らの机の中にしまった。

 チラッと見えた背表紙は僕の本だ。いつの間に魔法ですり替えたのだろうか。再びナイス!


「さて白状してもらおうか? 『流行りのデートコース百選』を読み始める程好きな奴は誰だ!」

「そ、それは……」


 そう言うと巧は邪悪な笑みを浮かべながら僕の膝の上に更に馬乗りになった。勝ち誇ったような笑みを浮かべている。ムカつくし、何より近い。

 男の上に男が乗ってる光景は異様だ。


 ……って言うか、なんでよりによってこんな本なんだ!


 伊集院君!!


「近い近い!」

「授業を始めま〜す……あー、柳井さん星野さん。青春するのは勝手ですが薄い本を厚くする様な猥褻な行動は放課後学校外で先生の目が届かない場所で勤しむように」

「んなっ……!?」


 鎌瀬先生が現れるや否やそんな爆弾発言をして、クラスが笑う。


「ほら降りて」

「いつかぜってー暴いてやる……」


 今のは別の意味で危なかった……!

 いや、更に別の意味では手遅れ感もあるが。

 とりあえず流石に懲りたらしい巧は今日それ以上追及してくることは無かった。





「全く、少しは警戒しようよ」


 放課後、僕は伊集院君に呼びつけられて廃墟の前で軽く注意を受けていた。今日はなんだか風が少し強く感じた。


「ごめん」

「間違いは誰にでもあるとはいえ、魔導書がもし見つかっていたら処刑ものだよ。これからは気を付けてね」


 あまり咎められなかったとほっとしていたら、伊集院君はこう続けた。


「所で最近魔法の練習は?」

「初級魔法ならまあ」

「そっか。じゃあ今日の夜は時間あるかな」


 時間があるかと聞かれたら、まあ、ある。

 宿題は今日そんなに出てないし。


「え? まあ、一応」

「なら地球・日本時間の20時頃にギルドの2階にあるトレーニングルームの受付に来て欲しい。いい機会だから、君に魔法について少し教えよう」


 それだけ言うと、伊集院君は踵を返し教室を出ていく。

 彼の考えは読めないが、少し僕も魔法について勉強しないといけないと思っていた頃だ。

 せっかくだから彼に色々と聞いてみるのもいいかもしれない。





「――ここが、トレーニングルーム」



 約束の時間にギルドのトレーニングルーム受付とやらに行ってみると、目の前に広大な空間が広がった。

 向かって左には広いスペースに等間隔で案山子が並んでおり、何人もがその案山子に対して魔法を行使したり武器を振るったりしている。

 少し奥に目をやるとそこには形状も大小も様々な的の付いた案山子が並んでおり、中には勝手に自壊しボロボロになっていく種類の物も存在していて、人々がその案山子に回復魔法を掛けたりしていた。


 向かって右は扉が並んでおり、よく見ると個人トレーニングルームと書かれている。


「待たせたね」


 聞き覚えのある声がして振り返ると、そこにはバリっとネクタイを締める伊集院君の姿があった。

 彼が現れた瞬間、にわかに周囲がざわついてみせる。


「伊集院君!」

「一応トレーニングルームと言う名前だが、どちらかと言うと武器屋とかの試し切りを出来る場所に近いかもしれん。まあ覚えた魔法を試したりできる場所だ。覚えておくと良い」


 そういって彼は受付に向き直ると、カードキーのようなものを受け取り、向かって右側の個室へと向かう。


「あっちのはオープンスペースで、一対多の訓練や複数人で大物の魔物等を想定する時に使う。こっちの個室は邪魔されずにじっくりと腰を据えて一対一や少人数で反復訓練をしたり実験したりする奴向けだ」

「なるほど」



 用途に分けて色々と実験できるのはありがたい。魔法の試し撃ちには最適だろう。当面はこっちに籠ることになりそうだ

 それとも、その内僕も誰かとパーティを組んだりするのだろうか?

 その場合はオープンスペースに行く事もあるかも知れない。



「随分と設備が充実しているんだね」

「まあここは中世ヨーロッパじゃなくて現代、かつお客様は地球よりもずっと文明の進んでいる宇宙人と地球の魔法使いだからね。ギルドとそのメンバーは言ってみれば単発とは言え雇用契約を結んだ従業員。当然コンプライアンスは気にしないといけないし、福利厚生の一つや二つ準備しておくのは当然の事だよ」



 さすがに魔物との戦闘で負傷しても回復魔法もあるし労災は下りないけどね。


 そう笑う伊集院君と共に個室に入ると、一面無機質な黒で統一された部屋が目の前に広がる。

 入口の横にはタッチパネルが宙に浮いており、部屋の反対側には案山子が一つだけ立っている。



「このコンパネは案山子の設定を変更するものだ。サイズや姿形を変えたり、的をぶら下げたり、後は動かしたりする時にここを操作する」



 画面を覗いてみると言語選択欄があり、伊集院君はこれを『English』に設定すると『SHAPE』と書かれた項目を『DEFAULT』から『SNAKE』に変更し、SIZE欄を『XL』にすると案山子が巨大な蛇状……と言うよりも東洋の龍を連想するものに変化する。


 『TARGET』と書かれた項目をオンにして紅白の的をその案山子にぶら下げると、そのサイズをXSを超えて『MIN』にして、極小サイズの的の位置を操作し、案山子の首元にその的を異動させた。


「例えばこうすれば逆鱗を狙う訓練をする事が出来る」


「すごい!」



 率直に便利だ。このトレーニングルームは本当に色々と用途がありそうだ。


「予約は受付で行うかスカウターでオンライン予約する事が出来る。部屋数はたくさん用意しているから基本その場で入れるけど、時期によっては若干混む事もある」


「分かった」


 案山子がデフォルトの状態に戻されると、彼は此方に向き直った。



「さて、君を呼んだのはさっきも言ったように魔法について教えるためでね。魔法について何も知らないのに危ない橋を渡ったと聞いた。突然魔法を使えるようになって嬉しいのは分かるが、この世界はゲームやアニメのようにレベルアップすれば技を覚えられる様な場所じゃない。十分に気を付けてくれ」


「うっ……すみませんでした……」



 ジト目で伊集院君はしばらくこちらを睨むと、やがて眼を閉じてため息をついた。



「まあいい。ではまず君は魔法がどのような原理で発動するかと言うのは調べたかい?」

「うん」


 魔法。


 初心者用の魔導書がギルドに併設されている書店で売られていたのでそれを買って読んで見た所、何でも魔素スペリウムと呼ばれる原子によって生じる現象の総称である、と書かれていた。

 宇宙人によっては専用の臓器で魔力が作られ神経のようなもので全身に運ばれるとか書いてあったが、地球人は肝臓で作られて血流にのって全身に魔力が行き届くらしい。

 魔法の行使には呪文が必要であり、呪文を唱えると魔力が放出されて超常現象を起こすとされている。


 ……と、ここまで説明すると伊集院君はうんうんと頷いた。



「概ねいいね。正確には魔力は常時放出されているもので、詠唱するとこれが特定の配列になって効果を発揮するんだ。この特定の配列と言うのが俗にいう魔法陣」



 そういうと彼は案山子に向けて手を翳した。


「もっと細かく言うと、詠唱はあくまでも補助的なもので、基本は必要ない。身体に纏っている魔力は指向性をかなり細かく持たせる事が出来て、魔法陣を空中に作ることも出来るからそれをマスターさえすれば詠唱を破棄して魔法を使うことも出来る」


 彼の手のひらに火の玉が出現し、案山子の頭に向かって放たれると火の玉がゆっくりと漂うようにして命中する。


 今のは、無詠唱だ。


「じゃあ、どうして詠唱なんてするの?」


「詠唱を行うと、呪文を唱える際に口から出る音波の波形・音の振動で魔法陣を作る事が出来る……音波が波形なのは分かるよね?」

「う、うん」



 突然の質問に、思わず反射的に頷く。

 音って波形だったっけ……?


「ならよかった。詠唱は、音の振動を使う事で体内や身体に纏っている魔素を、魔法陣と言う特定の形に誘導しやすくするためにある。だから最初の内は詠唱をして魔力の流れ、魔力の形を体で覚えて、慣れてきたら詠唱を破棄出来るように訓練するといい」


 無詠唱で魔法なんて使える時が果たして僕には来るのだろうか。

 そんなことを考えていると、伊集院君は次に手のひらに拳銃を出現させた。


「話ついでに、武器が存在して皆が皆武器を携帯している理由については知ってる?」


「武器?」

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